2025年4月23日、ソラビジョンは、東京都内上空700m以上の高度でドローンの夜間目視外飛行により、二酸化炭素濃度の鉛直濃度変化を時系列的に観測することに成功したと発表した。
同社代表の渡辺氏は、京都大学東南アジア地域研究研究所の連携准教授を兼務しており、ドローンを用いた環境計測の研究者として産学連携を推進している。今回、東京大学大気海洋研究所の今須良一教授が研究代表者を務める「地球環境推進費:衛星観測データによる大規模排出源からの二酸化炭素排出量推定モデルの開発と定量的精度評価」プロジェクトの一環として、都内・高高度・夜間・目視外飛行を実現し、二酸化炭素濃度の鉛直濃度変化を時系列的に測定することに成功した。このプロジェクトでは、ソラビジョンが総指揮を執り、東北ドローン、矢野法務事務所と合同チームを結成して観測を行った。
| 観測実施日 | 2025年3月17~18日(夜間から早朝にかけて実施) |
| 観測地点 | 東京都内某所河川敷 |
| ドローン | DJI製「Matrice 300 RTK」 |
| 観測装置 | Leica製「LI-840」 |
| 観測方法 | 高度740mまで上昇後、下降しながら100mごとに30秒間ホバリングして測定 |
観測地点は、都内という立地条件や、夜間・高高度・目視外という飛行条件に加えて、米軍の横田基地、陸上自衛隊立川駐屯地 東部方面航空隊の水平表面内に位置しており、飛行許可申請の難易度は非常に高いものとなった。
ソラビジョンでは、まず、今須教授と観測の目的や手法、取得したい情報などについて学術的ディスカッションを行い、ドローンでの観測に最適な飛行場所をGIS(地理情報システム)データをもとに抽出した。あわせて、飛行場所に関連する地方自治体や国等の各行政機関と連携を図りながら、ドローンの飛行許可申請を矢野法務事務所に依頼した。
観測装置をドローンに搭載するための治具の開発と当日のフライトは、高度なドローン操縦技術を有する東北ドローンが担当。ドローンを用いた二酸化炭素の観測に造詣の深い秋田県立大学 生物資源科学部生物環境科学科 井上誠准教授が開発した装置を搭載し、夜間から明け方における大気中の二酸化炭素濃度の鉛直分布について高度700mを超える地点まで観測した。
夜間は強風で実施できなかったが、翌日の夜明け前から日の出数時間後までの複数回の観測を実施。飛行時間と高度を変えながら観測することで、人間活動が徐々に活発化していく中での二酸化炭素濃度の変化を時間的・空間的に取得することができた。この成果は、今後研究チーム内で精査し、論文や学科発表等を通じて社会へ発信するとしている。
関係者コメント
東京大学 大気海洋研究所 気候モデリング研究部門 部門長 今須良一教授
2025年度に打ち上げられる日本の温室効果ガス観測衛星GOSAT-GWや二酸化炭素観測用レーザレーダによる測定結果をより直接的な方法で検証できるようになり、今回の実験でこれらの手法の確立が一層進んだと考えております。
ドローン観測の弱点の一つは、測定の同時性であり、時間的に変化する気象要素などの空間的な広がりを捉えるためには、可能な限り短時間で測定を完了する必要があります。そのため、同時に多数の機体を飛ばすなどの方法が有効ですが、搭載するセンサーが高額の場合、費用がかさむことから、安価で高精度なセンサーの開発も同時に求められると考えております。
秋田県立大学 生物資源科学部 生物環境科学科 井上誠准教授
まず、二酸化炭素を観測するための装置として、精度が高くかつ比較的軽量でドローンに搭載しやすい構造の装置を選択し、外気を吸引するために市販のダイアフラム式ポンプを採用、データロガーやバッテリーには小型の汎用品を用いることで、システム全体の軽量化を実現しました。
また今回、株式会社東北ドローン様に取り外し可能なマウントを設計していただいたおかげで、観測装置を機体から分離でき、標準ガスの吸入などの作業が楽になりました。
今回の観測と過去に秋田県内で実施してきたドローン観測の結果を比較すると、東京都内では人間活動による二酸化炭素濃度の増加・減少が顕著であるように感じ、地表から700mまでの観測ができたことで、地表面付近における高濃度の空気が、日の出とともに上昇していくことが示唆されました。
今後は上空1000mまでの到達を目指すために、さらなる軽量化を検討するとともに、ホバリング時間を短縮するなどの工夫をしていきたいと思います。さらに、都市域と森林地域でドローン観測を行い、二酸化炭素濃度の違いとその要因を解明することで、今後の温暖化対策につなげたいと考えています。
東北ドローン 代表 桐生俊輔氏
今回の実験では飛行前の準備に多くの時間を要し、特に使用機体であるM300のペイロード内に収まりつつ上空での突風にも耐えられる構造を持つ二酸化炭素計測機搭載用の部材設計と強度確保が大きな課題となりましたが、優秀な技術スタッフの尽力により強度と軽量性を両立した部材の開発に成功しました。
当初は地上1000メートルまでの飛行を想定していたが機材の仕様上、垂直方向の電波伝搬効率が低く都市部という環境も相まって外乱による伝送距離の低下が発生し、結果として安全にドローンを運用できたのはおおよそ740メートル程度であったため今後はより長い伝送距離を確保するために水平距離を確保できる場所の選定や電波伝搬効率を高める工夫が必要です。
矢野法務事務所 代表 矢野耕太氏
夜間、目視外、高高度飛行の申請を担当させて頂きました。地上1,000mレベルともなると近隣の基地等の運航航路とのバッティングも生じ、結果として飛行時間を限定したり、飛行実施や中止の細かな連絡などが必要となりました。ただこれも、今回の実験飛行の意義を理解してもらえた結果として先方に歩み寄ってもらえた調整事項だったと思います。
