古河電工グループの商社である古河産業は7月13日、福島県いわき市のドローンメーカー、ドローンWORKシステムと共同開発した重量物運搬ドローン「EAGLE85」の飛行試験を実施した。最大85kgの資機材を運搬できる機体で、主に山間部の送電線工事などにおける資材輸送への活用を想定する。
古河産業は2022年からドローンによる重量物運搬事業を展開している。初年度に約5トンだった年間輸送量は、2023年に約40トン、2024年に100トンを超え、2025年には約220トンまで拡大した。2026年は300トンを超える案件の相談が寄せられているという。
EAGLE85は、こうした運搬現場で蓄積した経験をもとに、従来の75kg積載機「EAGLE75」を大幅に改良した機体である。古河産業によると、外観はEAGLE75に近いものの、年間220トン規模を運搬した際に発生したトラブルや課題を反映し、内部構成を大きく見直したという。
塗料缶の運搬から始まったEAGLEシリーズ
送電線の鉄塔は山間部に設置されていることも多い。工事現場まで車両が入れない場合には、歩荷(ぼっか)と呼ばれる荷揚げ作業員による人力運搬のほか、工事用モノレールやヘリコプターなどが利用されてきた。
古河産業が重量物運搬ドローンを開発するきっかけとなったのも、こうした現場の課題だった。最初の開発ターゲットとなったのは、株式会社東設土木コンサルタントが開発した「ポータブル貫入試験機」だ。山間部の調査現場まで人力やモノレールで運搬していた試験機を、49kg以下に分割してドローンで運べるようにすることを目指した。同時に、鉄塔の塗装工事で作業員が山中まで背負って運んでいた塗料缶など、送電工事におけるさまざまな資機材の運搬もターゲットとしていた。こうした現場のニーズを踏まえ、最大49kgを積載する「EAGLE49」を開発し、2022年に運搬業務を開始した。その後、輸送需要の増加に合わせて75kgの「EAGLE75」へ積載能力を拡大し、今回85kgの「EAGLE85」を開発した。
一方で、単純に積載重量を増やすことだけが開発目的ではない。EAGLE75を全国の現場で運用するなかでは、開発時に想定していなかったトラブルも発生したという。問題が起きた際にはドローンWORKシステムの開発担当者が現場に入り、古河電工グループのものづくり部門も交えて原因を検証してきた。古河産業の担当者はEAGLE85について、「見た目は従来機に近いのですが、中身は大きく異なります」と説明する。モーター出力に余裕を持たせたほか、上昇・下降速度や飛行時の安定性を高めるなど、実際の運搬業務から得た知見を設計に反映している。
80kgの資材や長尺物を使って飛行試験
7月13日の飛行試験は、ドローンWORKシステムのいわき内郷工場で実施した。飛行距離は片道130m、往復260mで、片道の所要時間は約1分だった。
試験では、塗料缶やシンナーなどの危険物輸送を想定したパワードラムに水を入れ、計80kgとしてモッコ(網状の運搬用具)で搬送した。このほか、面積が大きく風の影響を受けやすいコンパネや、工事現場で使われる単管などを想定した長尺物も運んだ。
EAGLEシリーズには、吊り下げた荷物の揺れを機体側の飛行制御によって抑える機能を搭載する。同社によると、風などで荷物が振れた場合でも、機体がその動きを打ち消すように制御し、揺れを約1.5回以内で収束させるという。また、レベル3.5飛行も見据え、EAGLE85には前方・下方カメラも標準装備した。
荷下ろしにも、実際の運用から得たノウハウが反映されている。同社は過去に荷物を自動で切り離す機構も使用していたが、長尺物を縦吊りした場合、地面に接した際に荷物が立ち上がり、その状態で切り離されて倒れるケースがあったという。このため現在は、荷物を地面まで下ろして動かないことを確認したうえで、作業員が吊り具を取り外す方法を採用し、安全性を重視している。
7月13日の試験は“実証試験”として発表されたが、EAGLE85はすでに実際の工事現場にも投入されている。古河産業によると、試験の約1週間前には電力関連の工事現場で82kgの変圧器を運搬したほか、別の現場でも80kgを超える変圧器を搬送しており、ペイロードを拡充した効果を発揮している。
モノレールやヘリ、人力運搬の間を埋める
古河産業が重量物運搬ドローンの適用先として重視しているのが、モノレールやヘリコプターを投入するほどの物量ではない一方、人力で運ぶには負担の大きい工事だ。例えば工事用モノレールは、長期間にわたる大規模工事では有効な運搬手段となる。一方、ガイシ交換など短期間で完了する工事の場合、そのためだけにルートを整備してモノレールを設置することは、費用や工期の面で現実的ではないケースもある。
また、山間部では資材を運ぶためのルート確保に伐採や地権者との調整が必要になる場合もある。ドローンであれば、離着陸地点などを確保することで、地上に連続した運搬路を設けずに資材を輸送できる。古河産業の担当者は「最初はヘリやモノレールを置き換えるものと考えていましたが、実際に現場へ入ると、それぞれに適した領域があることが分かってきました」と話す。現在は、数トン規模の資材を短期間に運ぶような案件が、ドローンの特徴を生かしやすい領域の一つだとみている。
機体販売ではなく「運搬業務」を提供
EAGLEシリーズは、機体そのものを広く販売することを主目的とした製品ではない。古河産業は、自社の運搬業務で使用する機体としてEAGLEシリーズを開発しており、操縦や現場管理を含めた役務として重量物輸送を提供している。
取材時点ではEAGLE49を5機、EAGLE75を2機、EAGLE85を4機保有するほか、DJIの重量物運搬ドローン「DJI FlyCart 100」も4機運用しているという。現場ではEAGLEとFlyCartを同時に持ち込むこともある。送電線工事では停電を伴う作業のスケジュールがあらかじめ決まっており、ドローンのトラブルによって資材輸送が止まれば、その後の工事にも影響する。そのため、一方の機体に問題が発生した場合でも、別メーカーの機体に切り替えて輸送を継続できる体制を取っている。機体の性能だけでなく、こうした運航体制も同社が重視する点だ。直営では4人1組の運航班を3班編成し、パートナー企業とも連携して全国の現場に対応している。担当者は、「インフラの工事では、安全意識や作業計画が重要になります。安さだけではなく、安心して運搬を任せてもらえる体制を作っていきたいと考えています」と話した。
大型化しても「山へ持ち込める機体」に
今後さらに積載量を増やした機体を開発する可能性について、古河産業は単純な大型化には慎重な姿勢を示す。理由の一つが、機体そのものを山間部へ運ぶ必要があるためだ。現在のEAGLEシリーズは、ハイエースなどの車両で現場近くまで運び、短時間で展開して飛行できるサイズを重視している。「ドローンのメリットをなくさないサイズ感が重要です。現場に持っていき、すぐに下ろして飛ばし、終わったら回収して帰れる。山の中の運搬では、そうした機動性が求められます」という。
最大積載量を85kgまで高めながら、山間部で取り回せる機体サイズを維持するEAGLE85は、単なる大型化ではなく、2022年から積み上げてきた重量物運搬の現場経験を反映した機体といえる。古河産業は今後も実際の運搬業務を続けながら、そこで得た課題や知見を次の機体開発へフィードバックしていく考えだ。
