ドローン開発において、ホバリング精度や耐風性などの飛行性能が重要視されるが、その安全性や自律性を支えているのがフライトコントローラー(FC)である。FCは機体の姿勢や位置を制御する「頭脳」ともいえる存在であり、その性能や設計思想によってドローンの飛行安定性や拡張性は大きく左右される。

 現在、多くの産業用ドローンでは「ArduPilot」や「PX4」といったオープンソース系のフライトコードが採用されている。一方で、スイス・VOLIRO社のVoliro Tや、カナダ・Skygauge Robotics社のSkygaugeのように自由な構造を備えた機体開発においては、既存のFCでは対応が難しいケースも少なくない。こうした課題に対し、ロボット開発の考え方を取り入れた新しいFCの開発に挑戦しているのが、2025年に設立されたTobasだ。同社はロボット記述言語を応用した独自フォーマットを採用し、従来の枠組みにとらわれない機体開発環境の構築を進めている。本稿では、その技術的特徴と活用可能性について紹介する。

▼VOLIRO
https://voliro.com/

▼Skygauge Robotics
https://www.skygauge.com/

フライトコントローラーの常識を変えるTobasの挑戦

 FCは、ドローンの姿勢制御や位置制御を担う中核システムだ。機体には気圧センサーや加速度センサー、ジャイロセンサー、ビジョンセンサーなどの多数のセンサーが搭載されており、FCはそれらの情報をもとに機体の状態をリアルタイムで把握し、適切にモーターの回転数を制御している。

 例えば屋外で風が吹いている状況でも、ドローンがその場に静止して飛行できるのは、FCがセンサー情報を解析し、各モーターへ適切な出力指令を送り続けているためだ。モーターの回転数はESC(Electronic Speed Controller)によって制御されており、その指令値を決定するのがFCのひとつの役割である。

 ドローンがラジコン飛行機と大きく異なるのは、このFCによる自律的な制御機能を備えている点にある。安定した飛行や高度な自律飛行を実現するためには、高性能なFCの存在が欠かせない。

 現在のFCは、大きくメーカー独自開発型とオープンソース型に分類される。オープンソース型では「ArduPilot」と「PX4」が事実上の業界標準となっており、多くの国産ドローンもいずれかを採用している。しかし、これらのプラットフォームは非常に優秀である一方、自由構造の機体への対応や開発自由度の面では課題も抱えているという。

 その課題に着目し、より自由度の高いFCの開発に取り組んでいるのがTobasだ。同社は東京大学工学部機械情報工学科出身の土肥正義氏によって2025年4月に設立されたベンチャー企業である。FCの開発に加え、試作機体の設計や受託開発も手掛けており、現在はRaspberry Pi 5をベースにLinuxおよびROS 2環境上で動作するFCを開発している。

写真:Tobasのフライトコントローラー
Tobasが提供しているFC。Raspberry Pi 5の上にオリジナルHATを取り付けた構成となっている。

ロボット技術を応用した独自フォーマット「UADF」

 Tobasが開発するFCの最大の特徴は、ロボット業界で広く利用されている「URDF(Universal Robot Description Format)」を航空機向けに拡張した点にある。URDFはロボットの形状や関節構造、質量、慣性特性などをXML形式で記述するフォーマットだ。ヒューマノイドロボットやロボットアームだけでなく、建設機械や航空機の着陸装置など、さまざまな機械を動かすためのモデルとして使用されている。

 土肥氏はこの仕組みに着目し、「空飛ぶロボット」であるドローンにも適用できると考えた。ただし、URDFにはプロペラやモーターといったドローン特有の要素が含まれていない。そこでTobasではURDFに推進系や固定翼機の操舵面などの要素を追加した。この独自拡張版を同社では「UADF(Universal Aircraft Description Format)」と呼んでいる。

写真:アーム先端型ドローン
試作したアーム先端型のドローン。モーターとプロペラ部分がチルトする構造になっている。

 UADFを利用することで、一般的な4発機(クアッドコプター)や6発機(ヘキサコプター)はもちろん、飛行中にプロペラ角度を変更するチルト機構付きドローンや、可動アームを搭載した変型ドローンなど、オープンソース型のFCでは制御が難しかった自由な機体構造のドローンにも柔軟に対応できる。

 従来のArduPilotやPX4では、あらかじめ用意されたフレーム形状を選択し、その範囲内で調整する方式が主流だ。そのため、標準的なマルチコプターとの相性は良いものの、独自構造の機体では対応に限界がある。一方、UADFでは機体構造そのものを定義できるため、これまで実現が難しかった自由度の高い機体設計が可能になる。

FCの構成、設計から実機試験までの工程
Tobasが提供するFCの構成と設計から実機試験までの工程。
写真:モニターに表示されたパラメーター
幅広いフレーム形状に対応し、パラメーターの調整を最小限に済ませることができる。また、飛行させながら微調整することも可能だ。

物理シミュレーションとリアルタイム調整で開発効率を向上

 Tobasによる開発支援のもう一つの特徴は、定義した機体モデルをそのまま物理シミュレーションへ活用できることだ。これまでに無いフレーム形状やアーム搭載型など、自由な発想の機体を試作し、いきなり実機飛行を行うことは墜落や破損のリスクが高い。しかしシミュレーション環境を利用すれば、PC上で機体の挙動を事前に検証できるため、開発コストや試験期間の大幅な削減につながる。また、実機テストにおけるチューニング効率も大きく向上する。

写真:モニターに表示されたシミュレーション画面(ドローンが傾きながら飛行する様子)
物理シミュレーションはかなり忠実に再現されている。試作機によるデモでは、機体が大幅に傾きながらも飛行を継続している様子が見られ、この設定を踏まえて機体開発を行っても問題ないと考えられる。

 従来のFCでは、ゲインやフィルター設定を変更するたびにUSBケーブルで機体とPCを接続し、パラメーターを書き換える必要があった。そのため、一度飛行を停止して調整し、再度飛行するという作業を何度も繰り返さなければならない。一方、TobasのFCでは、機体とPCがオンライン接続されているため、飛行中でもリアルタイムにパラメーター変更が可能だ。土肥氏によれば、このようなオンラインチューニングは「ROSの世界では一般的」だというが、ドローン業界ではまだ珍しい。開発期間短縮への効果は大きいと考えられる。

 さらに同社はモーター制御にも独自技術を投入している。

 一般的なドローンではPWM(Pulse Width Modulation)信号によってモーター出力を制御しているが、PWMのみでは目標回転数への追従性に限界がある。そこでTobasのFCでは、モーター回転数をソフトウェア側でフィードバック制御し、応答性能を向上させている。これによりモーターの追従性が高まり、飛行安定性の向上にもつながる。

 加えて、飛行性能に悪影響を及ぼすプロペラからの振動への対策として、モーター回転数と同期するノッチフィルターを実装。一般的なローパスフィルターのような制御遅延を発生させることなく、不要な振動だけをピンポイントで効率的に除去できる。モーター停止の検知やフェールセーフ機能にも対応しており、安全性向上にも寄与する設計となっている。

自由な機体構造のドローン開発の需要を背景に実証が進む

 土肥氏はもともと四脚歩行ロボットの制御研究に取り組んでいた。ドローンとの接点となったのは学生時代で、ロボットアームを搭載したドローン開発に携わったことがきっかけだった。当時の既存FCには、アーム動作によって生じる慣性力や反力を考慮した制御機能が存在せず、開発は困難を極めた。そこで自ら制御プログラムを開発した経験が、現在のTobas設立へとつながっている。

 このFCの技術は2023年度のIPA未踏IT人材発掘・育成事業「ロボット記述言語に基づくドローン開発支援ツール」に採択され、本格的な研究開発がスタートした。その後、未踏アドバンスト事業にも継続採択され、耐風試験やプロペラ停止試験などを重ねながら改良が進められてきた。

 実際に、新たな形状・構造のニーズは確実に存在している。

 例えば配管設備や壁面の非破壊検査では、センサーを対象物へ押し当てるために機体全体を大きく傾ける必要がある。土肥氏によると、「Japan Drone 2026」などの展示会では、既存FCの制約に悩む開発者のほか、自由な形状や物理的な機能を構想する企業から相談を受けているという。

 TobasはRaspberry Pi上に装着する専用インターフェースボード(HAT)とパワーモジュールを販売している。価格はHATが15万円、パワーモジュールが3万円(いずれも税抜)。また、UADFを活用したモデル作成や制御設計は高度な専門知識を要するため、顧客の構想段階から伴走し、モデル定義や制御設計、追加機能実装まで支援する受託開発サービスも展開している。

 既存のFCでは実現できない自由構造の機体を開発したい。そうしたニーズに応える新たな選択肢として、TobasのFCは今後注目を集める可能性が高い。ドローンが単なる空撮プラットフォームから高度な「空飛ぶロボット」へ進化する中、その基盤技術の一つとして期待される存在といえるだろう。