写真:「Japan Drone 2026」会場の様子

「Japan Droneは、正直に言えば、かなり退屈な展示会だ」

Japan Drone 2026の会場で、海外の実業家からこの言葉を聞いた。

かなり率直な表現である。日本のドローン産業に長く関わってきた立場からすれば、少し厳しすぎるようにも聞こえる。実際、今年の会場は決して閑散としていたわけではない。むしろ、体感としては例年以上に人が多く、海外パビリオンにも明らかな存在感があった。Japan Drone 2026は第11回の開催となり、主催者発表の開催概要でも、次世代エアモビリティEXPOとの2展合計で出展者数300社・団体、来場者数2万4000人を見込む規模となっていた。

展示会としては、十分に熱気があった。

それでも、この一言が頭から離れなかった。

なぜなら、ここで言う「退屈」とは、会場のにぎわいや来場者数を指していたのではないからだ。技術がない、企業がない、ユースケースがない、という意味でもない。むしろ違和感の正体は、日本のドローン産業が海外勢にとって「売り先」として見られる一方、世界の買い手が日本から調達しに来る産業プラットフォームには、まだなり切れていないのではないか、という点にあった。

深圳のドローン展示会は、単に機体が並ぶ場所ではない。機体、部品、センサー、バッテリー、通信モジュール、AI、カウンタードローン、低空経済インフラまで、産業システムそのものが会場に現れる。そこにあるのは、製品展示ではなく、設計し、調達し、組み立て、改良し、量産するエコシステムのスピードである。

アメリカの無人システム関連展示会も、また別の緊張感を持つ。防衛、デュアルユース、自律化、公共調達、ベンチャーキャピタル、国家安全保障が同じ文脈の中で語られる。問われているのは、何が飛べるかだけではない。何が資金を得て、現場に投入され、実際に運用されるのかである。

Japan Droneは、そのどちらとも違う。

深圳のように量産力を前面に押し出す展示会ではない。アメリカのように、防衛調達や資本市場の緊張感が会場全体を包んでいるわけでもない。グローバルバイヤーがその場で調達先を選び、世界市場へ持ち出す製品を探しているような空気も、まだ十分には見えない。

しかし、それはJapan Droneに価値がないという意味ではない。

むしろ今回のJapan Droneを歩いて感じたのは、日本のドローン産業が、深圳ともアメリカとも異なる形で進化し始めているということだ。インフラ、防災、自治体、大企業、規制、サプライチェーン政策、慎重な社会実装。これらが複雑に重なりながら、日本独自のドローン産業の輪郭を作り始めている。

問題は、その価値が、グローバルバイヤーにとって認識しやすく、購入しやすく、スケールしやすい形に、まだ翻訳されていないことではないか。

1兆円市場に必要なのは「実証」ではなく「調達」

日本のドローン市場には、成長期待がある。

インプレス総合研究所の調査では、2025年度の国内ドローンビジネス市場は4973億円、2030年度には9544億円に達すると予測されている。2025年度から2030年度までの年平均成長率は13.9%とされ、土木・建築、点検、周辺サービスなどでの拡大が見込まれている。

数字だけを見れば、国内ドローン市場は1兆円規模に近づきつつある。

しかし、市場予測は、それ自体では市場ではない。

市場には、買い手が必要である。予算が必要である。調達仕様が必要である。導入後の運用、保守、継続利用が必要である。さらに産業として成立するには、単発の実証ではなく、繰り返し発生する需要が必要になる。

この10年、日本のドローン業界は、ドローンが有用であることを証明してきた。農業、測量、インフラ点検、物流、防災、警備、公共安全。数多くの実証が行われ、制度も整備され、ユースケースも蓄積されてきた。

もはや、ドローンに使い道があるのかという問いは、業界関係者にとって主要な論点ではない。

より難しいのは、そのユースケースを調達に変えることだ。

日本にはドローン企業がある。技術もある。老朽化するインフラ、労働力不足、災害対応といった社会課題もある。ドローンは未来のぜいたく品ではなく、物理世界を維持するための実務的な道具になりつつある。
それでも、日本のドローン産業は、まだ「実証と期待」の段階から、「調達と市場形成」の段階へ完全には移行していない。

1兆円市場を本当に作るために必要なのは、技術の証明ではない。買い手を生み出す仕組みである。

脱中国の追い風を誰がつかむのか

今回、特に印象的だったのは海外勢の存在感である。

ただし、単に海外企業が増えたという話ではない。Japan Droneには、これまでも中国企業や海外企業が出展してきた。今年違って見えたのは、海外勢の重心が、中国から、脱中国サプライチェーンの中で自国の立ち位置を作ろうとする国々へ移り始めていたことだ。

象徴的だったのが台湾である。台湾のドローンおよび航空宇宙関連企業は、パビリオンとしてまとまり、日本市場に向けて強いメッセージを発していた。これは、単なる海外企業の集合ではない。台湾の産業能力を、日本が求め始めている信頼できる非中国系サプライチェーンに接続しようとする動きに見えた。

ベトナムにも近い文脈がある。

台湾もベトナムも、外国企業の製造委託やOEMを担ってきた歴史がある。部品供給、コスト管理、納期、品質管理、グローバル顧客の要求を理解している。経済規模では日本より小さくても、世界中の製造委託を受けてきたことで、日本のドローン企業が単独では確保しにくい生産量を持つことができる。

この生産量は重要だ。部品コストを下げ、製造学習を早め、サプライチェーンの柔軟性を高める。

いくつかのブースで話をしていて印象に残ったのは、単なる売り込みではなかった。彼らは、生産能力、部品品質、コスト競争力、納期の信頼性について、グローバル顧客に評価されることに慣れた企業の自信を持って語っていた。

日本に対して、「安い代替品として見てほしい」と言っているのではない。

むしろ、「より優れた産業パートナーとして見てほしい」と主張しているように感じた。

これは日本にとって、少し不都合だが、直視すべき現実である。日本はしばしば、製造品質を自然な強みのように語る。もちろん、多くの分野でその信頼は今も残っている。しかし、ドローンのサプライチェーンにおいて、品質への自信はもはや日本だけのものではない。

脱中国の受け皿は、自動的に日本になるわけではない。

各国政府や企業が、高リスクな依存からの脱却を模索する中で、日本には新たな機会がある。しかし、台湾、ベトナム、韓国、インド、欧州、アメリカもまた、同じ「信頼できるサプライチェーン」のポジションを狙っている。

日本が「信頼」を語る間に、他国は「品質」「納期」「価格」を同時に提示している。

「非中国」であることが、そのまま「日本」を意味するわけではない。日本は、自らがどの領域で不可欠な存在になれるのかを定義しなければならない。

ウクライナが示した商談の緊張感

ウクライナ勢の存在は、また別の重みを持っていた。

ウクライナのドローン産業は、平時の産業では想像しにくい環境の中で動いている。戦時下の緊急性、現場からのフィードバック、高速な改良、そして産業能力と国家の生存が直接結びつく現実。その中で磨かれてきた技術や事業感覚は、一般的な商業開発とは異なる時間軸を持つ。

General Cherryのブースは、その空気感をよく表していた。同社はウクライナの防衛テック企業で、Co-FounderのStanislav Gryshyn氏は、会場の商談席中央に座り、選別された面会者と真剣な表情で商談を進めていた。

その姿は、会場の多くに見られた視察的な空気とは明らかに異なっていた。

ブースは、興味本位の来場者に広く開かれているというより、本気の商談のために設計されているように見えた。この緊張感は、来場者によっては少し居心地悪く感じられたかもしれない。しかし、私はむしろ、これこそがトレードショーの本来の姿ではないかと感じた。

トレードショーは博物館ではない。来場者がパンフレットを集め、写真を撮り、視察して終わる場ではない。本来は、売り手が適格な買い手と出会い、技術が市場需要に照らして評価され、会話が次の意思決定につながる場である。

General Cherryの存在は、そのことを思い出させてくれた。

Japan Droneは、礼儀正しく、教育的で、探索的な展示会に見えることがある。それ自体は悪いことではない。日本が新しい技術を規制環境や社会実装の中に慎重に導入していく姿勢を反映しているとも言える。

しかし、産業が実証や政策議論を超えて成長するには、単に「見られる」ためではなく、事業を進めるための緊張感も必要になる。

日本は「売り先」から「買われる産業」になれるか

今回のJapan Droneで最も重要な論点は、売り手と買い手の関係である。

売り手はいた。

しかし、買い手側からの強い引力は、まだ十分には見えなかった。

ここで言う買い手とは、日本企業、自治体、インフラ事業者、政府機関を指しているのではない。もちろん、そうした来場者は存在したし、日本には現実の国内需要がある。インフラ点検、防災、公共安全、建設、エネルギー、産業メンテナンスなど、ドローンが役立つ領域は多い。

問題は、日本にユースケースがないことではない。

問題は、その需要が大規模な調達へ十分に変換されていないこと。そして、日本のドローン企業に向かうグローバルバイヤーの流れに、まだ変換されていないことだ。

今回、海外から参加している多くの企業や関係者は、日本を市場として見ていたように感じた。日本に売るため、日本のパートナーを探すため、日本の規制を理解するため、自社製品を日本のサプライチェーン需要に接続するために来ていた。つまり、多くはセラー側の動機を持っていた。

一方で、韓国や中国の展示会で見る光景は少し違う。そこでは、企業が売ろうとしているだけでなく、海外からの参加者が製品や部品を調達し、評価し、別の市場へ持ち出そうとしている。展示会のフロアは、現地の産業能力とグローバル需要が出会う場所になる。

Japan Droneは、まだそのようには見えなかった。

どちらかと言えば、日本に売りに来るインバウンド市場としての色合いが強く、日本から調達し、世界へ持ち出すアウトバウンド型の産業プラットフォームには、まだなり切れていない。

冒頭の「退屈」という言葉は、この文脈で捉えると単なる批判ではない。

それは、技術がないという意味ではない。

買い手側からの引力が、まだ十分に見えないという指摘だったのではないか。

もちろん、展示会のフロアだけですべての商談が見えるわけではない。重要な会話は、会場外の個別会議や会期後のフォローアップで進むことも多い。したがって、会場で目立たなかったからといって、日本のドローン技術に対するグローバル需要が存在しないと結論づけるのは早計である。

しかし、展示会は方向性を映す。

誰が切迫感を持って来ているのか。誰が自信を持って売っているのか。誰がサプライヤーを探しているのか。誰が顧客を探しているのか。その空気は会場に表れる。

その意味で、Japan Droneはまだ、海外企業が日本に売りに来る場としての色合いが、日本に買いに来る場としての色合いよりも強いように見えた。

これは、日本のドローン産業の国際競争力を考えるうえで重要な指標である。

国産化は目的ではなく、手段である

世界の多くの国々と同様に、日本もドローンのサプライチェーンをより真剣に捉え始めている。

2026年に公表された経済産業省の方針では、2030年時点で無人航空機約8万台の国内量産基盤を構築することが目標として示された。ドローンは、物流、点検、防災、公共安全、重要施設監視などに関わる技術となりつつあり、経済安全保障の文脈でも重要性が高まっている。

この方向性自体は正しい。

しかし、ここで問うべきは「国産機を増やせるか」だけではない。

国産化は目的ではない。産業能力を残すための手段である。

日本は何を国内に保持すべきなのか。何を海外の信頼できるパートナーと接続すべきなのか。どのレイヤーを失うと産業の主導権を失うのか。

飛行制御、通信、暗号化、サイバーセキュリティ、重要部品、センサー、UASトラフィックマネジメント、データ基盤、AI解析、試験・認証インフラ、量産と品質保証。これらは単なる製品機能ではない。平時にも有事にも、国がドローンシステムを信頼し、維持し、改良し、運用できるかを決める産業能力である。

これを「選択的主権性(Selective Sovereignty)」と呼びたい。

選択的主権性とは、すべてを国内で作ることではない。すべてのネジ、センサー、基板を国産化することでもない。失うには重要すぎるレイヤーを見極め、そこに政策支援や公的資金を投じることである。

同時に、主権性は孤立を意味しない。

ドローン産業において、サプライチェーンを無視できる国はない。部品、センサー、チップ、バッテリー、ソフトウェア、通信モジュール、製造プロセスは深く国際化されている。重要なのは、相互依存をなくすことではなく、設計することだ。

だからこそ、接続性が重要になる。

台湾やベトナムを含むパートナーは、日本の能力を置き換えるから重要なのではない。日本の能力を拡張し得るから重要なのである。認証、調達、共同実証、輸出管理、試験環境、共同研究開発などにおいて、政府間で信頼できる回廊を作ることも必要になるだろう。

国産か、海外製か。

その二分法は単純すぎる。

問われているのは、日本が何を持ち、何を守り、どのように信頼できるパートナーと接続するかである。

実証から調達へ、需要創造が問われる

選択的主権性と信頼できる接続性があっても、需要が弱ければ産業は育たない。

日本は、技術開発、慎重な実証、ステークホルダー調整、合意形成が得意である。これは強みだ。インフラ、公共安全、規制が複雑に絡み合う国においては、特に重要な能力である。

しかし、産業は実証だけでは作られない。

誰かが買い、使い、また買うことで作られる。

日本国内の潜在的な買い手は明確だ。国や自治体は災害対応ツールを必要としている。電力、鉄道、通信、建設、製鉄、石油化学、物流などの企業は、点検、監視、メンテナンスが必要な物理アセットを抱えている。防衛・安全保障関連機関も、ドローンをより広い技術・産業基盤の一部として考える必要がある。

したがって、需要が存在しないわけではない。

問題は、その需要が調達に変換されていないことだ。

調達に変えるには、機体を売るだけでは足りない。運用体制、操縦者、データ処理、報告書、保守、責任分界、継続契約まで含めて、買い手が導入できる形にしなければならない。自治体やインフラ事業者にとって重要なのは、ドローンそのものではなく、業務の中で使えるサービスとして機能するかどうかである。

実証から調達へ。視察から導入へ。補助金主導のプロジェクトから継続的なビジネスへ。国内での信頼性から国際競争力へ。

次の10年に問われるのは、この転換である。

日本のドローン産業が必要としているのは、単に良い機体を作ることではない。買い手を作ることである。調達システムを作ることである。日本の技術を世界に持ち出す産業連携を作ることである。

Japan Droneは、深圳ではない。アメリカでもない。ウクライナでもない。

それは、日本自身の産業的な方法を映す鏡のように見える。慎重で、インフラ主導で、政策を意識し、可能性を調達に変えるまでに時間がかかる。

それは強みでもあり、弱みでもある。

Japan Droneの次の10年は、日本が国産ドローンを作れるかだけで定義されるものではない。

有望な技術を、国家の能力とグローバル競争力へ変える買い手、調達システム、産業連携を日本が作れるかによって定義される。

Japan Droneは、深圳やアメリカではないから遅れている、という話ではない。

むしろ、別の何かになりつつある。

問われているのは、その進化が、グローバルバイヤーにとって十分に見え、十分に有用で、十分に商業的に信頼できるものになれるかどうかだ。

1兆円市場は、予測だけでは生まれない。

買い手を作り、調達を作り、世界に接続して初めて、市場になる。

※本稿は、筆者がLinkedInのNewsletterで発行している「Sunday Note」の日本語版として加筆・再構成したものです。