2024年7月18日、積水化学工業(以下、積水化学)と国際電気通信基礎技術研究所(以下、ATR)は、2024年度から総務省が新たに実施する「電波資源拡大のための研究開発/近接化・稠密(ちゅうみつ)化するモバイル通信機器間における不要電波の解析・抑制技術の研究開発」に採択されたことを発表した。この取り組みにより、無線通信によるロボットの効率的運用に寄与し、労働力不足の解消に貢献することが期待される。

 自動搬送ロボットやドローンなどの自律移動体は、モバイル通信機器による無線通信を介して制御が行われている。内蔵するモバイル通信機器や電子回路、モーターなどは、無線通信に影響を与える可能性があるノイズを常に発している。移動体同士が近接・稠密化した場合、ノイズによる不要電波の干渉などにより受信感度の低下や通信品質の劣化が起こり、機能不全を起こす問題が指摘されている。そのため、今後増加が予想される不要電波への対策が求められている。

図版:ノイズを発するドローン(左)、密集することでお互いのノイズで混信しているドローン(右上)、スムーズに複数のドローンが飛行する様子(右下)
研究開発概要図

 積水化学のフィルム成形技術を活用した透明フレキシブル電波反射フィルムとATRの測定技術を合わせ、2022年より透明な電波暗箱の研究開発を行い、ノイズを効率的に抑制することが可能であることが分かってきたという。

 この取り組みでは、不要電波による機能不全発生の課題解決のため、機器から発生するノイズを抑制する技術、ロボットなどが移動することで変化する動的な電波環境を正しく測定しモデル化する技術を確立することを目指す。

 機器から発生するノイズを抑制する技術については、メタマテリアル技術、電波吸収材、成形加工技術の研究実績と製品を持つ積水化学が主に担当し、ロボットなどが移動することで変化する動的な電波環境を正しく測定しモデル化する技術は、電波・高周波の測定に関する経験および電波伝搬に関する研究実績のあるATRが担当する。この取り組みによって確立された動的な電波環境の評価方法は、国際標準化に向けた提案を予定している。

 2024年度から4年間、積水化学の水無瀬イノベーションセンターに設置された無線通信環境、ATRが所有する大型電波暗室などを用いて、ノイズ対策部材および評価方法の統合試験を実施していく予定だ。2027年度末には、自動搬送ロボットやドローンを安全に運用できる指標を提供し、労働力不足の課題解決への貢献を目指すとしている。

図版:透明なフィルムを曲げる様子。電波反射フィルムは薄膜メタマテリアル層により可視光は透過し、電磁波は反射する。
透明フレキシブル電波反射フィルム(積水化学)
左:水無瀬イノベーションセンターの3Dモデル、右:電波吸収材で覆われた電波暗室(写真)
実使用試験環境(左:水無瀬イノベーションセンター(積水化学)、右:大規模電波暗室)