2020年1月23日、株式会社自律制御システム研究所(本社:千葉市美浜区 代表取締役:太田裕朗、以下ACSL)は、新製品「Mini」を初お披露目する発表会を開催した。国産・小型で安価なドローンへの需要の高まりを受け、同社では1年以上前から全力を挙げて開発に取り組んできたという。

屋内外対応可能な国産・小型の産業用ドローン「Mini」。GPS環境下、非GPS環境下での自律飛行の切り替えが可能(飛行前)で、Visual SLAMを用いた非GPS環境下でも高性能な自己位置および方角推定が可能なところが魅力。

小型産業用ドローン「Mini」の特徴4つ

 「Mini」は、屋内外対応可能な自律飛行ドローンで、点検と災害時の状況確認を主な用途として見据えている。機体の特徴は、ACSL事業開発本部長 六門直哉氏が端的に解説した。大きな特徴は4つだ。

「Mini」の特徴を解説する、ACSL事業開発本部長 六門直哉氏。「最大の特徴は、Visual SLAMだ」と話し、自律飛行技術の高さを強調した。

(1)安心の国産ドローン
 独自開発のフライトコントローラー「ACSL AP3」をはじめ、通信制御、センシング、データ解析技術など、データセキュリティに関する技術やハードウェアは、NVIDIA製のGPU以外、自社開発または国産にこだわった。

(2)使い勝手の良い機体設計
 ジンバルの装着位置は、機体の下方と上方の2箇所、用途に合わせて選べるようにした。しかも、多様なセンサーを装着可能だ。30倍zoom、APS-Cセンサー搭載の点検用カメラ、赤外線カメラなど、対応は幅広い。プロペラも、これまでネジで止めるタイプだったが、押して回すだけで簡単脱着に変更するなど、現場での使い勝手を追求した。

(3)安全機能
 Visual SLAMを用いた、非GPS環境下でも高精度な自己位置および方角の推定のほか、衝突回避機能も見逃せない。2つのレンズがついたステレオカメラを、前方と後部下方の2箇所に搭載した画像処理に加え、前後左右上下に6つのセンサーを搭載して衝突を回避し、飛行の安全を確保。IP43の保護性能で、防塵防水を図った。「雨の日でも飛ばせる」という。

(4)小型でのトップクラスのスペック
 機体サイズは、縦横とも70.4cm、カメラ・ジンバル搭載時の高さ30.0cm。産業用ドローンとしてはかなり小型だが、最大飛行時間は48分。カメラ・ジンバル搭載時でも33分と画期的だ。耐風速度は10m/s、同社主力機「PF2」と同等とは頼もしい。

 魅力的な特徴がずらりとラインナップされた後、「販売価格は80万円」との一言に、会場はある種の”納得感”に包まれたように感じられた。(スペック一覧は記事最後部に掲載)

開発背景には、「国産・低価格・小型」という市場からの要望

ACSL取締役 最高執行責任者(COO) 鷲谷聡之氏。「国産で安心できる、アフォーダブルな価格帯で、大型ではない小型のドローンがないかというお問合せは、1年以上前からいただいていた。」と、開発の背景を明かした。

 点検において、狭小空間および非GPS環境下への対応は、かなりニーズが高い。プラント、建屋、工場、倉庫など、従来の大きな機体では近づけなかったり、入り込むことが難しかったエリアや、屋内はもちろん屋外にも橋梁下や構造物の近くなど、非GPS環境下での作業が求められる場所が数多く存在する。市場からは、非GPS対応・自律飛行の機能はそのままに、機体の小型化を求める声が上がっていた。

 また最近は、データセキュリティに対する懸念から、国産ドローンへの需要が高まっている。部品のチップが日本製かどうかまで質問されることもあるそうだ。鷲谷氏は、「ただ日本製というだけではなく、当社は国際的な品質マネジメントシステムISO9001をドローンの開発から製造という名目で認証を取得済み。市場の要望を満たし、かつ国際標準でも安心できる品質の機体が出来上がった」と、国産ドローンメーカーとしての自負を覗かせた。

左が、ACSLの主力機「PF-2」。右が、初お披露目された「Mini」。プロペラ範囲を含めた縦横寸法は、約40cmずつ小型化した。重量も、約7kgから約3kgへと半分以下の軽量化を実現。
前方にあるステレオカメラ。
機体下方にジンバルを装着した状態。
機体上部にもジンバルを装着可。

今春、「Mini」を軸にブルーイノベーションと協業を発表か

ACSLとブルーイノベーションは、「Mini」を軸とした新たなソリューションを発表予定。

 千葉大学名誉教授 野波健蔵氏が2013年に立ち上げたACSLは、2018年12月、日本のドローン専業のメーカーとして初となる上場を果たしたことで有名だ。点検、物流、災害対策を主な領域として、ドローン活用の社会実装に向けた様々な実績を重ねている。

 点検領域では、大手化学プラント企業とドローンの離陸から点検調書の作成までの全自動化に、JR北海道の実証実験では、非GPS環境での点検業務代替に取り組んだ。

 物流領域では、日本郵便と2018年、福島県南相馬市と浪江町の局間配送で日本初となる補助者なしの目視外飛行に成功したほか、最近はANAと、五島列島におけるドローン物流で、1050km離れた羽田空港から遠隔制御を行なった。

 防災・災害対策領域では、昨年、台風被害で孤立した東京都・奥多摩の約40世帯へ、救援物資をドローン配送したことが記憶に新しい。災害特例という実際の法令に即し、いつもは物流で行っているチームとソリューションを災害救助に応用した。

 このように、国産ドローンメーカーのリーディングカンパニーともいえるACSLは、「Mini」を軸としてブルーイノベーションと協業を予定。詳細は、春以降に発表するとのことで、発表会では同社代表取締役社長 熊田貴之氏も登壇した。

発表会に登壇したブルーイノベーション 代表取締役社長 熊田貴之氏。複数のドローンやロボットを遠隔管理できるBlue Earth Platformや、屋内の狭小空間におけるサービス運用および教育事業の運営実績を生かし、「Mini」を軸とした新たなソリューション提供へ意欲を示した。

「Mini」仕様