NTTドコモソリューションズは、京都府流域下水道事務所、テムザックと共同で、2025年4月から12月まで、京都府内の流域下水道管路を対象とした点検業務の高度化に向けた調査・検証を行った。
この検証では、LiDARを搭載した下水道管内走行用多脚式ロボットで取得した下水道管内データに対して、新設時の管壁形状を推定し現状の管壁形状と差分解析を行うAIを適用した。その結果、下水道管の一部区間において、腐食劣化に伴う減肉の深さと範囲の定量的な把握・可視化に成功した。また、京都府の過去の管路点検データを用いて、既存の劣化予測モデルの下水道分野への適用可能性を分析したところ、劣化が進行しやすい区間や劣化の要因などについて、下水道管理者が経験則として感じていた傾向と一部整合する分析結果を得た。
全国の下水道管路のうち、2024年時点で約7%が耐用年数を超えており、2044年には約42%に達すると予測されている(※1)。下水道管路の点検・更新は自治体の財政と技術面で課題となっている。また、下水道の老朽化による道路陥没事故が相次いでいることを受け、国土交通省は下水道点検のガイドライン改正を進め、点検・調査の対象や頻度の増加、定量的な評価項目の追加等を検討している。この改正により点検・調査の対象や頻度が増加する中、修繕等の優先順位を適切に判断しなくてはならない。しかし、従来の目視や画像による点検では、腐食の有無やひび割れなどの表面状態は確認できる一方、腐食の深さや範囲を定量的に把握できないため、修繕の緊急性や優先順位の判断は困難であった。
※1 出典:国土交通省HP 下水道の維持管理
https://www.mlit.go.jp/mizukokudo/sewerage/crd_sewerage_tk_000135.html
検証内容・成果
2025年4月から2025年12月まで、京都府内の流域下水道を対象とした減肉の定量評価および管路の劣化予測を行った。
【各者役割】
| NTTドコモソリューションズ | ・AIやデータ分析技術を用いて減肉の定量把握を実現する技術の検討 ・蓄積された点検データを用いた劣化予測や劣化要因分析の実施 ・検証の企画・実行 |
| 京都府流域下水道事務所 | ・広域的な幹線管路の管理により蓄積した知見を活かした対象管路の選定 ・検証フィールド・蓄積された点検データの提供 ・検証の成果評価 |
| テムザック | ・高い走破性を持つ多脚式ロボット「SPD-X」の開発実績を活かした下水道管渠内でのデータ収集 ・運用に向けた課題の抽出 |
1. 下水道管の減肉定量把握
下水道管路の劣化状態把握では、腐食による「減肉」の早期把握が重要となる。下水道管内では硫化水素などにより、コンクリートが化学的に反応・劣化して管壁の厚みが失われる「減肉」が起こる。この現象は外観からは把握しづらく、劣化部分の深さや範囲の把握を誤ると、管の破損や道路陥没につながるおそれがある。こうした背景から、今回の検証では下水道管内の点群データから減肉の定量把握が可能か確認を行った。具体的には、まず多脚式ロボットに取り付けたLiDARにより管内の点群データを取得し、そのデータをもとに新設時の管壁形状をAIにより推定するとともに、差分解析を行うNTTドコモソリューションズ独自技術を適用した。その結果、新設時と現状の差分を算出し、差分を腐食に伴う減肉と定義することで、検証対象の下水道管の一部区間において、減肉の深さおよび範囲の定量的な把握に成功した。
【主な成果】
- 点群データから新設時の管壁形状を推定、差分解析により新設時と現状との差分を確認
- 誤差1cm程度の精度で形状推定が可能なことを確認
- 減肉の深さ・範囲を定量的に把握可能であることを確認
【将来的に期待される実業務での活用例】
- 減肉量・管厚の定量測定作業の効率化
- 減肉の深さ・範囲の定量把握による、修繕箇所判断の高度化
- 減肉進行のモニタリングと進行度合いをふまえた予防保全の実施
2. 下水道管路への劣化予測モデルの適用
京都府が保有する過去の管路点検データをもとに、NTTドコモソリューションズが道路・橋梁分野で展開している混合マルコフ劣化予測ハザードモデル(※2)の下水道分野への適用に向けた分析を行った。具体的には、劣化が進みやすい区間の推定、期待寿命の算出、劣化に影響を与えると考えられる要因を分析し、周辺にカーブが存在する管路の期待寿命が短い傾向にあることなど、下水道管理者が経験則として感じていた傾向と一部整合する分析結果を得た。
※2 大阪大学大学院工学研究科の貝戸清之教授らが階層ベイズ推計手法をもとに開発した、社会インフラの健全度の推移を確率論的手法を用いて推定するモデル。NTTドコモソリューションズと同研究科は、共同研究として混合マルコフ劣化予測ハザードモデルの社会インフラ維持管理への活用を検討しており、この検証では下水道管の特性を考慮した劣化予測を行っている。
【主な成果】
- 過去点検データより、検証フィールドにおいて劣化が進行しやすい区間を推定
- 期待寿命の算出により、将来的な健全度の変化傾向を推定
- 管路のカーブ(※3)が劣化に影響しうることを、データ分析により示唆
※3 この分析では、管路の進行方向が大きく変わる箇所を「カーブ」と定義し、具体的には隣接する管路区間同士のなす角が150度未満となる箇所をカーブと定義している。
【将来的に期待される実業務での活用例】
- 劣化速度の傾向をふまえた点検箇所の優先度付け
- 将来的な劣化予測に基づく修繕・更新計画の最適化
- 長期的な維持管理戦略の高度化
今回の検証では、多脚式ロボットに搭載したLiDARにより取得した点群データを用いた減肉の定量的な把握と、過去の管路点検データに基づく劣化予測モデルを用いたデータ分析を実施した。これらの結果の妥当性や適用範囲を評価するためには、今後さらなる検証が必要となる。
NTTドコモソリューションズは今回の知見をもとに検証を継続し、NTTグループをはじめとするパートナーと連携して自治体や下水道点検事業者への展開にむけて取り組みを進める方針だ。
