秋田県大館市では、同市が位置する秋田県北部という過疎地における物流コストや配送リードタイムの増大という課題を抱えている。そこで2022年からドローンがトラック物流を代替する可能性について、早くからモバイル通信を利用したドローンの自動飛行の実現可能性や、北東北の寒冷地という地域特性を生かした耐候性の実証などを行ってきた。
2025年度の取り組みでは「レベル3.5飛行」制度を活用して、より実用化に近い形での運用を目指し、同年12月から2026年1月にかけてエアロダインが運航を担う形でエンジンハイブリッド式の長距離飛行が可能なマルチコプターとVTOL機を使った検証を実施。特に2026年1月末に実施したVTOL形ドローンによる実証は、離陸重量25kgを超えるVTOL形ドローンを使ったレベル3.5飛行による日本で初めての取り組みとなった。
雪に閉ざされる北東北の中山間地区にVTOL型ドローンで荷物を届ける
「自動運航ドローンによる物流実現可能性調査」として、大館市と地元薬局、日本郵便、佐川急便らが参画する大館市ドローン物流協議会が2025年度に実施した取り組みは、トラックをはじめとした既存物流の代替可能性と、ドローンによる中山間地への物資輸送の可能性を検証するというもの。大館市としては将来的に自動運航ドローンとそのドローン運航拠点を「空の駅」として位置付ける構造を描いている。
本調査ではドローンの商用運航を前提として「医薬品の配送」「コミュニティ拠点での受け取り」「共同利用ドローンポート」というテーマで検証を実施。そのために同市内の薬局から高齢者福祉施設への医薬品輸送と、同市郊外の佐川急便営業所から中山間地区への2つのルートを設定している。2025年12月にはこの2つのルートで、エンジンハイブリッドドローンを用いた検証を4日間、合計6便の飛行を行っている。その上で、2026年1月末に追加的にVTOL型ドローンを用いた実証も実施した。
この実証ではPhoenix Wings社の「P.W.ORCA」を使用。同機は約3mの固定翼を持つVTOL機で、最大ペイロード約15kg、容積で96リットルという高い運搬能力を持つドローンである。ただし、このVTOL形ドローンを用いてレベル3.5飛行を行うには、レベル3.5飛行に求められる要件の一つとして操縦者が無人航空機操縦者技能証明を保有する必要があり、さらにVTOL型ドローンを技能証明保有者が操縦する場合は「回転翼(マルチコプター)」と「飛行機」という2つの無人航空機の種類に関する限定が必要となる。そのため、今回のオペレーションを担当したエアロダインジャパン代表の鹿谷氏と岩本氏が、それぞれ目視外・25kgの限定変更も含めた技能証明を取得した。
道路上に歩行者がいる場合に、時速110kmから停止・迂回する判断の難しさ
今回の飛行経路は大館市の中心部郊外の佐川急便営業所から、中山間地にあたる大葛地区までの約18kmを約12分で飛行するというもの。飛行経路直下のほとんどが田畑となっているが、途中、国道をはじめとした道路やJR花輪線の横断が必要。レベル3.5飛行においてドローンが道路を横断する場合には、走行している自動車や列車上空の通過は可能であるが、歩行者や自転車などの上空の通過は第三者の立入管理措置が必須である航空法上の「カテゴリーII」では禁じられている。そのため、ドローンに搭載したカメラで横断する道路や鉄道を確認し、歩行者や自転車などの第三者が存在することを確認した場合は、飛行停止もしくは回避をする必要がある。
マルチコプター場合、巡航中であっても比較的容易に停止してホバリングを行うことが可能だ。一方、巡航中は固定翼機として飛行するVTOL機の場合、飛行速度がマルチコプターに比べて速いため、短時間に停止することは難しく、また、回避するとしても速度に応じた旋回半径が必要となる。P.W.ORCAの場合、その巡航速度は時速約110kmであり、ドローンが横断する道路上に歩行者をカメラで発見して停止するためには約200mが必要だという。そのため、エアロダインが運航するP.W.ORCAには、飛行中に約300m前方の道路上の歩行者が確認できるカメラを搭載している。
また、P.W.ORCAは「ロイター旋回」モードとして、半径約80mの円を描いて道路上の歩行者が通過するのを待機する機能がある。今回のルートは飛行経路から線路が近いことや、配送先である大葛地区は谷間にあるため、飛行経路の幅が拡大するロイター旋回ではなく、飛行停止によるホバリングをする計画としていた。「VTOL機では飛行速度が速いこともあり、この道路や鉄道を横断するか、待機するかという見極めが難しい。特に自転車やバイクのように速く移動する第三者に対する判断は、さらにそのハードルが高くなる」(岩本氏)という。
元々、飛行速度が速いVTOL形ドローンである上に、特に離陸重量が25kgを超えるP.W.ORCAは、停止や回避動作を行う距離のスケールが大きくなる。そのため、操縦者は同機のGCS(Ground Control Station)に実装されているシミュレーターや、事前に十分な空域が確保できる飛行場で、道路上の第三者への対応を何度も訓練。特に停止を選択した場合には、時速約110kmで飛行する同機がホバリングに遷移する場合、約200mで停止することができることを事前に同機を飛行させて検証しているという。
急変した天候によりあらかじめ設定した緊急着陸地点にダイバードする結果に
2026年1月末に実施された飛行は、VTOL型ドローンによるレベル3.5飛行というこれまでにない条件に加えて、冬の低い気温や雪という気象条件下での取り組みとなった。もともと1月の秋田県北部は雪に閉ざされることが多く、住民の移動手段はもっぱら車となり、徒歩や自転車での移動はほとんどない。さらに2026年1月は例年にない豪雪となったこともあり、除雪された幹線道路以外の道路を人が歩くのは難しく、レベル3.5飛行で上空飛行が禁じられている歩行者や自転車の往来は、飛行中に確認されることはなく、飛行を停止させることもなかったという。
その一方で天候はめまぐるしく変わり、実証を行った一日の中で実際に飛行できたのは1便のみとなった。午前中は曇り時々雪で飛行を見合わせ、正午過ぎに晴れ間が見えたため飛行を開始。しかし飛行ルートの3分の1程度のところで、経路前方の谷間に降雪が確認されたため、あらかじめ飛行経路の中に設定しておいた緊急着陸地点にダイバート(代替着陸)させる形で着陸し、飛行を終えることとなった。P.W.ORCAのGCSではあらかじめひとつのミッションに対して6つの経路が設定でき、飛行中の状況に応じて本来の経路から分岐する形で経路を変更し、ダイバートさせるといったことができる。今回の飛行ではこの機能を使って、経路近傍に設定してあった農業集落排水施設敷地に着陸した。検証当日はその後、強い降雪が続いたこともあり、すべての飛行が中止となり検証を終えている。
高い耐風性能と耐寒性を発揮する一方で、実証から見えた社会実装への課題
冬の秋田県大館市周辺地域は、一日中吹雪くようなことは少ない一方、快晴であっても数十分で吹雪に変わるようなことが多いとされる。大館能代空港の航空便もこうした変化する気象状況によって1時間程度の遅延が頻発しており、雪国における航空機やドローンの定時運航は難しいとされる。
特に今回飛行した大館市街地郊外と中山間地の大葛地区を結ぶ十数キロメートルに及ぶような長距離のルートの場合、飛行中に経路上の天候が大きく変わることがあり、今回はそのため飛行を中断することになった。事前に気象アプリで雪雲の予測などを確認して、飛行可能と判断したが、谷間地形でのマイクロな気象変化までは予測できなかった。そのために、「緊急着陸地点を含めたルート設計や、気象状況の変化に応じた飛行計画の変更、もしくは飛行の中止といった点において、コンサバティブな運用判断が求められた結果、予定していた飛行ルートは完走できなかった」(鹿谷氏)としている。
その一方で、今回のP.W.ORCAの飛行については、高い耐風性能をはじめとして問題なく機能しており、海外での氷点下15℃という環境でも、大館市での湿度が高い氷点下3度の環境でも、アイシング(翼やプロペラへの着氷)が発生しなかったとしている。
さらに、これまでの大館市のドローンを用いた取り組みは、大雪時の孤立集落に緊急物資輸送ができるかを検証することが目的のひとつであった。しかし、P.W.ORCAのような翼長3mにも及ぶ大型のドローンを離着陸させるには、それに見合った場所の除雪が必要である。大雪の際には幹線道路の除雪が優先されるため、ドローンの着陸地点の除雪が追いつかず、着陸地点の確保も課題だとしている。
