2026年6月11日、国産自律型無人潜水機・海中ロボット(AUV・UUV)の開発・製造事業を展開するスタートアップ「BlueArch株式会社」が設立された。東京大学生産技術研究所の巻研究室との共同研究を通じて、最先端のロボティクス・AI技術を基盤とした国産AUVの社会実装を目指す。インキュベイトファンドを引受先とする第三者割当増資による資金調達を行い、事業拡大に向けて採用活動を本格化する。

写真:BlueArchのメンバー

 AUV(自律型無人潜水機)は、人が近づけない深度や危険な海域で自律航行し、データ収集を行うロボット。海底インフラの点検や資源探査・環境調査などを担う技術として注目されており、日本政府の成長戦略においても「重点的に支援すべき17分野」の一つとして「海洋(海洋無人機など)」が挙げられている。

 同社の前身である一般社団法人BlueArchでは、ブルーカーボン調査のため実際にAUVを開発・運用してきた。海中領域の調査におけるコストや体力的な厳しさといった課題に対する可能性を実感したことから、AUVの社会実装を加速させる株式会社を設立した。

 同社では、機体単独で取得データをリアルタイムに認識・識別するエッジAI処理能力や、高度な位置制御・運動自由度を備えた長時間駆動小型ホバリングAUV「HATTORI Neo」を開発・販売する。このAUVを切り口に、多様な用途に対応するAUVメーカーとして技術・製品開発を行い、幅広い領域へと事業を発展させる方針だ。

【技術・製品開発内容】

  • 複数AUVを統合的に運用・管制するためのソフトウェアプラットフォームの構築
  • 仮想空間上での試験による開発加速、およびAUVのミッションシナリオ事前設計を実現する自社開発シミュレーターの構築
  • USV(無人水上艇)をはじめとする異種無人機との連携・協調運用システムの開発
長時間駆動小型ホバリングAUV「HATTORI Neo」

 BlueArchは、東京大学生産技術研究所の巻研究室との共同研究により技術開発を進めていく。同研究室は、AUVを中心とする先進的かつ効率的な海中探査システムの研究開発を推進している。これまでに実海域運用が可能なAUVを複数開発し、鹿児島湾、沖縄トラフ、石垣島、南極等における無索のAUVを用いた海域実証を成功させるなど、数々の実績を有している。HATTORI Neoにも、同研究室で10年以上にわたり開発・改良を重ねてきたAUV「HATTORI」で培われた知見と技術を活用している。

 東京大学駒場キャンパス内の連携研究棟インキュベーションルームを拠点に、キャンパス内に整備された水中ロボット研究施設を活用してAUV開発を進めていく。

写真:巻研究室

 電波が届かない海中での探索・観測は、多くのコストと危険を伴う。海は通信や資源など多様な可能性が期待される一方、人類はまだこの領域を生かしきれていない。AUVによって効率的かつ安全性の高い広域探査を実現できれば、海洋利用の可能性が広がることが期待される。

 同社は、AUVを「海洋の情報インフラ」として海洋産業の発展を後押しながら、海が持つ可能性を引き出す手段として活用していく方針だ。

チーム紹介

代表取締役 CEO 武藤素輝

ソフトバンク株式会社にて、大手製造・建設企業向けのDXコンサルティング・法人営業、AIを活用したスマート養殖の事業企画等を経験。2024年、ブルーカーボン調査に特化した水中ドローンおよびAIモデルの開発とブルークレジット創出を事業とする一般社団法人BlueArchを設立。2026年、BlueArch株式会社を設立。小型一級船舶操縦士、潜水士。

取締役 CRO(Chief Robotics Officer)戒田雄士

東京大学大学院 海洋技術環境学専攻にて、画像認識および制御アルゴリズムを組み合わせた、AUV(自律型海中ロボット)による遊泳生物の自動追跡技術の研究に従事。大学院修了後、ソフトバンク株式会社に入社。自律移動型ロボットや、VLA(Vision-Language-Actionモデル)を搭載した次世代自律ロボットの設計・開発に携わる。ロボカップ世界大会での3位入賞をはじめ、長年にわたりロボット開発の第一線で実績を重ねる。現在はAUVの機体設計および統合開発の責任者を務める。

AUV テクニカルフェロー 関森祐樹

カナダのブリティッシュコロンビア大学(UBC)で工学と商学を修め、在学中には現地のAUVメーカーCellula Robotics社にて水中ロボットの機械設計に従事し、スイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETH Zürich)への交換留学も経験。その後、東京大学大学院新領域創成科学研究科にて博士号(環境学)を取得。第66次南極地域観測隊員としてAUV運用の中核を担い、トッテン氷河沖等の南極海における無索自律航行の成功に貢献。現在東京大学生産技術研究所において日本学術振興会特別研究員として、海中ロボット群のスケーラブルな分散型位置推定手法の研究に取り組む。SSIマスターダイバー。

社外取締役 巻 俊宏

東京大学生産技術研究所 海中観測実装工学センター 准教授。専門は海中プラットフォームシステム学。東京大学大学院工学系研究科環境海洋工学専攻博士課程修了、博士(工学)。米国ウッズホール海洋研究所客員研究員を経て現職。内閣府 政策統括官(経済安全保障担当)付 政策参与として、AUVの産業化に向けた国家戦略の策定・提言に携わる。日本船舶海洋工学会では海中(AUV・ROV)、水面(USV)、上空(UAV)を横断する海洋無人観測プラットフォームに関する研究委員会の座長を務めるほか、NPO法人日本水中ロボネットの理事として水中ロボット競技会を通した次世代育成にも尽力している。

投資家コメント

インキュベイトファンド 代表パートナー 村田祐介

世界各地で地政学リスクが大きく顕在化し安全保障の在り方が根本から変化する中、国に資する非常に大きな役目を帯びたスタートアップが誕生しました。これまでAUVの業界をリードしてきた東大巻研での研究成果を元に、次世代の海洋産業基盤の構築に向けて伴走してまいります。

インキュベイトファンド アソシエイト 岩崎遼登

BlueArchに創業投資をさせて頂きました。
武藤さんとの出会いは一昨年の秋、巻先生からのご紹介でした。東大巻研究室発を前提とした株式会社化の提案をさせて頂き、リード投資家として参画できて、非常に嬉しいです。海洋無人機産業はこの数年、特にこの半年で強い追い風が吹く市場です。高市政権からの注目は勿論、経済産業省からも「日本の次なる飯のタネとなる産業」として、今後の高い成長が期待されています。
情熱的で人を惹きつける武藤さん・強い技術への拘りを有する戒田さんを中心とする力強いチームと、巻研究室の実績を持って、この産業のリーディングカンパニーになるべく、弊社共々ひた走ります。