「Antigravity A1」は、360°カメラを搭載したこれまでにない画期的なドローンである。今回は、グリップモーションコントローラーの操作性や、ビジョンゴーグルを通して体験する映像の没入感など、先進的な技術を実際に試してみた。ここでは、コンシューマー向けに販売を開始したAntigravity A1について、初心者の方にも分かりやすいよう、その特徴や注意点を整理して紹介する。

360°撮影がもたらす“編集前提”という新しい発想

写真:飛行するAntigravity A1
中国のAntigravity社が開発したAntigravity A1。アームを展開した寸法は長さ308.6×幅382.3×高さ89.2mm。前方の上下には障害物センサーを搭載。

 従来の空撮ドローンは、機体前方を捉えるカメラを搭載したものがほとんどであり、前方しか撮影できないという制約があった。そのため、操縦者は常に画角を意識し、機体の向きと被写体の位置関係をコントロールしながら飛ばさなくてはならなかった。しかしAntigravity A1は全天周、すなわち機体の上下左右すべてを同時に記録できる。最大のメリットは、撮影時に画角を厳密に決め込まなくてもよい点だ。被写体付近を安全に飛行させ、素材として映像を押さえておけば、後工程の編集で自在に視点を切り出せるのだ。

 2月6日に開幕したミラノ・コルティナ2026冬季オリンピックでは、FPV(First Person View:一人称視点)ドローンが選手に追従し、これまでにないダイナミックな映像を届けていた。従来のドローンでは、このような映像を撮影するには十分な操縦訓練が不可欠だった。だがAntigravity A1であれば、「とりあえず全方位を撮っておき、あとから編集でダイナミックな映像に仕上げる」というアプローチが可能になる。撮影の難易度を下げ、表現の自由度を高めるという意味で、本機は新しい選択肢を提示している。

写真:飛行するドローンの機体下部
Antigravity A1の下部にはセンサー類のほか、着陸時に使用するライトも搭載している。着陸時には機体の安定を図るスキッドが自動で出る仕組みで、離陸時にはスキッドが自動収納される。
写真:ランディングパッド上のドローン
後部にはUSB Type-Cの端子やmicroSDカードのスロットを備えている。撮影は上部と下部に搭載した視野角180°のカメラで行う。

249gの軽量な機体と没入感を生む周辺機器のパッケージ構成

写真:ランディングパッド上のドローン、ビジョンゴーグル、モーションコントローラー
Antigravity A1スタンダードバンドルは、機体、ビジョンゴーグル、モーションコントローラー、バッテリー1本がパッケージとなっている。価格は20万9,000円(税込)。

 Antigravity A1は、機体本体、グリップモーションコントローラー、ビジョンゴーグルが1セットとなるパッケージ製品である。それぞれを順に確認していこう。

 機体サイズは折りたたみ時で長さ141.3×幅96.2×高さ81.4mm。標準フライトバッテリー装着時の重量は249gとなる。諸外国ではホビー用途に分類されることが多い重量帯であり、実際に手に取ると想像以上にコンパクトだ。もっとも、日本国内では100g以上の機体に該当するため、航空法で定められたルールを順守する必要があり、機体登録およびリモートID機器の搭載(Antigravity A1には内蔵)が必要なので注意しよう。

写真:バッテリーとドローンをそれぞれ手に持つ様子
標準バッテリー1本で24分の飛行が可能。ハイキャパシティバッテリーでは39分の飛行が可能になる。

 本機の特徴であるカメラは、機体上部と下部に搭載され、それぞれ半球状となっている。上下180°の映像を撮影し、2つの映像を合成処理することで360°の映像が自動的に記録される仕組みだ。Antigravity A1の開発には、360°カメラやアクションカメラで知られるInsta360の技術が採り入れられている。同社製360°カメラで撮影した映像にカメラ本体が映り込まないのと同様、本機でもドローンは映り込まないように処理されている。

写真:右手に持ったグリップモーションコントローラー
グリップモーションコントローラーは、手のひらで握りこんで持ちやすい大きさ。上面には高度を調整するフライトスライダー(左下部)、ラダーを調整する360度ダイヤル(右上部)など、一般的なドローン用モーションコントローラーとは異なる入力がある。

 本機の操縦に使用するグリップモーションコントローラーのサイズは長さ143×幅45×高さ72.5mm。手にしっかりとフィットするサイズ感で、右手で握り、親指で上面の各種ボタンにアクセスするレイアウトだ。人差し指はスロットルトリガーにかけ、機体の加減速を操作する。グリップモーションコントローラーはVRゴーグルのコントローラーと同様の形状で、本機はビジョンゴーグルを使用して飛行させることから、ビジョンゴーグルの操作とドローンの操作を融合させたモーションコントローラーが採用されたと考えられる。スロットルトリガーは扱いやすく、スムーズに引いたり戻したりできる印象を受けた。なお、一般的なプロポは現在開発中であり、今後アクセサリーとして販売される可能性がある。

 ビジョンゴーグルは幅200×高さ106×奥行き115mmで、一般的なVRゴーグルと大きな差はない。装着時にはメガネを外す必要がある。筆者は強度の近視で、ゴーグル内の視認性に心配があったが、ゴーグル下部に設けられた視度調整ノブによって、映像を適切に見える状態へ調整できた。視野の端がやや見えづらい場面もあったが、飛行に支障が出るほどではない。調整しても見えづらい場合には、別途用意されている視度レンズを使用し、十分に視認性を確保したうえで飛行させよう。

写真:ランディングパッド上のビジョンゴーグル
ビジョンゴーグルのバッテリーは別体となっており、ケーブルで接続する。このバッテリーの重さは175gで、首から下げていてもあまり気にならない。

 ビジョンゴーグルの大きな特徴は、ゴーグル本体にバッテリーを内蔵していない点だ。外部バッテリーをストラップで首や肩から下げ、ケーブルでゴーグルと接続して給電する方式を採用している。これによりゴーグルの軽量化が図られ、重量は340.4gに抑えられている。一般的なバッテリー内蔵型VRゴーグルが600g前後であることを考えると、大きな差だ。VRが広く普及しきらない理由の一つに、ゴーグルの重量による装着時の負担が挙げられるが、本機はその点に配慮した設計といえる。ただし、長時間装着すれば首への負担は避けられないが、最大飛行時間は約24分なので数時間装着するようなケースは少ないだろう。

写真:手に持ったビジョンゴーグル
視度調整ノブはビジョンゴーグル下部に左右とも取り付けられている。ひねったり、左右に動かしたりして、ちょうどよい見え具合に調整する。
写真:ビジョンゴーグルを装着した様子、向かって右のレンズ部分に映ったドローンからの映像
ビジョンゴーグルの左レンズ外側にはモニターがついており、操縦者が見ている映像が映し出されるようになっている。

初心者が押さえておきたい飛行前のポイント

 飛行には専用の「ANTIGRAVITYアプリ」を使用する。購入後はアプリを通じて機体のアクティベーション作業(ユーザー認証などの初期設定)が必要となるため、飛行現場に行く前に済ませておきたい。ドローン、グリップモーションコントローラー、ビジョンゴーグルは出荷時にペアリング済みで、電源を入れれば自動的に接続され、飛行可能な状態になる。

 ドローンの離陸操作は、グリップモーションコントローラー上のフライトスライダーを素早く2回上に押すことでアーミング状態に入り、さらに上方向へ長押しすることで離陸する。ここで理解しておきたいのが、アーミング時の機首方向が、360°カメラ映像における前方基準になるという点だ。ビジョンゴーグル内では全方向を自由に見渡せるため、機体の向きを見失いやすい。最悪の場合、意図しない方向へ飛行させてしまう危険性もある。離陸前に機体の向きを正確に確認し、どちらが前方になるのかを把握してからアーミングすることが重要だ。

写真:飛行するドローンと操縦者
写真では操縦者が向いている方向と、ドローンの機首が一致していない。しかし、ビジョンゴーグルの映像にはドローンの機首方向が捉えている映像が映し出されている。
撮影動画の開始時は機首方向を向いているが、グリッド線が出たタイミング以降は任意の方向に動かしている。機首を向けることなくあらゆる方向の映像を見られるのは面白い体験だ。映像の最後には機首方向に戻している。

30分の飛行で思い通りの操縦が可能に、直感的で扱いやすいコントローラー

 飛行モードは「フリーモーションモード」と「FPVモード」の2種類が用意されている。
 フリーモーションモードでは、ビジョンゴーグル内に機首方向が表示され、モーションコントローラーを動かした方向に向かって機体が飛行する。世界初の設計で、これによって直感的な操縦が可能になった。

 スロットルトリガーで加速し、手首を立てれば上昇、腕を左右に動かせばその方向へ緩やかに移動する。ホバリング中に360度ダイヤルを回せばラダー操作も可能だ。なお、通常のドローンで可能な後退や左右への平行移動(エルロン)は設定されていない。ドローンのトラブルは後退やエルロンによるものが多く、特にFPVを主とする本機では確認不足による事故リスクが大きくなってしまう。本機は後退とエルロンの機能を持たずしても、常時360°全方位の撮影が行えるため、編集段階で必要な画角を切り出せばよい。それに加え、必ずしも被写体に対して正対する必要がないなど、360°カメラは安全性の観点でも大きく貢献している。

 飛行させた印象としては、フリーモーションモードはスピード感を楽しむというより、丁寧に飛行し、映像素材を収集する用途に適しているように感じ、空撮にはフリーモーションモードが扱いやすい印象を受けた。

 一方のFPVモードでは、より意図的でダイナミックな操縦が可能となる。スロットルトリガーで加速し、手首の上下で高度を調整、左右に曲げれば旋回する。その挙動は一般的なFPVドローンに近い。興味深いのは、ビジョンゴーグル内映像は常に機首方向を基準に表示される一方、首を動かせばその方向の映像も360°確認できる点だ。下を向けば機体下方を見渡せるため、障害物の確認がしやすい。まさにコックピット視点で飛行を楽しむ感覚だ。また、通常の機首方向のカメラであれば写り込まないような障害物も、首を動かせば見えるようになるため、飛行中の周囲の確認がしやすいのは大きなメリットと感じた。

 さらに、本機にはコックピットモードが搭載されている。ビジョンゴーグル内に航空機のコックピットやドラゴンの背中などが表示され、没入感を一層高める。360°映像との組み合わせにより、「自分が空を飛んでいる」という感覚を味わえる点は、本機最大の魅力だろう。

 筆者は2スティックのプロポ操作に慣れているため、当初はモーションコントローラーの操作に戸惑いを覚えた。直感的である一方、従来の操縦体系とは異なるロジックがあり、ややクセを感じる部分もある。しかし30分ほど飛行させると徐々に慣れ、とくにFPVモードでは視点を自在に切り替えられる楽しさを強く実感した。ドローンを初めて飛ばしたときの高揚感を思い出させてくれる体験だった。

 1月29日からは新機能「フライトシミュレーター」も利用可能となった。ビジョンゴーグル内から仮想空間にアクセスし、狭いビルの間を飛行したり、高速でゲートをくぐったりといった現実では避けるべき操作も安全に練習できる。基本操作を事前に習得しておけば、実機飛行時の不安も軽減されるだろう。

「目視外飛行」のルールが適用される点に注意

 伝送方式は2.4GHz帯などを使用する独自規格「OmniLink 360」を採用している。飛行させる前は映像伝送や操縦に不安がないか懸念していたが、実際の飛行では通信のロストなどのトラブルは生じなかった。とはいえ、一般的なドローン同様に周囲の電波状況や他機の飛行状況に十分注意して楽しむ必要がある。

 耐風性能はスペック上10.7m/sまで対応するとされる。飛行当日は風速約3m/sで、安定した飛行が可能だった。高度は最大40mに制限したが、さらに高度を上げても安全に飛行できる余裕が感じられた。

 最後に、コンシューマー向けドローンとして幅広いユーザーが魅力を感じられる機体であることから、航空法上の注意点をまとめておきたい。ビジョンゴーグルを装着した飛行は航空法上の「目視外飛行」に該当し、国土交通省の承認が必要となる。それに加え、飛行時には補助者の配置など、安全対策も求められる。そのため、「楽しそうなガジェットだから」と購入し、そのまますぐに飛ばせるものではないので注意が必要だ。本機はビジョンゴーグルを使用せずに目視飛行も行えるが、屋外で飛行させる場合は通常のドローン同様に飛行の許可承認が必要なケースがある。

 総じてAntigravity A1は、ドローンを飛行させるためのルールなどを身につけた上で楽しめるエントリーモデルといえる。とはいえ、現状は屋内で遊べる軽量なトイドローンと産業用ドローンに二極化している。このような大人が楽しめる本格的なトイドローンをきっかけに、多くのユーザーがドローンの世界に興味を持ってもらえると良いだろう。航空法に準拠した上で、目視外飛行や空撮を楽しむドローンとして購入してみてほしい。