2022年8月2日、大林組は、ダム監査廊の点検作業において自動飛行ドローンを用いた点検システムを開発し、Spiralの協力のもと、施工中の川上ダム(三重県伊賀市)にて、点検作業における省人化、省力化に向けた実証実験を実施したことを発表した。

 完成後のダムの点検作業は、ダムの管理者が監査廊(ダムの堤体内部に備わるトンネル(地下道)の形状をした管理用の通路)を歩いて壁面のクラックや漏水の有無を目視で確認しているが、長距離の移動や急勾配の階段を上り下りする必要があるため、身体への大きな負担や転落災害などの危険を伴うことが課題であった。

 自動飛行ドローンを活用した監査廊点検システムは、マーカーによって飛行を指示する手法「MarkFlex Air」を用いている。この手法はSpiralの特許技術で、GPSが届かない屋内でも独自のマーカーを用いてドローンの自動飛行を可能とする。
 飛行動作に関する指令がひも付けされたマーカーを監査廊の階段の始点と終点、曲がり角といった、飛行動作が変化する地点の壁面に設置すると、ドローンはそれに沿って飛行する。自動飛行しながら、搭載したカメラで撮影した映像をリアルタイムで遠隔地のパソコンに表示・記録するので、管理者が現地に行くことなく現状を確認できる。

階段の傾斜に沿って上昇飛行するドローン

 同システムでは、飛行時は機体と床面、壁面の距離を常にレーザーセンサーで計測し、飛行位置を制御することで安定した飛行を行う。レーザーセンサーと飛行動作に関する指令がひも付けされたマーカーを用いた制御により、衛星測位ができない屋内環境や、監査廊のような同一形状で特徴点が少なく、SLAMが使えない環境においても自動飛行が可能となる。

 また、ドローンに搭載されたバッテリーの容量では、川上ダムの監査廊のように約1kmにおよぶ距離を飛行することはできないが、飛行ルート上に充電ステーションを設置し、充電を繰り返しながら点検を行う。

曲がり角に設置されたマーカー
川上ダムの監査廊イメージ

 また、飛行ルート内の無線LANを介して、ドローンに搭載したカメラからの映像をリアルタイムで遠隔地に配信し、点検箇所の状況を確認することができる。専用のウェブアプリケーションにより、過去の映像履歴やマーカー認識時の時刻、機体周辺の温湿度、バッテリー残量などの情報や、ドローン本体の大まかな飛行位置を記録することが可能。データを時系列で記録することにより、長期にわたる監査廊壁面などの経年変化も比較できる。

専用ウェブアプリケーション画面

 今後、AIを用いた壁面におけるクラックの自動検出や、揚圧力(ダムが設置されている岩盤などに浸入した水により、ダムの堤体を浮き上がらせようとする力)を測定する圧力メーターの数値の撮影、自動読み取りとそれに基づく装置の自動制御などに取り組むとともに、監査廊以外にも衛星測位ができない環境での点検作業への適用も検討していくとしている。