社会を変革する新興テクノロジーとして、AI・IoTなどと並んで期待を集めているのがドローンだ。物流、農業、土木などさまざまな分野での応用が模索される中、防災や災害発生後の対応において、着実に事例が積み上げられているという。

 地すべり研究に長年取り組み、平成30年広島豪雨など複数の災害現場でドローン撮影を行ってきた、防災科学技術研究所 研究員の内山庄一郎氏に話を聞いた。聞き手はドローン・ジャパン株式会社 取締役会長の春原久徳氏。

地すべり研究者がドローンに出会って、なにが変わったのか

──内山先生がドローンに注目したのは、いつだったのでしょうか?
内山 :2012年の夏ごろだったでしょうか。その頃は自作のドローンを飛ばし始めていました。そのきっかけは空中写真(航空写真)の撮影です。

防災科学技術研究所・内山庄一郎氏

 もともと私は(研究者として)地すべり地形の分布を日本全国で地図にする作業をしていました。これは国土地理院が撮影した空中写真を使って、地すべり地形──つまり山が大きく崩れて移動した場所を目視で判読し、その形状を地図に示すというものです。 日本の全国土で、約40万カ所の地すべり地形を地図化しました。

 この地図「地すべり地形分布図」は1982年から2014年までの33年間をかけて作られました。その最後の約10年間の作業に、私は携わりました。

 なぜこの地図を作ったかといいますと、地すべりは同じ箇所で繰り返し起こりやすいという経験則があります。そこで、1982年当時、土砂災害の防災対策を進める上では、地すべりが起こりやすい場所をあらかじめ把握しておいたほうがよいだろうという発想が生まれ、前任の研究者らが取り組みをはじめたものです。

──国土地理院による空中写真撮影は、どれくらいのペースで行われているのですか? 1年に1回くらい?

内山 :いえ、約10年に1回です。防災の観点から地すべりの箇所を画像から判別することを仕事にしてきた訳ですが、実際の災害対応で考えてみますと、写真が10年に1回しか撮られていないのでは到底データ不足です。

 そこへ出てきたのがドローンです。自力で空中写真を撮影できるじゃないか。これはスゴいぞと注目したのが、最初のきっかけでした。

──最初はどんな風に撮影されていたんですか?

内山 :最初の頃は、リコーのGR(デジカメ)をぶら下げてインターバル撮影(一定の時間間隔で自動的にシャッターを切る方法)をしていました。

 広い範囲を1台のドローンで撮影するときは、ドローンの位置を少しずつずらしながらシャッターを切り、それらの画像を並べるように合成して1枚の「オルソ画像」に仕上げます。この際、撮影範囲をどれくらい重複させるのか(オーバーラップ率)などを正確に計算しなければなりませんが、なにぶんインターバル撮影では2秒に1回のシャッターです。重なる部分がなるべく多くなるように、とにかく沢山シャッターを切るようにしていました。

──写真測量のようなイメージですね。

内山 :はい。それに加えて最近はStructure from Motion(SfM)というものもあります。

 例えば自動走行するロボットは、周囲の環境を立体的に認識できていなければ、すぐ障害物にぶつかってしまいます。つまりロボットに内蔵したカメラでとらえた映像を、“瞬間的”に三次元処理しなければならない。これがSfMの基本的な考えですが、今はこの技術が応用されたアプリなども販売されています。

 そもそもは「ロボットの目」としての役割だったSfMですが、これを写真測量、さらにはドローン撮影に応用できると考える人が出てきました。今やもう、2次元の空中写真にSfMを組み合わせて3次元化するのも当たり前になってきました。

 災害対応でも効果を発揮します。災害が発生した場所でドローン撮影し、SfMを使う。すると今まさに救助活動が進展しているところで、災害の現状を把握するための立体的な地図ができあがるんです。

 これまでだと、険しい山奥などに救助隊を派遣するかどうか、現場の隊長がそれこそ人的損失のリスクなども考慮して、決断していました。しかしこのデータがあれば、救出経路の選定なども含めて以前よりもずっと合理的に判断することが可能になります。

──機材には、どれくらいの性能レベルが求められていますか? DJIのMavicあたりで問題ない?

内山 :それで十分ですね。私が災害時に使っている機材は結構古くて、体一つで現場に行くときは初期型のPhantom 4です。ある程度の写真さえ撮れれば問題はないので……もちろんそれ以上の機能もあればいいとは思いますが(笑) Mavic 2 Enterpriseは音も静かだと言いますし、有人航空機も飛行する場所では、アンチコリジョンライト(M2Eビーコン)が良さそうです。

画像に求められる精度は、提供相手によって変わる

──お話を聞くと、ドローンによって研究手法の在り方も大きく変わってきたようですね。

内山 :そうですね。ただドローンで写真測量を本気でやるとすると、精度の追求は大変です。

──測定誤差は、現状ではどのくらいなんでしょうか?

内山 :コストと時間さえかければ1cmレベルの精度も可能です。結局のところ、精度の追求に必要なのはドローンやカメラの性能もさることながら、地上側に高い位置精度を持った標定点をどれだけ用意できるかどうか、がポイントになってきます。

 このため、例えば駐車場の白線の交点など、標定点として使えそうな模様がない場所では、ドローンを飛ばす前に標定点を設置する作業が発生します。

地上に設置した標定点の例

 自分で使ったことはありませんが、最近、Phantom 4 RTKという製品があります。Real Time Kinematic(RTK)技術を使って、ドローン本体の位置を数cmの精度で計測し、さらにレンズ歪み情報も画像データに含まれるようです。これらの情報を組み合わせれば、地上側に標定点がなくても高精度な画像を撮影できる可能性があります。

 Phantom 4 RTKを実際に使った報告を見聞きした感じでは、誤差30cmくらいの精度でオルソ画像などが得られるようです。ここに地上側の標定点を数点、加えてやれば、5~10cmレベルの精度が期待できる。これは、高精度なSfM写真測量に必要だった作業量を半分以下、もしかしたら3/4くらい削減できるかもしれません。

──では、それが防災目的でとなると、どれくらいの誤差に収めなければならないといった条件はありますか?

内山 :それは状況によります。防災の指令体制をピラミッドで図示すると、その頂点に内閣総理大臣(国)がいて、下へ向かって、知事(県)がいて、市町村長(自治体)がいて、隊長(災害現場)がいる。そして、各層に属する人は、下に向かって多くなる。これらのうち、どの層に向かって届ける情報かによって、求められる精度は変わります。

災害情報利用者のピラミッド

 内閣総理大臣には、国のどこでどんな規模の災害が起きているかが重要であって、高精度なドローン画像は、直接的にはそれほど必要ではない。逆に現場の隊長に、県全体が写っている衛星画像を見せても困ってしまいます。彼が欲しい情報は、活動している現場の家1軒1軒の庭先の土砂の状況が分かるような画像です。

 したがって、情報を提供しようとする側も、詳細だけれど対象範囲が狭いドローンの情報が、提供しようとする相手にとって、何の仕事にどの程度役に立つのか、よく考える必要があります。

 このほか、精度が悪いと問題になる状況として、例えば、災害前後の変化を比較するケースが挙げられます。災害発生直後にドローン画像を撮影すれば、それは「1時期」であり、あまり精度の問題は出てきません。しかし、ある地点の災害発生前に撮った画像と発生後のドローン画像を比較したいとなると、これは「2時期」なので、ちょっとしたズレも気になってしまう。パラパラ漫画を想像してもらえば、わかりやすいでしょう。

救助現場でこそドローンの活用を

──ドローンの防災活用を語る上では、どんな点に注意が必要でしょうか?

内山 :まずドローンは「局地的な情報取得ツール」だという基本的な理解が必要です。つまり先ほどのピラミッドのお話しで言えば、ドローンの情報の細かさや精度は、下側の広い部分――─現場でまさに捜索救助や被害個所の記録を行う方々───に適しています。

 当然ですが、ドローンは飛行高度が低く、飛ばせる時間も短い。県や市域全体の範囲で画像が見たいのであれば、それはやはり飛行機や人工衛星で撮った写真を使うほうが効率が良いです。

 そしてドローンは、撮影してすぐにその場で情報を利用できます。それこそ救助のためのスコップを持っていて、今まさに現場が危ないかどうか知りたい、そういった方に情報を届けるのが、ドローンに向いた役割だと思います。

 とはいえ、災害は発生後、時間が経つほど情報が増えていきます。文字通りの災害発生「直後」は、ピラミッドで言うところの上部の方々であっても、ドローン画像は重要かも知れません。しかし、時間が経てば空中写真を撮るための飛行機が飛び、衛星写真も揃ってくる。

 すると(首相・首長クラスには)ドローン画像の重要性は落ちていく。しかし現場の方なら、時間が経ってもドローン画像の重要性は変わりません。そういう意味でも、ドローンは局地的な、現場の方向けのツールだと言えます。

 ただ、現場の方がドローン画像を活用するには課題もあります。まず、現場の方が使えるツールではなくてはいけません。ドローンの専門家が到着して、それから撮影をしていたのでは、捜索のためには遅すぎることもあるでしょう。人がどこに埋まっているか、いち早く目星をつけたい。それなのに「専門家が来るのに2日かかります」ではどうにもならない。将来的には、消防士が一人一台のドローンを持つようなイメージでしょうか。Mavic 2 Enterpriseはそのようなアピールをしていましたね。

オルソ画像を1枚見ただけで、どこに人が埋まっているか特定できる?

内山 :そしてもう1つの注意点が、ドローンで撮影した画像を見て、「どこに土砂が厚く溜まっているか」、「捜索すべきポイントはどこか」を判定すること自体が、かなり難しいという点です。

 写真測量の知識もいるし、コンピュータで分析をするにしてもそれなりのリソースが要る。しかし、地域の消防署にそれだけの設備はありません。高度な解析技術は研究レベルではありますが、実際にどうやって社会の現場で使えるようにするのか。社会実装は大きなハードルですね。

──我々もドローンの事例を色々調べていますが、実証実験が各所で行われる一方、社会実装にまで至っている例は非常に少ないです。

内山 :それは本当におっしゃるとおりですね。さらに直接的な課題もあります。現場の救助隊は119番通報の内容だったり、現場での聞き取りなどによって捜索箇所を検討していました。そこへドローン画像だけがいきなり届けられても、現場の方はどう活用していいかわからない。これはもの凄く大きな問題です。

 実際、私も平成30年7月豪雨で広島県に行って、一帯の様子を上空からドローンで撮影し、オルソ画像の作成まで実施しました。ただ、救助隊の方々は土砂災害の専門家ではありません。捜索すべき場所を決めるためには、画像から、土砂の動きや地形の変化を読み取る必要があります。でも、オルソ画像を見慣れない人には難しい。そのため、私が画像から土砂災害の状況を解説する必要がありました。

土石流被害のオルソ画像

 このオルソ画像には、倒壊した家々と、その周辺が写っています。では、これらの家の方は、どこに流された可能性が高いのでしょうか? 土石流の流路はどこを通ったのか?土砂はどこに厚く、あるいは薄く溜まっているのか?などを画像から読み解いて、現場の目撃情報などと合わせて、被災した時間や場所、流された先などを推定していきます。

 これらを理論的に説明するのがつまり「画像を読む」ということです。どんなに素晴らしいドローンがあっても、画像の読み方についてはやはり現場の救助隊員・警察官・自衛官たちが自ら習得しておかねばならないんです。

 こういった話をすると、「AIは活用できないか」と良く聞かれます。将来的にはあり得ると思います。ただ、そのためには膨大なデータが必要です。近年、災害が多発しているとはいえ、AI構築に十分な量のデータが貯まるほど、災害後の画像や情報はありません。また、地域によって災害の様相はまったく違いますので、AIだけですべてが上手く回るとは思えません。

 それに、自然災害は今すぐにでも発生するかもしれません。AIは、研究としては重要ですが、そうした未来の可能性を今現役の現場の人に話しても、まさに次に来るであろう災害の役には立ちません。

ドローン撮影のポイントは「高度・シャッタースピード・明るさ」

──災害発生後のオルソ画像作成について伺いたいのですが、高度はどれくらいで撮影されたのでしょうか? また1回のフライトでどれくらいの範囲を撮影するのでしょうか?

内山 :高度はだいたい150mですね。範囲は正直ケースバイケースなのですが、周囲の明るさが大きな要因になってきます。ちょっと極端な例ですが、ドローンを10m/毎秒で飛行させ、シャッタースピードを1/100秒とします。

 この1/100秒の間に、ドローンは10cmほど動きます。この時、分解能が5cmの写真を撮影していたら、ドローンの移動によって2画素分のブレが発生しますよね(グランドスミアと呼ばれます)。手ブレならぬ、ドローンブレですが。

グラウンドスミアの例

 そしてドローンの高度を下げれば、それだけ写真の分解能は高くなります。その分、シャッタースピードを速くしたり、あるいはドローンをゆっくり飛ばさなければ、「ドローンブレ」がひどくて使い物にならない写真になってしまいます。

 そして、シャッタースピードは写真の明るさと密接に関係します。つまり、あまりシャッタースピードを速くすると、画像が暗くなってしまう。かといって、ISO(感度)を上げすぎるとノイズが多くなります。

 写真に必要な明るさに応じて、画像にブレが出ないように、シャッタースピードとドローン速度は自然と決まります。ですから、ドローンによる空中写真撮影は、いたずらに高解像度にしてはダメなんです。

 平成30年7月豪雨の際は、7.5cmの分解能で撮影しました。これだけ精彩な画像であれば、礫(れき)のサイズも十分計算できますし、捜索救助の用途では支障はまったくありませんでした。災害時のドローン撮影は(無闇に飛行高度を下げ過ぎずに)150mくらいで、むしろ良いかと思います。

 撮影時の明るさは、天候や雲の流れなどでも逐次変わります。なのですこし暗めに撮影しておいて、後の画像処理で明るさを調整する方法もあります。場合によってはノイズは増えますが、それでもまったくオルソ画像がないよりは良いですから。

──となると、やはり暗い状況での撮影を前提に、ゆっくりドローンを飛ばすのが基本的な考えになりそうですね。

内山 :空中写真を撮影する理想のプラットフォームは、やはり有人航空機だとは思います。(ドローンとは違って)滞空時間の制限もほとんどありませんし。しかし、ヘリコプターが延々上空にいてはうるさいですし、お金もかかります。そもそも有人機の数が限られるので、現場担当者が求める情報を得るためのツールの域を超えてしまいます。

 だからこそのドローンですが、画像の撮影法、画像の“読み方”でそれぞれ課題があります。そしていずれも、ドローンのハードウェア改良だけで完結する問題ではありません。

──災害救助におけるドローン活用について、そのノウハウを共有するための場はあるのでしょうか? 例えば、今の高度設定のお話は非常に重要だと思うのですが。

内山 :今はまだ無いというのが実情ですね。私は研究者ですから、今お話ししたような内容を学会などで発表しています。地域の消防署へ講演に行くケースも年に何度かありますが、それだけで国内の消防隊員約16万人、消防団員90万人すべてに伝えられるかというと、それは限界があります。

 それもあって、2018年9月には「必携ドローン活用ガイド」(東京法令出版)を出版しました。

 消防関係者であれば恐らく「ドローンで要救助者を探したい。その時、ドローンを高度何mで飛ばせば良いのか?」という疑問をお持ちだと思います。研究者のアプローチでこの答えを突き詰めると、「画像上で人間を認識するためには何画素必要か」という技術的問題に集約されます。

 そうなると、カメラの画素数であったり、撮影した画像を印刷して見るのかディスプレイで見るのか、ディスプレイで見るなら動画の利用も選択肢に入ってきます。

 人が地面に横たわった状態であれば、画像には大きく写るので判別しやすいでしょう。しかし森の木の隙間に立っているような状態の人も見つけるには、画像の分解能が高くなければならない。これらを理解して、はじめて撮影高度が決まってくる。あてずっぽうで「だいたい40mくらいで撮影してみよう」ではダメで、技術的根拠があってこそ、効果的な飛行方法を決めることができるのだと思います。