2022年5月31日、横河電機と三菱重工業は、「海洋石油・天然ガス分野における脱炭素化等推進に係る日本財団-DeepStar 連携技術開発助成プログラム」に採択されたことを発表した。今回採択されたプロジェクト「洋上施設におけるロボットを活用した危険等を予測する自動点検システムの開発」は、2022年6月1日より開始する。

 石油やガスを製造する海上プラットフォームでは、作業員が巡回点検や緊急時の点検を行っているが、天候の影響や有毒ガス発生の可能性など、業務には負担やリスクを伴う。こうしたリスクを低減する手段として、ロボットの活用が期待されている。一方、ロボットが取得した画像や音のデータは、形式を変換する必要があり、また、公共の通信サービスの利用には制限があるため、海上プラットフォームにロボットを導入するには独立した通信環境とロボットシステムを構築する必要がある。

 横河電機では複数のロボットの管理を一元化し、さらに既存の制御システムとロボットをシームレスにつなぐロボット管理プラットフォームの研究開発を進めてきた。同プロジェクトではこの研究成果を生かしながら、沖合の特殊な環境に対応できる通信環境とロボットシステムを構築し、ロボットが取得した画像や音のデータをAIアプリケーションを活用して、海上プラットフォームの操業に適したデータに変換する。

EX ROVR 第2世代機「ASCENT」

 プロジェクトでは、三菱重工業のプラント巡回点検防爆ロボット「EX ROVR(エクス ローバー)」の第2世代機「ASCENT(アセント)」を活用して実証実験を行う。引火性ガスが充満する環境下において、機器自体が発する電気火花や熱などによる爆発や火災の危険性を抑える防爆性能を有しており、爆発性雰囲気となり得る状況下において点検作業を行い、作業員の安全性向上や業務効率化、設備稼働率の向上につなげる。
 国際規格IECEx(※1)や欧州など世界で広く採用されているATEX(※2)、国内の防爆型式検定に合格しており、可燃性ガスのある危険場所(Zone1)において安全に使用することができる。照明付きカメラを搭載した、6軸での動作が可能な6自由度(※3)防爆マニピュレーターにより、プラント内計器の複雑な配置に応じたさまざまな姿勢で近接・正面画像を撮影できる。ガス濃度の測定や音声録音、熱画像の取得も可能。付属のウェブアプリケーションと組み合わせることで、遠隔地からの点検スケジュールの運用管理や点検データの確認が行えるほか、プラントにおけるインシデント発生時には遠隔操作により現場確認が可能である。

 横河電機と三菱重工業は石油・ガス・石油化学業界におけるロボット活用に関する協調契約を締結しており、同プロジェクトでは、さまざまな環境と状況に対応できるロボットシステムの研究開発に共同で取り組むとしている。

※1 IECEx::爆発性雰囲気下で使用する機器の認証に関する国際システムで、その品質評価規定はIEC(国際電気標準会議)が作成した規格に基づく。
※2 ATEX:IECExをベースに、爆発性雰囲気下で使用する機器および保護システムをEU(欧州連合)市場に投入するまでに適用しなければならない安全衛生上の必須要件および適合性評価手順について定めたもの。ATEXとIECExは同じ規格に沿っているため、技術的内容について基本的な違いはない。
※3 6自由度:自由度とは上下、左右、前後への動きができることを指しており、6自由度とは6軸の動きができること。マニピュレーター先端を前後に傾ける、左右に首を振る、左右に傾斜する回転運動などが可能。