近年、災害支援におけるドローン活用への期待が高まっている。2024年1月に発生した能登半島地震では、被災状況の確認や仮設住宅建設に向けた事前測量などでドローンが活用された。

 なかでも注目を集めたのが、医薬品や紙おむつなど生活物資の配送である。石川県輪島市では、徒歩で5~6時間を要する孤立集落へ、ドローンを使って約10分で物資を届けた事例も報告されている。災害によって道路が寸断されると、物資を運搬できるルートは空路しか残されないケースも少なくない。しかし、災害が発生してからドローンを運用しようとしても、ドローンに対する最低限の知識や運航体制が整っていなければ即座に活用することは難しい。そのため、平時からドローンを活用したフェーズフリーの体制を構築しておくことは、災害対応力を高めるうえで重要な取り組みといえる。

 一方で、都市部で大規模災害が発生した場合、高層ビルに取り残された人たちの救助が必要となり、空路の確保はより重要となる。都市部では距離を飛行する「横方向」の輸送だけでなく、高度を上げる「縦方向」の輸送も重要になる。高層ビルが立ち並ぶ都市では、上層階への物資供給という課題があるためだ。

 2011年の東日本大震災では、停電によりエレベーターが停止し、高層階に取り残された人々へ支援物資を届けるため、地上と50m程度の高さにあるフロアを人力で何度も往復したケースもあったとされる。こうした状況では、ドローンを利用することで、高層階へ効率的に物資を輸送できる可能性がある。ドローンによる物流は、孤立集落への「横方向」の輸送だけでなく、地上から高層階へ届ける「縦方向」の輸送手段としても期待されているのだ。

 こうした活用を想定した実証実験が、6月7日に東京都千代田区の複合施設「ワテラス」で実施された。防災訓練の一環として、高層ビル屋上へ飲料水を輸送する内容で、ドローンの運用はドローンスクール東京を運営するハミングバードが担当した。

高層ビル屋上への物資輸送を実証

 実証の舞台となったワテラスは、JR御茶ノ水駅から徒歩約3分、神田淡路町に位置する複合施設だ。約1万m²の敷地内には「ワテラスタワー」と「ワテラスアネックス」が建ち並び、オフィスや住宅、商業施設、ホールなどが集積している。

写真:広場に設置されたドローンの離着陸場、付近に集まるスタッフ
ワテラスタワー(左)とワテラスアネックス(右)の中間に広場があり、機体の離着陸場所となった。

 今回の実証では、2棟の間に設けられた広場を離着陸地点とし、41階建てのワテラスタワー屋上まで飲料水を輸送した。タワーの建物高は164.8mであるため、航空法で規制される「地表・水面から150m以上の空域」に該当する。実証にあたっては、通常の飛行申請に加えて150m以上の高度で飛行するための許可を取得している。なお、大規模災害が発生した場合は、航空法第132条の92に基づく「捜索・救助等の特例措置」によって許可・承認を得ずに一時的に飛行させることが可能になるケースが多い。

 今回の実証現場である千代田区は官公庁が集まる地域であり、「小型無人機等飛行禁止法」による飛行規制も考慮する必要がある。しかし、実証を行った6月7日は改正小型無人機等飛行禁止法が施工される前となっており、規制範囲には該当しなかった。※改正小型無人機等飛行禁止法は2026年7月14日施行。

 実証に用いられた「DJI Matrice 400」は、2025年6月に発売された機体で、最大6kgのペイロードに対応。今回は500mlペットボトル3本程度の飲料水を輸送する内容だったため、十分な搭載能力を備えていた。地上から離陸した機体が屋上まで上昇し、物資を切り離した後、再び地上へ帰還する手順で飛行した。

写真:ランディングパッド上の「DJI Matrice 400」
最大59分の飛行が可能な「DJI Matrice 400」は、上部に全方向検知の衝突回避用LiDARを搭載。
写真:ペットボトル3本を積載したケース
「DJI Matrice 400」には、ペットボトル3本を積載したケースが取り付けられた。

 将来的には操縦者1人による運用が理想とされるが、今回は安全性を最優先し、地上と屋上の双方に操縦者を配置。機体が建物の陰に入り地上から目視できなくなるタイミングで操縦権を切り替える体制が採られた。

 離陸した機体は、まずタワーとアネックスの間にあるガラス屋根上空まで進み、その後、タワー壁面に沿って垂直上昇した。操縦者と補助者は送信機のモニターで高度やバッテリー残量を確認しながら慎重に操縦し、約5分で屋上へ到達した。飛行速度は時速約2kmで安全性を最優先した設定だという。屋上で荷物を切り離した後は、往路と同じルートをたどって降下し、無事に広場へ着陸した。

写真:建物付近を飛行するドローン
物資を搭載してタワーの壁面に沿って飛行するドローン。当日は風が無く、吊り下げ式の荷物が揺れる心配はなかった。
写真:ドローンを操縦する様子
操縦者と補助者がプロポを確認しながら飛行。機体の監視は周囲の補助者が行った。
写真:上空を飛行するドローン
ドローンは安定して飛行を続けていたが、目視外となった状態では通信が途絶してしまう状態も見受けられた。これに対しても即座に対応し、安全な運航が続けられた。

 実証中は、通行人が足を止めて撮影する様子も見られた。地上には送信機映像を映し出す大型モニターが設置され、屋上付近の鮮明な映像が映し出されると、見学者から驚きの声も上がった。また、警察や消防関係者も視察に訪れており、防災分野におけるドローン活用への関心の高さがうかがえた。

社会実装に向けて求められる運用体制

 都市部における垂直方向の物資輸送という、国内でも珍しい実証となった今回の取り組み。その実現の経緯について、ハミングバードの鈴木代表は、小林たかや千代田区議からの提案がきっかけだったと説明する。

「小林区議は区議会でドローン活用の推進について積極的に議論されている方で、今回の実証実現に向けても大きな支援をいただきました」と感謝を述べた。一方、小林氏は「ドローンはこれからの社会で一般化しなければならない技術の一つ」と語る。そのうえで、千代田区ではまだドローン事業者との防災協定が締結されておらず、防災分野での活用も十分に進んでいない現状を指摘した。「最新の技術を区の象徴的な場所で披露したい」という思いから、ワテラスでの実証を実現したという。

 実証実現にあたり、最も時間を要したのは地域住民との調整だった。飛行によるプライバシーへの懸念や、安全性を不安視する声も上がった。しかし、説明会や意見交換を重ねた結果、防災力向上につながる取り組みとして住民の理解を得ることができたという。小林氏は「ワテラスには区立公園があるだけでなく、災害時には避難所として機能する防災広場があります。この場所だからこそ実施する意義がありました」と話す。

 一方、実際の災害対応を考えた場合、最大の課題は操縦者の確保だ。
 鈴木氏は「発災時に操縦者を被災地へ派遣し、すぐに飛行できる体制を整えることが重要です」と話す。安全性や確実なオペレーションを考えると、現時点では熟練した操縦者の存在が不可欠との考えだ。実証当日は風も弱く、飛行条件は良好だった。しかし実際の災害現場では強風や降雨など厳しい環境下での運用も想定される。熟練操縦者を常に派遣できるとは限らないことから、将来的には事前に飛行ルートを設定し、自動航行によって物資輸送を行う仕組みの構築も重要になるだろう。また、防災訓練を通じて地域住民が平時からドローン運用に触れ、被災時にも自主的に活用できる体制づくりも求められる。

 タワーマンションや高層ビルにおける災害支援でドローンを活用する取り組みは、今後さらに広がることが予想される。DJI Fly Cartシリーズのような数十kg規模の物資を輸送できる大型物流ドローンの活用も視野に入れながら、平時から運用体制や飛行ルート、地域との合意形成を進めておくことが、災害時にドローンを実効性のあるインフラとして活用するための鍵となりそうだ。

集合写真
当日実証に携わったオペレータースタッフと代表取締役社長 鈴木 伸彦氏(最前列右)、小林たかや区議(鈴木代表の左)。