ERIホールディングスのグループ会社であるERI Roboticsは、2026年1月26日、屋内点検用小型ドローン「Small Doctorシリーズ」を3機種発表した。業界最小レベルとなる機体幅18.5cmのモデルを含むラインナップは、現場の担当者が高度な操縦技術を必要とせずに扱える点を強みとしている。従来の屋内ドローンが抱えてきた「人・物・金」の課題を解消し、工場やインフラ設備点検における本格普及を目指す。
TOMPLAとCOBALTの知見を統合、屋内点検ドローン事業を本格始動
2026年1月26日、ERI Roboticsは屋内点検用小型ドローンの発表に合わせて、旧社名のTOMPLAからERI Roboticsへ社名変更したことも公表。TOMPLAは、新潟市で創業したドローン開発スタートアップであり、機体レンタル事業のほか、小型ドローンの開発を手掛けていた。今回、ドローンに関するワンストップサービスを提供するCOBALTと統合する形でERIホールディングスのグループ会社となり、ドローンおよびロボティクス事業の本格展開に乗り出す。
ERI Roboticsの藤本代表(旧TOMPLA代表取締役)は、2021年の創業から現在に至るまでの経緯を説明。「TOMPLAは、ドローンのレベル4飛行(第三者上空飛行)が解禁された航空法改正(2022年12月5日)の施行に合わせて創業しました」と述べ、2023年にプロトタイプ開発を開始、2024年からレンタル事業を展開してきたと振り返った。また、「ドローンの開発に加え、現場のオペレーションを強化し、その知見を機体開発に反映していきます」と話し、現場運用を提供してきたCOBALTとの統合の狙いを説明した。
さらに、ERIホールディングスの増田会長が登壇し、「現在、日本では社会インフラの老朽化、自然災害の激甚化、そして深刻な人手不足など、避けて通れないさまざまな課題に直面しています。建築現場や公共構造物を専門とする私たちが、これらの課題を解決すべく開発したのが屋内点検用小型ドローンです」と語り、グループの専門性を生かした製品開発の意義を強調した。
新会社は本社および開発拠点を神奈川県川崎市に置き、フィールドセンターを熊本県熊本市に設置する。藤本代表は「ドローンの製造や飛行試験は熊本のフィールドセンターで行います」と言い、生産体制の拡大に伴い従業員規模も拡大していく方針を示した。
屋内点検ドローン普及を阻む「人・物・金」――ERI Roboticsが狙う市場の空白
藤本代表は新製品発表に先立ち、屋内ドローン市場が直面する構造的課題を提示した。2030年には713万人の人手不足が見込まれ、そのうち58%にあたる約392万人がノンデスクワーカーとされる。建設や電気・ガス・水道といった現場作業を伴う業種では、特に深刻な労働力不足が予測されているという。
こうした状況下で、工場やプラント設備の老朽化が進み、点検業務へのドローン活用に期待が高まる一方、「屋内でのドローン活用は、依然として普及に課題を抱えています」と指摘する。その要因が「人・物・金」の3つの問題だ。
第一に、小型ドローンは高度な操縦技術を要求される。第二に、制御技術向上のためにセンサーを搭載すると機体が大型化してしまう。第三に、高価なセンサーを搭載することで機体価格が高額になる。という3点を挙げた。藤本代表は「ドローンの性能向上は、機体重量の増加とサイズ拡大につながり、結果として高価格化してしまうという板挟み状態にある」と述べた。
同社の競合分析では、操縦レベルと価格を軸にした市場マップ上で空白地帯が存在することが示された。高価格帯には外資系メーカーや国内メーカーのプロ向け機体が並ぶ一方、「低単価×限定機能」の領域は手薄だという。藤本代表は、「どの機能に絞るかが重要です」と語り、Small Doctorシリーズは屋内用途に特化することでシステムを最適化し、コスト優位性を確保したと説明した。
狭小・配管・高天井を1シリーズで網羅 Small Doctor3機種の設計思想
Small Doctorシリーズは「Easy(暗所でも安定飛行)」「Small(手のひらサイズ)」「Smart(コスト優位性)」をコンセプトに掲げている。発表された3機種は、それぞれ異なる現場環境を想定して設計された。
最小サイズで設計された「Small Doctor Crawl」は、機体幅18.5cm、重量400gで住宅の床下や天井裏といった狭小空間での撮影・点検を想定し、定額制で提供される。高度な操縦技術を必要とせず、現場担当者が扱える点が特徴だ。
次に「Small Doctor edge」「Small Doctor 03」は、工場配管や天井裏など複雑かつ暗所での点検に特化している。その機体寸法は、Small Doctor edgeが26cm四方のコンパクト設計とし、Small Doctor 03は34cm四方となる。また、Small Doctor 03は、2000lm(他2機種は600lm)の高照度LEDを搭載しており、高天井設備や暗所トンネルなど広範囲の点検に適しているという。飛行時間は小型モデルのSmall Doctor Crawlが12分、Small Doctor edgeとSmall Doctor 03が16分だ。
そして、3機種に共通しているのが、ビジョンポジショニング技術だ。機体カメラの映像をもとに状況を判断するエッジAIボードを搭載し、GPSが届かない屋内環境においても自己位置を推定し、安定したホバリングを実現する。
発表会では、ATTIモードのみのセンサー非搭載機との比較も行われた。熟練したパイロットがセンサー非搭載機を離陸させ、そのままプロポから指を離すと、ドローンは上昇を続け、壁に接触してもそのまま押し付けられる状態となった。藤本代表は「センサー類を搭載しないドローンは、前後左右上下すべてを同時に操作しなければならず、高度な操縦技術を必要とします」と、マニュアル操作の難しさを説明した。
一方、Small Doctorシリーズの飛行では、プロポから指を離すとその場で静止し、安定したホバリングを維持。増田会長も操縦を体験し、自身をペーパードライバーと揶揄しながらも、安定した飛行を披露した。また、ドローンのシェアを牽引しているDJI社の製品との差別化について藤本代表は、「より汚く、狭く、暗い場所に特化しています」と述べ、用途を限定することで余分な機能を無くし、特化型の現場普及戦略を明確にした。
Small Doctorシリーズの直売価格は180万円、代理店経由の価格は117万~153万円と発表された。年1回または年2回のメンテナンスパックも用意し、長期運用を支援する。
国内生産・下水管特化・自律飛行へ ERI Roboticsが描く次の屋内点検像
藤本代表は今後の展開として、3つの計画を示した。第一に、熊本フィールドセンターにおける国内生産体制の強化だ。「すでに生産は開始しており、半年以内に拡張します」と規模拡大の方針を発表。
2つ目は、下水管専用機体の開発だ。従来は数百mの飛行が上限であったが、「数km単位の飛行が可能な下水管専用ドローンを開発しています」と説明した。
3つ目は、自律飛行モデルの展開だ。「自律飛行の基礎的な試験は完了しており、顧客との実証を通じてリリース時期を見極めています」とした。
さらに2030年代のビジョンとして、惑星探査への技術応用にも言及。「自己位置推定を行い、小型センサーと少ない計算量で飛行する技術は、宇宙探査にも応用できる可能性があります」と語った。その後の質疑応答では、今後のマイルストーンについて説明する場面があり、「現場での導入件数、活用台数を目標値として設定しています」と回答し、具体的な数値目標については「操縦体験の場を定期的に設けることで、多様な企業に周知していきます」と、当面の重点施策に掲げた。
また、防災・防衛分野への展開や部品サプライチェーンについても質問が寄せられた。藤本代表は、「現場での実用性を最優先します」としたうえで、政府方針を注視しつつ柔軟に対応する姿勢を示した。
