センシンロボティクスと中部電力パワーグリッドは、これまで共同で送電設備異常を自動で検出するAIを開発してきた。今回、リアルタイム異常検出における対象範囲の拡大および鉄塔ボルト脱落・さび検出に関するAIを開発し、2024年8月6日、中部電力パワーグリッドが保有する送電設備の点検での導入を決定したことを発表した。

 両社は、ドローンを用いた送電設備自動点検技術を共同開発し、同技術を架空送電設備の保守業務に特化した業務アプリケーション「POWER GRID Check」に実装、2021年から現場運用を開始している。これより、高度な操縦スキルを必要とせず、自動で高品質な設備点検、撮影が可能となった。一方、取得した画像の確認は作業員の目視で実施しており、異常箇所の判定は個々の作業員の経験に基づく判断に委ねられていた。

 画像解析による異常箇所を検出するAIをPOWER GRID Checkに実装することで、ドローンによる画像取得から異常判定までを自動で実施することが可能となる。

【リアルタイム異常検出AI】

 公衆保安確保の観点から、第三者に対し災害の発生する恐れのある異常は早急に発見する必要がある。これまで、手元のモバイルデバイスに伝送されるドローンのリアルタイム映像(ライブストリーム映像)をもとに、「電線」の素線切れ・溶損や、「がいし」の破損・欠けといった異常をリアルタイムに検出するAIを開発し、2023年度から現場運用を開始している。今回、新たに電線付属品である「ダンパ」(※1)の重錘(じゅうすい)脱落や、「スペーサ」(※2)の把持部外れ等をリアルタイムに検出するAIを開発した。

※1 電線の振動や着雪の成長を抑制するための装置
※2 電線相互を規定の間隔に保つための装置

がいしが映し出された画面。がいしを検出し、異常を確認する様子。
「がいし」リアルタイム異常検出
マップの中央に赤いマークと「異常が検出されました。今から異常個所の点検を実行しますか?」のメッセージが表示されている。
「電線」リアルタイム異常検出後の結果表示
ダンパが画面に映る様子。
モバイルアプリケーションで「ダンパ」を検出した様子(開発段階)
スペーサが画面に映る様子。
モバイルアプリケーションで「スペーサ」を検出した様子(開発段階)

【鉄塔ボルト脱落・さび検出AI】

 鉄塔に関する異常について、「ボルト」の脱落や「鉄塔さび」を検出するAIを新たに開発した。鉄塔種別(アングル鉄塔、パイプ鉄塔の2種)と鉄塔塗装色(未塗装、防錆塗装(グレー)、航空標識塗装(赤白)環境塗装(茶色)の4種類)別に学習・評価を実施しているため、さまざまな種類の鉄塔の異常を検出することができる。鉄塔さび検出については、さびの度合いに応じたランク分類も可能。

鉄塔上部の写真
通常画像
鉄塔のところどころに緑や黄色、赤い色が表示されている。
さび検出後の画像
サムネイルと鉄塔の画像、発錆ランクが表示されている。
さび異常検出インターフェース

 今回、新たに開発した「ダンパ」「スペーサ」「ボルト」「鉄塔さび」に関する異常検出AIは、2024年度中にPOWER GRID Checkに実装し、現場運用を開始する。異常検出結果は、POWER GRID Check上に強調表示され確認することができる。開発したAIモデルは今後も精度向上に向けた継続的な学習が必要となるため、ユーザーのフィードバックをもとに、再学習やアルゴリズムの再選定を行い、AIを高性能化するスキームを構築する。

 また、変電設備への業務適用も視野に共同研究開発を行っており、変電業務向けに確立した「計器指針検出AI技術」に関してもPOWER GRID Checkへの実装を2025年度以降で予定している。送電設備だけでなく変電設備の保守・保全業務も担えるアプリケーションへと開発を進め、一般送配電事業全体への適用を目指す。