2026年3月4日、産業技術総合研究所(以下、産総研)地質情報研究部門を中心とした研究グループは、人が立ち入ることが難しい危険地帯でドローンを活用した空中磁気探査を実施し、地下構造を高解像度で可視化することに成功したと発表した。
斜面災害の発生リスクを評価するためには、地下の脆弱部の把握が重要となる。地下構造を推定する手法の一つとして磁気探査が有効と考えられているが、地上からの観測は観測機器を持ち込める地域が限られており、火山地域や急峻な斜面などの危険地帯では十分な測線密度で測定することが困難である。有人航空機による空中磁気探査は運用コストがかかる上、地形に沿った測線密度の高い観測は難しかった。
今回、過去に地すべりが発生した熊本県の阿蘇火山中央火口丘西麓(阿蘇火山西麓)を対象に、ドローンを用いて低高度かつ高測線密度の空中磁気探査を行い、従来のヘリコプターを使った探査に比べて4倍以上の空間解像度でデータを取得した。さらに、産総研独自の3次元磁気インバージョン解析を利用した地下構造の可視化に成功し、熱水変質帯の詳細な分布を明らかにした。この技術は、地下の脆弱部など周囲と比較して磁気的な特徴の異なる場所を遠隔・非破壊で把握する能力を持ち、斜面災害リスク評価や資源調査、インフラ管理など幅広い分野への応用可能性を示している。
日本では、豪雨や地震で発生する土砂崩れや地すべりといった斜面災害による被害が問題となっている。これらは地下の脆弱な部分が原因となる場合があり、危険性の高い場所を事前に把握することが被害軽減につながると考えらている。特に火山地域では、火山ガスや熱水の影響によって岩石が化学的に変化し、脆弱化した熱水変質帯が地下に形成されることが知られている。こうした変質帯の分布を正確に把握することは、防災の観点から重要である。
岩石には磁鉄鉱などの磁性をもつ鉱物が含まれており、量や変質の程度に応じて地表で観察される地磁気(地球磁場)の強さは変化する。磁気探査はその場所の地磁気の強さを測定し、標準的な地磁気分布との差分(地磁気異常)を解析して、地下の岩石分布や磁気的特性が周囲と異なる場所を推定する。地質調査や資源探査などの分野で活用されてきた。
急峻な斜面や火山地帯は、人による観測が困難な場合が多く、ヘリコプターなどの航空機に磁気センサーを搭載する空中磁気探査が行われてきた。一方、有人航空機は地形に沿った低高度での柔軟な観測が困難で、運用コストも課題であった。近年は磁気探査にドローン技術を応用する取り組みが進められているが、火山地域のように地形が急峻で環境条件の厳しい場所での適用例は限られていた。
産総研地質調査総合センター(以下、GSJ)は、ヘリコプターなどの航空機やドローンを用いた空中磁気探査の測定技術の高度化、データ解析手法の開発に取り組んできた。GSJは、2020年の閣議決定および関連する経済産業省の「第3期知的基盤整備計画」を受けて、「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備事業」を2022年度から実施している。この研究はその一環であり、斜面災害に関わるリスク評価のための空中磁気異常情報の整備として実施したものとなる。
研究内容
この研究は、人が立ち入ることが困難な火山地域や急峻な斜面において、地下の脆弱部を高解像度で把握することを目的としている。ドローンを用いた空中磁気探査と、磁気データから地下構造を推定する3次元磁気インバージョン解析を組み合わせた手法の適用性を検証した。対象地域には、過去の地すべりや斜面崩壊の履歴を残す熊本県阿蘇火山西麓を選定した。
まず、広域的な地下構造を把握するため、既存のヘリコプター搭載磁気探査データを再解析し、阿蘇火山中央火口丘西麓一帯の地磁気異常分布を整理した。その結果、噴気地帯や温泉が分布する地域では、周辺に比べて磁気的特性(磁化強度)が弱い領域が面的に分布していることがわかった。磁化強度の弱い領域は、過去の地質調査で熱水変質帯が分布するとされてきた場所とよく一致しており、地下深部から浅部にかけて熱水の影響を受けた変質帯が広く存在している可能性を示唆する。
次に、より浅部の詳細な地下構造を把握するため、過去に地すべりが発生し、かつ熱水変質帯が分布する阿蘇火山西麓を対象にドローンを用いた低高度・高測線密度の空中磁気探査を実施した。飛行高度100m以下、測線間隔25mという低高度かつ4倍の測線密度で測定することで、有人航空機による探査では困難な極めて高い空間分解能の地磁気異常のデータを取得した。また、ドローン搭載機器から生じる磁気ノイズを低減することで、斜面付近での安定した観測を実現した。
取得した地磁気異常データに対して産総研の3次元磁気インバージョン解析を適用し、地下の岩石・地質の磁化強度の分布を推定した。その結果、地表から深さ数十mにかけて、磁化強度の著しく低い領域が深度方向に連続的に分布し、深部では磁化強度の低い領域が水平方向に広がっていることが明らかになった。現地の地質調査や岩石試料の磁気特性の測定値と比較したところ、浅部の低磁化領域は粘土鉱物を多く含む熱水変質を受けた火山岩に対応していることがわかった。熱水変質により岩石中に粘土鉱物を生成するとともに、磁性鉱物が破壊されることで磁化が低下していると考えられる。
磁気探査によって地下数十mに至る範囲の熱水変質による粘土化領域を遠隔・非破壊で把握できることが示された。
さらに、過去に発生した地すべり地形と磁化強度分布を比較した結果、過去の地すべりが、こうした低磁化領域の地表付近で発生していることがわかった。特に、溶結火砕岩からなる崖地形の縁辺部では、局所的な低磁化帯と地震に伴う地割れ・崩壊の発生位置が一致しており、地下の変質部が斜面の不安定化に関与している可能性が示唆された。
従来、斜面災害の危険性評価は地表に現れた情報を中心に行ってきたが、今回の研究は、地下の地質構造や熱水変質帯の分布といった目に見えない要素が災害発生に深く関与していることを示した。また、ドローン空中磁気探査と3次元磁気インバージョン解析を組み合わせた手法は、危険地帯に立ち入ることなく地下の脆弱部を把握できるため、火山地域や急傾斜地における斜面災害リスク評価の高度化に貢献する技術として期待される。
今後、この手法を他の火山地域や斜面災害多発地域に適用することで、国や自治体による防災・減災計画の立案や重点的な監視・対策区域の選定など、実践的な防災施策検討の基礎データとして活用されることを見込んでいる。
今回の調査・解析手法は、斜面災害リスクの評価に限らず、地表からの調査が困難な状況において高解像度で地下の地質構造の把握が必要なさまざまな場面に活用することで、山間部での橋やダム・トンネルなどの構造物の建設に関する地質調査や、鉱物資源や天然水素などのエネルギー資源のポテンシャル評価への適用も期待される。
この研究成果は、2026年3月4日「Progress in Earth and Planetary Science」に掲載された。
論文情報
掲載誌:Progress in Earth and Planetary Science
タイトル:UAV-based magnetic survey for detecting hydrothermal alteration zones relevant to landslides: A case study at Aso Volcano, Japan
著者名:Shigeo Okuma, Ayumu Miyakawa, Hikari Yonekura, Keiichi Sakaguchi, Hideo Hoshizumi, Tomoya Abe, Daisaku Kawabata, Yoshinori Miyachi, Nobuo Matsushima
DOI:10.1186/s40645-026-00800-3
