産業用ドローンでは長時間飛行へのニーズが高まる一方、バッテリーでは飛行時間に限界があることから、水素燃料電池を活用したドローンの開発が期待されてきた。しかし、水素供給インフラや運用体制などの課題もあり、国内で継続的に開発を続ける企業は多くない。
こうした中、水素燃料電池ドローンの開発を早くから進めてきたロボデックスは、6月3日から5日にかけて千葉県・幕張メッセで開催された「Japan Drone 2026」において、電力会社と共同開発を進める新型水素燃料電池ドローンのプロトタイプ「AERION GRID」を公開した。同社は国産を念頭に置き、機体だけでなく、燃料電池やフライトコントローラー(FC)まで含めて一体で開発を進めており、水素ドローンの実用化に向けた取り組みを紹介した。
水素燃料電池ドローン普及の壁は「飛ばすこと」ではなく「運用すること」
水素燃料電池ドローンは2018年前後から国内外で開発が進められてきたものの、国内では現在も継続して水素燃料電池ドローンを開発する企業は数少ない。ロボデックスは、水素燃料電池ドローンがまだ周知される以前から開発を継続してきた数少ない国内メーカーの一つだ。
その背景のひとつが、水素供給インフラの課題である。一般社団法人次世代自動車振興センターによると、国内の商用水素ステーションは2026年7月時点で141カ所まで整備が進んでいる。一方、ドローン用の水素タンクは自動車に比べて小型で、一度に充填する水素量も少ないことから、水素供給事業者にとって採算を確保しにくい。このため、ドローン向けの供給環境は十分とはいえず、水素燃料電池ドローン普及の課題の一つとなっている。
ロボデックスはこうした課題に対し、2025年のJapan Droneでトラック内部を水素充填設備とした移動式水素ステーションを公開するなど、機体だけでなく運用インフラも含めた開発を進めてきた。
▼一般社団法人次世代自動車振興センター-全国の商用水素ステーション(2026年7月時点)
https://www.cev-pc.or.jp/suiso_station/index.html
型式認証も見据えた独自の3軸二重反転構成
AERION GRIDでまず目を引くのが、3軸(トライコプター)二重反転という独特な機体構成だ。
上下のプロペラは単純に重ねるのではなく、空力解析をもとに一定の間隔を設けて配置。同社によると、上下で回転数を最適化することで飛行効率の向上を図っているという。また、ヘリコプターとマルチコプターを融合させたようなトライコプター型を採用した。これは将来的な型式認証取得も見据え、複数あるプロペラの一部に不具合が生じた場合でも飛行を継続できる冗長性を考慮した設計によるものだ。
一般的に同等の冗長性を確保しようとすると機体が大型化しやすいが、二重反転のトライコプターとすることで、機体サイズを抑えながら安全性との両立を目指している。
燃料電池メーカーと共同でドローン向けシステムを開発
AERION GRIDには、日進製作所グループと共同開発を進めるドローン向け水素燃料電池を搭載する。例えば、燃料電池は自動車用を単に小型・軽量化するだけではドローンには適用できない。ドローンでは離陸時や姿勢制御時に瞬間的な大出力が求められるためだ。一方、燃料電池には安定して出力を立ち上げるための特性がある。そのため、燃料電池単体ではなく、ドローン側も含めて最適化しなければ実用的なシステムにはならないという。
ロボデックスでは、実証試験を重ねながら燃料電池メーカーと改善を繰り返し、ドローンに適したシステムを共同で開発している。国内企業との連携により、実証結果を迅速に開発へ反映できることも強みとしている。
飛行制御も自社開発、目指すのは統合設計
フライトコントローラーはスクラッチによる開発を行っている。
従来機では汎用のフライトコントローラーを採用していたが、AERION GRIDでは燃料電池の特性に合わせた制御を行うため、ハードウェア・ソフトウェアの両面を独自に設計している。
特に重視しているのが、フライトコントローラーとESC(モーター制御装置)の連携だ。モーターの実際の回転数をフィードバックしながら制御することで、より高い飛行安定性やホバリング性能の実現を目指している。同社が目指すのは、機体、燃料電池、飛行制御を個別に開発するのではなく、一つのシステムとして最適化することだ。水素燃料電池ドローンならではの性能を引き出すため、各要素を一体で設計している。
2時間超の飛行を目標に、水素ドローンの実用化を目指す
AERION GRIDは、2時間を超える飛行時間を目標としている。
従来機では条件が良い場合に約2時間の飛行が可能だったが、通常運用では約80分程度だったという。新型機では風などの環境条件下でも2時間を超える飛行性能を目指す。機体重量は燃料系を含め約10kgを目標としており、現在は約11〜12kgまで軽量化が進んでいる。折りたたみ構造を採用し、大人1人でも持ち運べる運用性も追求しているという。
一方で、水素ドローンの普及には、寒冷地や高所での環境性能、水素供給体制、量産時の品質確保など、解決すべき課題も残されている。それでも今回の展示から見えてきたのは、ロボデックスが目指しているのは単に飛行時間の長いドローンではないということだ。機体、燃料電池、飛行制御、そして運用インフラまで含めて一体で設計することで、水素燃料電池ドローンを「飛ばせる技術」から「現場で使える製品」へと進化させようとしている。
水素燃料電池ドローンは、機体性能だけでなく燃料供給や運用体制まで含めて実用化を進める段階に入りつつある。ロボデックスの取り組みは、その現在地を示す事例の一つといえそうだ。
#Japan Drone 2026 記事
