自治体がドローン画像を効果的に活用するには?

──地方自治体において、ドローンの防災活用の動きが広がっています。ドローンの運航会社と災害協定(防災協定)を締結する例も非常に多いです。

内山 :そこで1つ注意したいのは、「ドローン撮影会社は基本的に撮影を専門にするのであって、画像を読む能力までは備えていないことがほとんど」だということです。特に災害発生後の画像を判読して、土砂の動きがどうなっていて、どこに要救助者がいるかなどを具体的に説明するのは無理ではないでしょうか。

 「画像から救助場所を探す」という点においての素養は、やはり救助隊のほうが優れているので、そこに「映像屋」としてのドローン撮影会社がどう貢献できるか。連携の方法を、よく検討せねばばなりません。

──スキームをどう作っていくか、ということですね。自治体とドローン撮影会社がなまじ協定を結んでしまうと、災害関連の専門家がむしろ入りにくくなるとの声も聞きます。

内山 :私は神戸市の防災協定策定に携わったことがあるのですが、その時は提携先の候補となる会社を4社、それらを目的に応じて2種類(2社ずつ)に分けました。一方は「計測班」。ドローンでのオルソ画像作成など写真測量を専門としつつも、災害対策などに詳しい土木コンサルティング会社などが入っているグループです。こちらは「画像を読める会社」ですね。

 もう一方が「撮影班」です。具体的にはドローン撮影を専門とする会社で、災害発生時には建物の周囲を旋回して要救助者がいないかを探してもらう。高度なドローン操縦技術があるのは、どちらかといえばこちらの班です。

 このように、撮影目的に応じて性質が違う会社に集まってもらいました。

 地元にドローン業者がいたから協定を締結するのではなく、事業者の性質をきちんと把握しなければ。それこそ、ドローンを販売しているだけの代理店と防災協定を結んでしまうと、残念なことになってしまうかもしれません。

一刻を争う救出現場では、ドローン運航にも明確な目的が必要

──ドローンとヘリが接触してしまう可能性などは、危惧されていますか?

内山 :有人航空機とドローンの棲み分けに関する法律は、今のところありません。とはいえ今後の利用が拡大していくと……頭が痛い問題ですね。

 私の場合、災害発生後の現場で、消防の関係者とドローンの飛行目的を共通認識として持つことが重要だと分かっているので、まずサンプルとなる実災害で撮影したオルソ画像などを先方に見せ、「この画像があれば、捜索にこんな判断ができます」と説明します。

 それでOKが出たなら、撮影場所は〇〇、撮影時間は○時○○分からの30分間、高度は海抜○○mまで、と場所と空域を厳密に区切ってお約束します。すると、消防側から有人航空機の運航を担当する班へ連絡され、該当エリア・期間は有人航空機が離脱してくれます。

 ただ、これは明確な撮影目的があり、それによって得られる成果の約束と、その活用可能性の大きさを具体的に示すことができるから、対応してもらえる事です。いきなりドローンスクールの人が行って、ただ撮影を“実験的”に行うのは無理がある。「どれくらいの時間飛ばします?」「そうですね、2~3時間もあれば……」「いや無理です」となってしまう。

 災害現場では、今まさに人の生き死にがかかっていて、皆懸命に動いています。そこでただドローンで撮影して、その画像なり動画をUSBメモリで渡したとして、誰が見るのか。それを開いて、画像分析するような機材も余剰人員もいないのです。今まさに進行中の現実の災害では、ドローンを飛ばす以上、極めてハッキリした成果を救助担当者に示さなければなりません。

──となると、内山先生の場合はドローンはもちろん、PCやプリンターなども持って災害現場へ行くこと多い?

内山 :プリンターは持っていかず、コンビニのコピー機のネットプリント機能を使います。いまや性能が上がって、非常に綺麗に印刷できますからね。店舗数も非常に多いですから。ただ、こういった作業フローが世間に浸透している訳ではないので……。

──内山先生だからこそ、できる技ですね

内山 :(笑) ただ、ドローン周りの機能はドンドン便利になってきています。数万円払ってDJI GS Proを使えば、いまやクラウド処理でオルソ画像は作ってくれるようですし。そういった技術的な部分のハードルはこれからも下がっていくでしょう。

 ですから、やっぱり人間側──運用であったり、画像から必要な情報を読み取る技術の習得などは課題です。処理はクラウドで自動化されるにしても、では撮影高度はどうするのか、飛行範囲は?撮影設定は?など人間が決める部分はたくさんあります。

 これらの知識を体系化して、専門家が習得するのはもちろん、各地の消防職員が自らこなせるようにならなければ、万全とはいえません。防災は、地産地消ならぬ、地産地防が基本ですから。

 それができれば、救助隊員が現場到着後それこそ10分で撮影を始められる。しかし、ドローン専門業者に頼むとなると、それこそ片っ端から電話して「今日撮影できますか?」「いや、今は別の地域に機材があって」などのやりとりが繰り返されてしまう。

──理想的には、消防団や消防署員がドローンを扱えるようになること?

内山 :そうですね。ドローン画像は、初動でまずどこへ向かうべきか、その方針を立てるのに役立ちます。SfMで三次元情報が得られれば、例えば、土砂を運び出すためのトラックの台数なども類推できます。

ドローン運用は難しい?──いや、できることはある!

──ドローンを上手く活用しているなと思う事例などはありますか? 例えば焼津市の例ですとか。

防災科学技術研究所・内山庄一郎氏

内山 :焼津市の例は、ここまで説明したようなオルソ画像云々とは活用の方向性が違います。彼らは、画像を読んでどこを救助するか探すのではなく、ドローンで上空からリアルタイムに動画撮影を行い、それをもとに消防車両の配置などを効率化しようというアプローチです。方向性は違いますが、これはこれで非常に有益です。

 このように「ドローンの防災活用」と一口にいっても、方向性は多岐に渡ります。そこで今私が考えているのは、ドローンの運用形態を難易度別に5レベルに分け、低いところから少しずつ実践してはどうか、というものです。「月刊消防」(東京法令出版)の2018年11月号にも寄稿しました。

ドローン活用の難易度5段階

 難易度の最も低いレベル1は「直上からの状況把握」。救助拠点の真上にドローンを飛ばし、そこから地上の様子をリアルタイム動画で確認する。これだけです。言わば「リアルタイム火の見櫓」。もちろん、救助拠点の地図にもなります。焼津の例は、これに近いものです。また、このレベルは特別なドローンでなくとも、十分実践できます。

 レベル2は「広範囲の情報収集」。瓦礫などがあって立ち入れない地域の上空などを、ドローンを任意に操作して撮影・捜索します。半径500~1000mのレベルで捜索できますが、飛ばす先の風の強さなどの予測が必要なため、レベル1よりは難しくなります。

 レベル3が「現場地図の作成」。つまり、先ほど平成30年7月豪雨の例でお示しした、オルソ画像の作成です。ここでは先に述べたように、飛行計画、つまり飛行高度や分解能、撮影設定に関する知識が必要になってきます。また画像を作成しただけではダメで、最終的には「画像を読む力」も必要です。

 レベル4は「既存情報の重ね合わせ」。オルソ画像に対し、国土地理院が無料公開している建物形状の地図を重ねます。こうすれば土砂災害で被災した住宅の位置が一目瞭然となり、非常に効果的です。まだ、現場の消防隊員たちだけでここまでの処理を行うのは難しい面もあります。

 そして、さらに高難度になるのがレベル5の「現場情報の統合」です。レベル4の地図に対し、例えば現場救助隊員に持たせたGPSのトラッキングデータを重ねることで、捜索漏れなどを容易に発見できます。

 実は、さらに上に、SfM写真測量を高度に駆使したレベル6もあり、これは流失した家屋の場所や土砂の厚さも分かります。高度ですが相応に難しいので、現時点では、まずはレベル5くらいまでが近々に社会実装できる可能性が高いレベルではないかと考えています。

レベル6の例

 このようにドローンとドローンで得られた情報の活用を難易度別に分ける事で、それぞれのレベルのメリットや、それに必要な機材・技能がハッキリします。となれば、「まずはやれるところからやろう」という話になります。

 将来の予算措置や、展開の検討にも繋げられる。「知識の体系化」として、ドローン活用を始めるきっかけになってほしいと考えています。

 ドローンスクールで学べることは、基本的にはレベル1のうちの一部──基本的な操縦方法と最低限の法律知識だけです。考えてみれば当然です。教習所でトラックの運転免許を取ったからといって、荷台の保冷庫の使い方までは教えてくれません。もしかすると、災害対応の技術習得ためにドローンスクールに通えば、レベル1~5の全てを教えてくれると考えている人もいるかもしれませんが、それは今のところ実現していません。そのギャップは、解消していかないと。

 実は最近、このレベル1の運用を習得するためのヒントとして、「月刊消防」で実用小説を連載しています。2018年12月にスタートしていますので、是非ご覧ください(笑)

悩ましい「撮影コスト」の負担法

──災害対応でドローン撮影した場合、コスト負担などはどうなるのでしょうか? 民間企業でやる場合は、やはり無償にするのは難しいでしょう。

内山 :自治体と民間で防災協定を締結しているか、もしくは、その中身によっても変わると思いますが、事例を見る限り一番多いのは、実費の負担ですね。自治体側からは人件費と機材の減価償却費だけ払い、利益は乗せない。

 ドローンで災害対応に協力した事実が、企業にとってCSRや宣伝に繋がる規模の事業者であれば、それで問題ないかもしれません。しかし、(おもに中小の)事業者には(利益的に)厳しいでしょう。

──個人的には、地域の土建業者がその役割を担えないかと考えています。地元に貢献したいという意識もあるでしょうし、災害発生時には土砂処理などを実際に担います。混乱する現場でドローンを飛ばすのが自治体なのか、消防なのか、協定を結んだドローン会社なのか、ボランティアなのか。それを論議する上での一つの落とし所が、土建業者ではないかと思います。「災害後の撮影」だけをおもな収益源とするドローン撮影会社は、なかなか成立しにくいでしょうし……。

内山 :確かにそうですね。繰り返しになりますが、災害時のドローン撮影は初動スピードが非常に重要です。航空機による撮影であれば、すでに国土地理院と撮影業者の間で協定がしっかり結ばれていて、予算もしっかり確保しています。災害が発生してから入札をしていては遅くなってしまいますからね。いち早い撮影のために、ドローンでもこういった準備をしておく方法もあるかもしれません。

 ただ、航空写真の撮影業者は国内に数えるほどしかなく、撮影の方法も測量法でしっかり定義されているからこそ、できる手法とも言えます。ドローン業者はそれこそ数百社どころではないでしょうし、(技術レベルを示す)免許や作業内容を規定した法律もないので、一筋縄ではいかないでしょう。

──ハードウェアとしてのドローンが成熟する一方で、どういったフレームワークで運用していくのか。そこは本当に大きな課題ですね。土建業者はもちろん、消防団員にも活躍してほしいと思います。

内山 :そもそも消防団員は活動に対してトレーニングを積んでいますし、報酬が出て、保険も完備しています。危険地で活動するには、やはり主役となる存在でしょう。

──となると、やはり内山先生たちが編み出した知見を、本来ドローンが専門ではない土建業者・消防団員に伝えていくかが、どうトレーニングしていくか。そこがやはり重要ですね。

内山 :私もまさにその考えです。神戸市では、ドローンの防災活用についての提案が議員から出され、市の危機管理部門が検討する中で私に相談がきて、色々とお手伝いをしました。ドローンを市が保有・運航すべきなのか、それとも外部に委託するのか。いろいろ可能性を検討して、そこでは運航は「能力の高い民間企業に任せよう」との判断になりました。公務員は部署の異動があるので、もし市職員がドローン撮影技術を学んでも、数年後にはその部署にいないのが普通ですし。

 ただ、どのような手法をとるのかは、自治体ごとにやはり深く議論していくべきです。現に、焼津と神戸の例はまったく違います。そういった積み重ねの中で、最終的に国が主導するのか、それとも地域特性ごとに細分化させるのか。

 自治体には多様性があって、これを狭めてしまうのは問題です。将来像・理想像は分かりませんから、少しずつやっていくことになるでしょう。

ドローンの導入はすでに容易、これからは「どう使うか」に注目

──自治体がドローン導入を検討する上で、費用面はどのように考えたら良いでしょうか?

内山 :ドローン本体については、性能・機能が日々変わっていくので一概には言えないですが、1台だいたい15万円くらいですか。周辺の解析ソフト、PCなども含めて100万円くらいで揃います。

 それよりも、むしろ訓練にかかる費用、人件費などのほうが課題でしょう。お金の面でも、あと時間の意味でも、ですね。またドローンの操縦はともかく、災害対応までを総合的に教えられる人の数はそう多くありません。

──とはいえ、やはり消防本部へのドローン配備はこれからも進んでいくとみていいのでしょうか?

内山 :その方向で考えていいと思います。以前、釜石市の消防署長の講話を聞く機会があったのですが、全国の消防のドローンの配備率がとても上がっているそうで、大変驚いた記憶があります。

──今後、ドローンにどんなことを期待しますか?

内山 :ドローンについては、恐らく放っておいてもドンドン良いものへと進化していくと思います。ドローンに限らず、SfM写真測量の方法など個々の技術も、最新動向を踏まえながら効率化、自動化していくでしょう。

 ドローンはもう低価格化が進んで、簡単に導入できます。自治体別の普及率云々を問うステージは過ぎ、これからは「ドローンをどう使ったか」──そこに着目すべきだと思います。

──確かにそうですね。今、私は農業リモートセンシング(農作物の生育状況などを遠隔地から監視する技術)についても調べているんです。ただ議論がザックリしすぎているというか……作物による違いや、地域の気候差を考慮しないまま、言葉だけが先行しすぎていると感じます。

内山 :ですから、やっぱり「使う側」の問題になってきます。私は研究者なので、知識の体系化をして世に伝えていくのが仕事です。人々がドローンについての議論を深める上での、ベースとなる知識を社会に提示していくことがまず重要だと考えています。