2022年6月14日、東京大学大学院工学系研究科と大林組は、自律4足歩行ロボットとUAVを用いたトンネル断面3次元計測の実証実験を実施し、複数の断面計測を連続的かつ効率的に実施できることを確認したと発表した。

 同実証は国土交通省「建設現場の生産性を飛躍的に向上するための革新的技術の導入・活用に関するプロジェクト」の一環であり、福島ロボットテストフィールドで実施した。

計測装置を搭載した自律4足歩行ロボット「Spot」

 東京大学と大林組が共同開発した「光切断法(※1)を用いた山岳トンネル断面計測システム」(2021年8月発表)は、1断面の計測の作業人員を約4分の1に、計測時間を約120分の1に省人化・省力化できる技術である。従来は固定した三脚の上にリングレーザーと広視野カメラを設置して使用し、複数断面の計測を行う際は、その都度、人が計測装置を移動させる必要があった。今回、同計測装置をロボットに搭載することで、複数断面の計測を連続的かつ効率的に実施することができた。

 ロボットには、15cm以下の凸凹した不陸(ふりく)や轍(わだち)、ぬかるみや砕石上を問題なく移動できるBoston Dynamics社の自律4足歩行ロボット「Spot」と、測量業務で幅広く使われ、カメラや計測機器などアタッチメントの改良が比較的容易なDJI社のUAV「MATRICE 300 RTK」を採用。積載重量制限や寸法制限から、それぞれの装置に適したリングレーザーと広視野カメラを選定した。また、それらを固定する部材は、3Dプリンタで製作した樹脂製のものを使用して軽量化を図った。

 1断面の計測は、リングレーザーのスイッチがONとOFFの状態で写真をそれぞれ1枚撮影し、背景差分法(※2)によってレーザー照射点のみを画像から自動抽出後、3次元座標(点群)を計算する。従来、複数断面の計測を行う場合は、リングレーザーの照射位置を移動させる必要があった。
 この実証実験では、地上を自律歩行するSpotと飛行するUAVに計測装置を搭載し、レーザーのスイッチの切り替えを高速で繰り返して動画撮影することで、複数断面を連続的に計測できることを確認した。ロボットを活用することにより、計測に要する時間は従来の約30分の1に短縮した。

※1 光切断法:直線状に光が照射される「ラインレーザー」とカメラを用い、レーザー光の進行方向とカメラの光線ベクトルの三角測量の原理により三次元計測を行う方法であり、リングレーザーと魚眼カメラを採用することでトンネル断面に適用している。

※2 背景差分法:背景画像(レーザーOFFの状態)と観測画像(レーザーONの状態)を比較することによって、物体を検出する画像処理手法。

UAVによるトンネル断面の計測状況

 同システムでは、カメラの画角に収まったレーザー照射点の3次元座標を画像から計算し、取得することができる。三脚のように地上据え付け式の場合は、レーザーを照射して写真撮影できる高さに限りがあるため、ダムの利水放流トンネルや橋梁下面などの高所への適用が制限されたが、UAVを使用することで高所の計測が可能となる。

 Spotは背中の角度や高さを調整することで、さまざまな角度でレーザーを照射できる。また、トンネルの掘削作業時の切羽付近は、天端(てんば)からの湧水や建設機械・車両の往来によりぬかるみや轍が発生することがあるが、そうした悪路にも対応できるため掘削出来形の計測にも適応する。

雪の上で背中の角度を調整した「Spot」

 Spotには複数のカメラが内蔵されており、これらのカメラはARマーカー(※3)を認識できる。事前にARマーカーを認識させ移動経路を設定すると、2回目以降は自律歩行が行える。この機能により、トンネルや地下通路を任意の時刻に自動で動画撮影しながら断面の計測ができるため、竣工検査時の初期点検や定期的な日常点検などにも有効である。

※3 ARマーカー:現実空間に写真や座標などさまざまな情報を表示させるためのカメラ用目印。

「Spot」の自律歩行モード

 今回両者は、ロボットに計測装置を搭載することで、複数断面を連続的かつ効率的に計測できることを確認した。今後は複数断面の計測結果を統合する手法の確立を図りながら、地下躯体内や橋梁下面での適用など、山岳トンネル以外へ適用していくとしている。