2022年6月22日、ソフトバンクは、フットプリントを固定するシリンダー形状の多素子フェーズドアレイアンテナ「シリンダーアンテナ」を搭載した高高度係留気球基地局を、ソフトバンクグループが出資する米Altaeros Energies, Inc.(以下、Altaeros)と共同で開発し、2022年5月の実証実験において広域で安定した通信エリアの実現に成功したことを発表した。

 機体の旋回に合わせて電波の向きを変えることで、機体に搭載した通信機器からの電波により地上に形成される各セルの通信エリア(フットプリント)を固定させる技術(フットプリント固定技術)は、ソフトバンクとHAPSモバイルが、成層圏から通信ネットワークを提供するプラットフォーム「HAPS(High Altitude Platform Station)」で安定した通信エリアを構築することを目指し、研究開発を進めているものだ。

フットプリント固定技術

 ソフトバンクは災害時の通信エリアの復旧などを目的として、係留気球を活用した無線中継システムの開発・実用化を進めてきた。今回、新たにフットプリント固定技術と、Altaerosの高高度係留気球「ST-Flex」を組み合わせた高高度係留気球基地局の開発に取り組み、従来と比べて気球を高度に係留したほか、重量が重いペイロード(通信機器)を搭載した。

実証実験で使用したAltaerosの高高度係留気球

 HAPSのような上空の通信プラットフォームでは、無線基地局を搭載した機体が旋回しながら地上に向けて通信サービスを提供する。しかし、機体が旋回すると地上に形成される通信エリアが移動するため、ハンドオーバー(携帯端末の接続先のセルが別のセルに切り替わる動作)が起こり、通信品質が安定しないという課題があった。
 ソフトバンクとHAPSモバイルが開発したフットプリント固定技術は、シリンダーアンテナを用いたデジタルビームフォーミング制御(※1)により、機体の旋回に合わせて動的に電波の向きを制御し、通信エリアを固定させてこの課題を解決するものである。

※1 デジタル制御により送受信信号の振幅や位相を制御することで、電波を特定の方向に集中させて送受信する技術。

高高度係留気球基地局に搭載された「シリンダーアンテナ」

<今回開発した高高度係留気球基地局の特長>

1. 3本の係留索(ロープ)をAI(人工知能)で制御することにより、最大高度305mでの安定した気球の係留を実現
2. 最大60kgのペイロード(通信機器)の搭載が可能
3. 最大高度305mの上空に係留することで、従来と比べて広域の通信エリアを構築
4. フットプリント固定技術により、回転・移動・揺らぎなどの気球の動きに左右されない安定した通信エリアを実現
5. オートパイロットシステムにより運用人員を削減
※実証実験においては、高度249mに係留した。

 北海道の大樹町多目的航空公園で実施した実証実験では、ST-Flexを高度249mに係留させて通信試験を行い、見通しが良い環境下においては最大数十kmの距離(係留気球基地局と携帯端末間の距離)で広域な通信エリアが確保できることを確認した。また、風速および風向に応じて係留気球基地局の姿勢や位置が変動する場合でも、携帯端末においてハンドオーバーが発生せず、受信レベルの変動も抑えられ、安定した通信ができることを確認した。

 ソフトバンクは今後、今回の実証実験を通して得たノウハウやデータを、災害時の通信エリアの復旧やHAPSの通信プラットフォームの構築に活用することを検討していく方針である。

フットプリント固定技術の実証実験の結果
2022年5月に大樹町多目的航空公園で実施した実証実験の様子