日本の防衛政策において、ドローンはもはや周辺的な装備ではなくなった。

防衛力整備計画では、2023年度から2027年度までの5年間で、無人アセット防衛能力に約1兆円の経費が見込まれている。2026年度予算案でも、無人アセット防衛能力全体として約2,773億円が示された。

その中でも象徴的なのが、SHIELD(和訳:無人アセットによる多層的沿岸防衛体制)である。

防衛省は2026年度予算案で、SHIELDの構築に1,001億円を計上している。目的は、2027年度中に、無人アセットを活用した多層的な沿岸防衛体制を構築することにある。

ここでいう無人アセットとは、単に空を飛ぶドローンだけを指すものではない。UAV、すなわち無人航空機。USV、すなわち無人水上艇。UUV、すなわち無人潜水機。空中、水上、水中に広がる複数の無人システムを組み合わせ、沿岸防衛を再設計しようとしているのがSHIELDである。

取得対象としても、モジュール型UAV、小型攻撃用UAV、水上艦発射型UAV、艦載型UAV、艦艇攻撃用UAV、レーダーサイト防衛用UAV、小型多用途USV、小型多用途UUVなど、複数の無人アセットが並んでいる。さらに、それらを一元的に管制するシステムの早期導入も追求するとされている。

つまり、これは「ドローンを買う」という話ではない。

無人アセットをどのように取得し、組み合わせ、管制し、運用し、沿岸防衛の中に組み込むのか。日本がそのシステム全体をどのように設計できるのかが問われている。

この問いは、防衛省や防衛装備庁だけに向けられているのではない。

日本のドローン産業そのものに向けられている。

IRとして可視化されたウクライナとの接点

2026年3月下旬、日本のドローン業界で、偶然とは言い切れない動きが重なった。

日本の上場ドローン企業のうち、少なくとも3社が、ウクライナとの関係について相次いでIRや公式発表を行ったのである。

重要なのは、それらの企業がこのタイミングで初めてウクライナとの接点を作り始めた、ということではない。むしろ、それまで各社が個別に進めてきた関係構築が、上場企業としての情報開示、すなわちIRという形で市場に見えるようになった点にある。

Liberawareは、IR開示を通じて、日本最大級のテクノロジー展示会であるCEATECにおいて、在日ウクライナ商工会議所との共同出展、およびウクライナ関連プログラムでのキーノート登壇を実施したことを発表した。Terra Droneは、防衛分野への参入を表明し、急速に発展するウクライナのドローン・エコシステムとの関係強化を打ち出した。ACSLもまた、在日ウクライナ商工会議所への加盟を通じて、設立予定のJapan Ukraine Drone Cluster(JUDC)への参画を発表している。

個別に見れば、それぞれの発表は企業ごとの事業展開にすぎないようにも見える。

しかし、点ではなく線として捉えると、そこには日本のドローン産業が向かい始めている方向が見えてくる。

防衛、安全保障、デュアルユース、産業政策、サプライチェーン。これまで別々に語られてきた論点が、ドローンという領域で急速に重なり始めている。

一般的には、Terra Droneがウクライナでの展開を進めていることがよく知られている。しかし、実際にはそれだけではない。筆者が見聞きする範囲でも、2025年9月にウクライナ西部のリヴィウで開催されたBrave1 Defense Tech Valleyの前後の時期には、複数の日本のドローン関連企業や起業家が現地を訪れていた。

これは単なる視察ではない。

日本のドローン産業が、戦場で急速に進化する技術、運用、制度、資金、人材のエコシステムに直接触れようとしているということである。

ウクライナで進むのは、技術紹介ではなく実戦知の蓄積である

なぜ、日本企業はウクライナに向かうのか。

理由は明確である。現在、世界で最も速い速度でドローン技術と運用知が蓄積されている場所の一つがウクライナだからだ。

ウクライナでは、ドローンは展示会で見せるための製品ではない。実戦環境で使われ、壊れ、改良され、再投入される。そのサイクルが、机上の研究開発とはまったく異なる速度で回っている。

そこでは、技術の優劣はスペック表だけでは決まらない。

どれだけ早く作れるか。どれだけ早く現場に届けられるか。どれだけ早く失敗を学びに変えられるか。妨害電波、通信途絶、天候、地形、操縦者の熟練度、補給の制約に対して、どこまで適応できるか。

こうした要素が、技術の価値を決めている。

ウクライナには、Brave1のような防衛テック・クラスターも存在する。政府、軍、研究者、メーカー、投資家が接続され、戦場で必要とされる技術をいかに早く見つけ、試し、改善し、前線へ届けるかが重視されている。

2025年9月に開催されたBrave1 Defense Tech Valleyには、50カ国以上から技術開発者、ユーザー、投資家、政策関係者など5,000人以上が集まったとされる。ウクライナの防衛テックは、もはや一国の戦時下イノベーションにとどまらず、世界中の企業、投資家、政府関係者が集まる国際的な実験場になっている。

日本のドローン企業や起業家が、こうした現場に関心を持つのは当然である。

しかし、ここで重要なのは、ウクライナから何を持ち帰るのかである。

海外の機体を輸入することなのか。現地企業との販売代理契約なのか。あるいは、戦場で磨かれた開発速度、運用思想、評価方法、フィードバックループを日本の産業構造に取り込むことなのか。

前者であれば、日本企業の役割は輸入代理や仲介にとどまる。後者であれば、日本の防衛産業の作り方そのものを変える可能性がある。

スタートアップに問われるのは「参入」ではない

近年、防衛分野におけるスタートアップへの期待は高まっている。

従来、防衛産業は特殊な市場として見られてきた。買い手は政府であり、調達は閉じており、参入には時間がかかる。技術があっても、制度、実績、政治的な信頼関係がなければ簡単には入れない。防衛は単一の買い手によって成り立つ市場であり、スタートアップやベンチャー投資とは相性が悪いと考えられてきた。

しかし、この前提は変わりつつある。

防衛を、政府が直接企業から買うだけのB2G市場として見ると、現在起きている変化を捉えきれない。むしろ、防衛はプライムコントラクター、大企業、専門部品メーカー、ソフトウェア企業、スタートアップ、大学、研究機関が重なり合う、多層的なB2B2Gのエコシステムとして見るべき段階に入っている。

防衛領域における価値は、完成品そのものだけに宿るわけではなくなっている。

センサー、通信、飛行制御、AI、サイバーセキュリティ、データ解析、運用支援、教育、保守、現場からのフィードバックを反映する改善サイクル。こうした複数のレイヤーに価値が分散し始めている。

そして、その分散した価値の中に、スタートアップが入り込む余地が生まれている。

ただし、ここで議論を「スタートアップも防衛分野に参入すべきだ」という入口論にとどめてしまうと、本質を見誤る。

防衛省や防衛装備庁が新興企業に門戸を開き始めたとしても、それだけでスタートアップに持続的な役割が生まれるわけではない。調達制度にアクセスできることと、防衛システムの中で不可欠な存在になることは別の話である。

重要なのは、どのレイヤーで代替困難な価値を出せるのかである。

機体そのものなのか。センサーなのか。通信なのか。ソフトウェアなのか。データ解析なのか。運用支援なのか。あるいは、現場からのフィードバックを受けて改善を続ける仕組みそのものなのか。

スタートアップに問われているのは、防衛分野に「入る」ことではない。

防衛という複雑なシステムの中に、どのような技術、能力、知見を持ち込み、どの部分で自らの存在意義を示せるのかである。

米国は「接続装置」を作ってきた

この構造変化は、米国の政策にも表れている。

米国では、Defense Innovation Unit(DIU)やAFWERXのような組織が、スタートアップや新興企業が防衛領域にアクセスするための仕組みを制度化してきた。

DIUは、米国防総省がシリコンバレーなどの民間技術を国防領域へ取り込むために設けた組織である。従来の防衛企業だけではなく、商用技術を持つスタートアップやテクノロジー企業と軍の課題を接続し、短い期間で実証、契約、配備につなげることを目的としている。

AFWERXは、米空軍省のイノベーション部門である。SBIRやSTTRといった中小企業向け研究開発支援制度を活用しながら、スタートアップや中小企業の技術を米空軍・宇宙軍の課題に接続し、実運用への移行を後押ししている。

つまり、これらは単なる補助金配布の仕組みではない。

民間技術を見つけ、軍の課題と接続し、試し、評価し、必要であれば調達へ進めるための制度的な接続装置である。

この流れの先に、米国防総省のReplicator Initiativeも位置づけられる。Replicatorは、複数領域にまたがる自律システムを短期間で大量に配備することを目指した取り組みであり、DIUもその実装に関与してきた。

ここで重要なのは、特定の制度名そのものではない。

開発、試験、評価、調達、配備を別々の段階として扱うのではなく、一連の流れとして接続しようとしている点である。防衛技術を研究室や展示会の中に閉じ込めるのではなく、現場で使い、評価し、改善し、必要であれば配備まで進める仕組みを作ろうとしている。

日本が学ぶべきなのは、特定の制度をそのまま輸入することではない。技術を見つける仕組み、試す仕組み、評価する仕組み、そして調達につなげる仕組みを、どのように一体として設計するかである。

日本の制度も変わり始めた

日本でも、制度側の変化は始まっている。

防衛装備庁は、スタートアップ企業等の技術をより迅速に防衛装備品へ取り込むため、「ファストパス調達」の活用を打ち出している。2026年度からは、防衛省でもSBIR制度を開始し、防衛装備庁で約70億円の予算を確保する方向が示されている。

重要なのは、この約70億円が単独で完結する予算ではないという点である。

防衛省の説明では、スタートアップ技術を育成する初期段階の先に、2026年度予算案ベースで約7,100億円規模の本格的な研究開発段階、さらにその先の量産・取得段階が存在する構図が示されている。

もちろん、約7,100億円がスタートアップ専用に用意されているわけではない。これはあくまで本格的な研究開発段階の予算規模である。

しかし、そこにスタートアップが接続される可能性が制度上示され始めたことの意味は大きい。

ファストパス調達は、スタートアップを小規模な実証で終わらせるための制度ではない。優れた技術を持つ企業が、初期の研究開発支援から、本格的な防衛装備品の研究開発、さらには量産・取得へと接続される可能性を持つ制度として設計されている。

これは、政策レベルでは重要な前進である。

しかし、制度ができたことと、産業が育つことは同じではない。

問われているのは、これらの政策が、どのような産業構造を生み出すのかである。海外技術を早く取り込むだけの仕組みになるのか。それとも、日本国内にコア技術、運用知、評価能力、統合能力を残す仕組みになるのか。

「国産か海外製か」だけでは答えにならない

この議論は、ともすれば「国産ドローンを使うべきか、海外製ドローンを導入すべきか」という単純な選択問題に見えてしまう。

しかし、実際の論点はそれほど単純ではない。

現在のドローン産業は、部品、センサー、チップ、バッテリー、通信モジュール、ソフトウェア、製造装置、量産プロセスに至るまで、すでに深く国際化されている。すべてを国内だけで完結させることは現実的ではないし、そうすることが必ずしも競争力につながるわけでもない。

一方で、すべてを海外に依存することも危うい。

特に防衛・安全保障の文脈では、平時に調達できることと、有事に使い続けられることは同じではない。価格が安いことと、信頼できることも同じではない。性能が高いことと、自国の運用思想に組み込めることも同じではない。

重要なのは、「国産」か「海外製」かというラベルそのものではない。

日本が、どのレイヤーを国内に保持すべきかを見極めることである。

飛行制御、通信、暗号化、サイバーセキュリティ、データ基盤、AI解析、試験・認証、量産品質、運用教育。これらは単なる部品や機能ではない。平時にも有事にも、国がドローンシステムを信頼し、維持し、改善し、使い続けられるかを決める産業能力である。

たとえば、機体の一部に海外製部品が含まれていたとしても、システム全体の設計思想、運用データ、重要ソフトウェア、通信の安全性、継続的な改善能力が国内に残っているなら、それは戦略的な意味を持つ。

逆に、外形的には国産機と呼ばれていても、重要な構成要素や改善能力が海外に依存しているのであれば、真の意味での産業能力が国内に残っているとは言い切れない。

国産化は目的ではない。

産業能力を残すための手段である。

そして、主権性は孤立を意味しない。信頼できる海外パートナーと接続しながら、失ってはいけないレイヤーを国内に残す。その設計こそが重要になる。

産業側に求められる三つの役割

では、日本のドローン産業は何を担うべきなのか。

第一に、単なる輸入代理ではなく、現場の課題を技術仕様に翻訳する役割である。

防衛や災害対応の現場には、一般的な民生市場とは異なる制約がある。通信が遮断される。GPSが使えない。夜間や悪天候でも運用しなければならない。操縦者が十分に訓練されているとは限らない。補給や整備の体制も限定される。

こうした条件を理解し、機体、通信、ソフトウェア、運用手順に落とし込む能力が必要になる。

第二に、海外技術をそのまま持ち込むのではなく、日本の制度と現場に合わせて統合する役割である。

ドローンは、単体で能力になるわけではない。通信、管制、データ、訓練、整備、補給、現場での判断、組織の運用プロセスが接続されて初めて、防衛能力になる。

第三に、失敗から学ぶ仕組みを産業として持つことである。

日本企業は品質を重視する。一方で、防衛テック、とりわけドローン領域では、最初から完璧なものを作るよりも、現場で使い、壊れ、改善し、再投入するサイクルをどう作るかが重要になる。

この学習速度こそ、ウクライナが世界に示した最大の教訓である。

日本のドローン産業が問われていること

日本のドローン産業はいま、戦略的な分岐点に立っている。

問題は、日本が「作る側」に残るのか、「使う側」になるのか、という単純な話ではない。もちろん、それも重要である。しかし、より本質的な問いは別にある。

日本は、新しく形成されつつあるグローバルな産業・安全保障アーキテクチャの中で、自らのポジションを定義できるのか。

それとも、そのポジションを外部から定義されるのか。

もし日本が、海外技術を輸入し、国内制度に合わせて紹介するだけの立場にとどまるなら、それは戦略的な参加ではない。より大きなサプライチェーンの中に組み込まれた、構造的な依存である。

防衛は、輸入だけでは持続しない。

必要なのは、単に装備品を調達することではない。国内に価値創造の源泉となる能力を育てることである。スタートアップが仲介者ではなく、コア技術の創出者として機能できる制度を作ることである。

そのためには、調達、研究開発、人材形成、実証、運用、輸出管理を別々に扱うのではなく、一つの産業システムとして接続する必要がある。

日本には、ものづくりの基盤がある。精密部品、センサー、モーター、素材、通信、ロボティクス、ソフトウェア、現場運用の知見もある。足りないのは、それらを防衛・安全保障の要求に合わせて束ね、現場で試し、素早く改善する仕組みである。

最終的に問われているのは、技術を採用する能力ではない。

その技術が、どのような制度の中で評価され、どのような現場で使われ、どのような産業構造の中で意味を持つのか。

そのシステム自体を、日本が形づくれるかどうかである。

※本稿は、筆者がLinkedInのNewsletterで発行している「Sunday Note」の日本語版として加筆・再構成したものです。なお、本文中では筆者の所属企業にも言及しているが、本稿は筆者個人の見解に基づくものです。