AIR RACE X、2025年シリーズ最終戦が大阪で開催決定

写真:ARで再現された、赤と青の小型航空機が街中を飛行する様子

 最高時速400kmのレース専用小型機でタイムと操縦技術を競う次世代の空のモータースポーツ「AIR RACE X」の2025年シリーズ最終戦が、9月6日に大阪・梅田と大阪・関西万博会場の計3カ所で開催されることが発表された。

 6月24日、大阪市内で開かれた記者発表会では、最新XR(仮想現実)技術を駆使した観戦スタイルや、公平性を担保する独自テクノロジーなど、従来の空中レースを進化させた仕組みが紹介された。

レッドブル・エアレースの精神を継承した新しいスタイルのレース

写真:モニターに表示された、これまでのエアーレースの様子
AIR RACE X は2019年まで開催されていたエアレースを新しいスタイルで実現している

 AIR RACE Xは、2003年から2019年まで世界で開催されていた「レッドブル・エアレース」を継承するプロジェクトとして、2023年10月に東京・渋谷で初開催された新しい形のエアレースである。日本でもかつて幕張海浜公園で実際のエアレースが行われていたため、当時の迫力を覚えている人も多いだろう。

世界中でリモート飛行しデータで対戦する仕組み

 AIR RACE Xでは、レッドブル・エアレースと同様に、世界各地からトップパイロットが参戦する。各地に同一仕様のレーストラックを設置し、パイロットは各自の拠点で実際に飛行。そのフライトデータを基に予選から準決勝、決勝までを1対1のノックアウト方式で戦い、ポイントを競う。年間ポイントが最も多いパイロットがシリーズチャンピオンとなる。

 レースコースは全長800mで、2本1組のパイロン(ゲート)が計5セット設置されている。機体はこのパイロン間を決められた順序・姿勢で通過し、その速さと正確さを競う。1レースあたりの周回数は3周でおよそ1分という短期決戦だが、高度150m超のハイターンで最大12Gもの負荷がかかり、パイロットは極限の状況下で瞬時の判断を迫られ、それによって勝敗が決まるのだ。

写真:モニターに表示された、パイロットが世界各地で飛行し、計測データを一元集計するイメージ
対戦はリモートだが実際に飛んだレースデータが使用される

3つの最新技術がレースを支える

 そして、AIR RACE X最大の特徴は“リモートレース”として開催される点だ。レース自体は各パイロットが世界各地で飛行した実データを用いて行われるが、そのデータを観客はXR技術を使って、まるで目の前を飛んでいるかのように大迫力で視覚化される仕組みだ。観戦者はスマートフォンやスマートグラスなどを通じ、梅田のビル群や万博会場の大屋根リングを縫うように飛ぶ機体をリアルタイムに視聴できる。

写真:話をするデズモンド・バリー氏
レースで使われる技術について説明するAIR RACE X COOのデズモンド・バリー氏

 この仕組みを支えるのが3つの主要テクノロジーである。記者発表会ではAIR RACE XのCOOデズモンド・バリー氏が登壇し、この最新技術について詳しく解説した。

1. 高度なフライトオペレーション技術

 レース全体の運営を支える基盤技術で、複数拠点での安全かつ統一された公平なレース運用を可能にしている。

2. 超高精細フライトデータ計測技術

 機体にはリモートデータユニット(RDU)を搭載し、誤差3cmという非常に高精度なフライトデータを収集する。データは指定期間中に一度だけ提出し、USBトークンによる改ざん防止機構を備えることで、リアルレース同様の公正性を確保している。

写真:モニターに表示された「リモートデータユニット」
機体に搭載するリモートデータユニット(RDU)

 パイロットは世界各地で飛ぶため、気象条件や環境、さらには太陽フレアなどによるデータ差異が生じるが、特許取得済みの独自アルゴリズムによりハンディキャップタイムを自動で補正する技術が使用されている。これによって離れた場所でのレースを公平に成立させている。

3. XRおよびAR技術

写真:モニターに表示された、三次元の都市と飛行経路
レースのコース設計にはPLATEAUなどを使用している

 XR/空間コンピューティング技術は、空間レイヤープラットフォームを提供する開発パートナー企業のSTYLYが担当。観戦用アプリや実空間でのコース設計、レース中継、360度音響などを開発し、リアルな観戦体験を支えている。

写真:モニターに表示された、フライトデータをARデータとして実際の街に映像化・再現するイメージ
レース観戦ではフライトデータを実際の街に映像化して再現している

 STYLYの渡邊COOによれば、XRシステムは「コンテンツレイヤー」と呼ばれる技術により、現実の空間にあたかも本物のレース機が飛んでいるかのように重ね合わせる。フライトデータをもとに正確な位置に機体をストリーミングし、国土交通省が提供する3D都市モデル「PLATEAU(プラトー)」などを活用して建物の陰に隠れる動きまで忠実に再現することで、臨場感を損なわないよう工夫されている。

写真:話をする渡邊氏
使用されているXR技術についてAIR RACE XのアライアンスパートナーでもあるSTYLY COOの渡邊信彦氏が説明した

都市中心部を舞台にしたリアルとバーチャルの融合

 こうした3つの最新技術により、現実では不可能な都市中心部での2機同時レースをXR空間上で実現している。実際、発表会前には開催予定地の1つである大阪・うめきた地区でデモ映像を使った観戦体験会も開かれ、迫力あるサウンドとともにビルの森を駆け抜ける高速レース機の姿を体験できた。アプリ操作は簡単で、スマートフォンでも観戦でき、エンジン音もリアルに再現されていた。

写真:モニターに表示された、AIR RACE Xの3つの観戦スタイル
3つの観戦スタイルのうち現時点では2つが実現されている

 また、AIR RACE Xには3種類の観戦スタイルが用意されている。

  • リモートレース:パイロットが各地でトライしたフライトデータを公式YouTubeなどで配信。
  • デジタルレース:リモートレースのデータをもとに会場でXRを使って同時観戦。
  • ライブレース:実際のレースとXRを融合したリアルタイムの観戦体験。

 2024年のシリーズ戦では、リモート2戦、デジタル1戦を実施済み。2025年も同様に3戦を予定し、8カ国から8名のパイロットが参戦している。初戦は4月29日に福島で行われ、その映像も公開されている。

 最終戦となる大阪開催は、梅田の2カ所と万博会場(サテライト連動)の計3カ所で、デジタルレース形式で実施される予定だ。さらに、渋谷で行われたデジタルレースではスマホやタブレットだけでなく、HMDやApple Vision Proなどのデバイスでの観戦も提供され、今後はXREALなどのスマートグラスでの観戦対応も進められている。

写真:話をする室屋選手
エアレースパイロットの室屋義秀選手が登壇し、新しい形でのレースへの取り組みなどについて語った

 発表会に登壇した2024年シリーズチャンピオンの室屋義秀選手(LEXUS PATHFINDER AIR RACING・日本)は、「最新テクノロジーによって新しいスタイルのエアレースが実現しましたが、レースならではのギリギリの駆け引きは変わりません」と意気込みを語った。
 なお、第2戦は7月5、6日にリモート形式で開催された。シリーズを通じて進化するXRレースの行方と、大阪での最終戦に注目したい。

AIR RACE X 2025年シリーズ第2戦 予選の様子

▼【公式】AIR RACE X(エアレース エックス)
https://www.airracex.com/ja/