岡山県和気町でドローンスクールを始めとしたドローン事業を展開するフューチャー・ディメンション・ドローン・インスティチュート(FDDI)は、ファミリーマート、コニカミノルタ、NTTドコモ、和気町と共同で、今秋から「中山間地域におけるドローンの目視外・補助者なしによる 安心・安全かつ効率化されたIoTシステム構築実証」を実施すると発表した。これは、総務省の「令和元年度IoTの安心・安全かつ適正な利用環境の構築に係る委託事業」の一つであり、岡山県東部を流れる一級河川吉井川に沿った30kmの距離を、エアロジーラボ(AGL)のハイブリッドドローンを使って食料品や日用品を運ぶというものだ。

今回の実証実験はIoTサービスの一環として、過疎地買い物支援(ドローン配送)、水稲生育診断、害獣パトロールという3つのテーマに対して、同じ機体を使って取り組む。

 和気町は岡山県の東部に位置し、一級河川の吉井川に沿って広がる人口約1万4400人の自治体で、10年間で約12%人口が減少し、高齢化率は約39%となっており、過疎と高齢化という課題を抱えている。町内には商業施設がなく、町では宅配による買い物サポート制度を設けているが、週に2回程度という頻度で利便性が低いのが課題だ。また、吉井川沿いの道で集落が結ばれていることもあり、災害時には水害や土砂災害で集落が孤立する可能性もあるという。

 こうした買い物弱者の増加に対して、町では継続的かつ低コストの支援システムの構築を模索。すでに中山間地の特性を活用した大型ドローンによる輸送改革・地方創生モデルの実証特区として国家戦略特区を申請している。また、2018年度には「平成30年度CO2排出量削減に資する過疎地域等における無人航空機を使用した配送実用化推進調査」として、同様の実験を実施。今年度は総務省の事業の一環として、実証実験を発展継続させた形となっている。

30kmの長距離飛行を実現するエンジンハイブリッドドローン

 今回の実証実験は和気町内にある和気ドームを拠点に、津瀬、南山方、田土という3つの集落を巡回する形で、ファミリーマートと天満屋ハピータウンで集荷した商品をハイブリッドドローンが配送。ドローンは吉井川上空をあらかじめ設定されたルートに沿って飛行し、各集落に向かう。津瀬は吉井川に臨む集落で、田土は吉井川の支流を2kmほど上った位置にあり、いずれも川沿いの集落となっている。一方、南山方は津瀬から里山を350mほど上った山の上の高台にある集落であり、ドローンは斜面に沿って高度を上げるルートが必要となる。

今回の配送実験では毎週火、木、金の3日。利用者が当日朝9時までに電話・FAX・注文アプリを使って商品を注文し、11時にドローンが和気ドームを出発する。
実験コースはルート最南端の和気ドームを出発し、吉井川をさかのぼって津瀬地区に到達し、そこから標高が350m高い南山方地区まで上り、再び吉井川まで下りて田土地区を回って和気ドームまで戻る、約30kmの行程となっている。
配送実験では吉井川から高台の集落まで山腹に沿って約350m上るルートも設定されている。

 実験に使用するドローンはエアロジーラボ製のオクトコプター「AeroRange1号機改良型」で、2ストロークのガソリンエンジンを搭載し、エンジンで発電機を作動させ、その電気でモーターを駆動するシリーズハイブリッド機だ。スペック上は約3時間の飛行を可能とし、ペイロードは約5kgという性能を備えている。

実験に使用するのはAGL製の「AeroRange1号機改良型」。エンジンで発電しながら飛ぶため、最大180分の飛行が可能。
2018年12月に今回とほぼ同じルートで実施された、ハイブリッドドローンによる配送実験の様子。

 今回はレベル3相当の補助者なし目視外飛行となるため、映像伝送による常時監視が求められる。そのため、機体に搭載したカメラからの映像を、NTTドコモの4G LTE回線を経由して運航管理拠点に伝送。また、飛行は原則としてあらかじめ設定したルートに沿って飛ぶ自動航行ではあるが、緊急時の対応などでオペレーターによる操縦が必要な場合には、一般的な2.4GHz帯のプロポを使って行うことになっている。AGLによるとこの操縦系の無線も、体制がととのい次第4G LTEに切り替えていくという。

ドローンの通信は、カメラの映像伝送に2.4GHz帯のWi-FiとNTTドコモの4G LTEを使用。操縦系には一般的な2.4GHz帯のプロポを使用する。

 この買い物支援のプロジェクトが見据えているのは、運航管理拠点からオペレーター1人がすべてを管理するというもの。そのため、運航管理拠点以外の集落にある離発着場所では、離発着時に人の立ち入りがあるかといった監視のために、遠隔監視カメラをヘリポートのそばに設置。これはコニカミノルタが輸入している独MOBOTIX社のIPネットワークカメラで、180度の範囲を撮影して監視ができるほか、スピーカーを備えていて、その場にいる人に向けて注意を促すといったことができる。コニカミノルタではこのカメラに専用SIMを使ったモバイルルーターを組み合わせ、運航管理拠点とモバイルで結んでヘリポート周辺の監視を行うという。

ヘリポートはコニカミノルタが提供する独MOBOTIX製IPネットワークカメラで監視する。

 また、今回の実証実験ではコニカミノルタとヤンマーの合弁会社であるファームアイのリモートセンシング技術を使い、10月上旬に和気町内の約1haの圃場を使って水稲生育診断の実験を実施。同様に12月上中旬には同ドローンを使って害獣駆除と山林測量の実験を実施するなどして、FDDIではシェアリング型ビジネスモデルの実証を行うとしている。

今回取り組むテーマとしては配送、農業、害獣駆除の3つだが、実験ではそこに森林測量を加え、ひとつのドローンで多角的なIoTサービスを担い、稼働率を上げながら地域課題を解決するとしている。
生育診断はファームアイの技術を利用して、和気町内の1haの圃場で実験を実施。
12月には和気町の隣にある赤磐市の約10haの山林を使って、樹高や本数、材積の算出を行う予定だ。