ソフトバンクは「空飛ぶ基地局」の意味を持つ無人航空機HAPS(High Altitude Platform Station)の機体「Sunglider」の1/10スケール模型や、技術紹介パネル、光無線通信の概要紹介パネルを出展した。
成層圏からの4G・5G通信でドローンの安定した運航を実現
HAPSが飛行するのは地上から高度約20kmの成層圏だ。雲がなく常時太陽光が降り注ぐ環境を生かし、機体に搭載したソーラーパネルで発電して燃料を得る。また、バッテリーを搭載して充電し、電力は夜間の飛行に活用する。成層圏は風も弱いため、HAPSは理論的には半永久的に飛行することができる。
Sungliderは両翼が約78mに及ぶ無尾翼固定翼機。両翼に合計10発のプロペラを持つ。翼の上部にはソーラーパネルが余すことなく設置されている。2020年9月に米国ニューメキシコ州で成層圏飛行に臨み、総フライト時間20時間16分、成層圏滞在時間5時間38分、LTE通話試験成功といった成果を上げた。2024年には米国国防総省の実証実験にも利用されている。
これまでの実験で得た知見をもとに、さらに性能を向上させる研究にも着手している。新型の翼構造を研究し、モーターでは軽量で成層圏の低圧環境でも放熱ができるHAPS専用タイプを開発済み。バッテリーやソーラーパネルもより効率的に使用できるように研究を進めている。2023年には実機より縮尺を小さくしたサブスケールモデルを開発してデータ収集を行い、商用化に向けて機体改良を実施している。
HAPSを成層圏のような超高高度で飛行させる理由は、衛星通信よりも低遅延で大容量の通信が可能になると考えられているためだ。また、超高高度から発信する電波は、その下を飛行するドローンの運航に活用できる。「LTE電波を使用してドローンを飛行させる場合、地上の基地局からの電波が取得できないケースもあります。そのときにHAPSが発信する電波で運航させられるわけです。ドローンのスワーム(群体)飛行に使えるのではというお話もいただきました」と担当者は話す。
また、HAPSを利用するもう一つの大きな理由は、通信環境の冗長化だ。
携帯電話の基地局は地上に設置されている。4Gの電波は基地局から半径数km程度、高周波数帯を扱う5Gの電波は、減衰が4Gよりも著しいので基地局から半径800m程度の範囲で飛んでおり、地上では電波の飛ぶ範囲を考慮しながら基地局が立てられている。電波の飛ぶ距離が短い5Gの基地局は、当然4Gよりも多く建てる必要がある。
昨今では地震や水害といった災害のたびに基地局が被害を受け、携帯電話が不通になるといった事例が起きている。そこで携帯電話各社は対策として、被災地への車載型基地局の派遣や、ドローンに基地局を搭載して空中で電波を中継するといった取り組みを行っている。
ドローンと同様に空を飛ぶHAPSは地上での被害を受けないので、非常時においても安定した通信環境が実現できるのではと期待されているのだ。
HAPSと低軌道衛星が連携、セキュリティ向上や冗長化の狙い
現在、地上と国際宇宙ステーションのような低軌道(LEO)衛星とは、直接無線通信を行っている。加えて、HAPS~LEO間の通信状況が良好という条件を生かして、地上~LEO間の通信にHAPSを経由するルートの構築も検討されている。これもまた冗長化対策の一環といえるだろう。なお、HAPS~LEO間の通信は大容量で指向性とセキュリティに優れている光無線通信の利用を想定しており、2026年に世界初の実証実験が予定されている。
HAPSの実用化に向けて課題もある。まず飛行可能な時間や使用電力と関わりがあることから、ペイロードとして搭載する無線機を小型化、軽量化しなくてはならない。また、通信が途絶えないように、機体の揺れや動きへの対策を講じる必要がある。これはトラッキング技術を導入することで、解決の道筋がついたようだ。さらに、成層圏から地上まで約20kmにおよぶ長距離通信を安定して実施できなくてはならない。これらが解決できた先に、空飛ぶ基地局が離陸する未来が訪れるのだ。
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