2022年3月10日、エアロセンスと建設技術研究所は、エアロセンスの垂直離着(VTOL)型固定翼ドローン「エアロボウイング」を使用し、8基の砂防ダムを一度に点検する実証実験を実施したことを発表した。

 従来、山奥にある砂防ダムの点検は現地に人が行って確認してきたが、労働人口の高齢化や異常気象に伴う災害の増加により、安全で効率的な点検が求められている。
 LTE通信機能を搭載したエアロボウイングにより、麓などの安全な場所から離着陸を行い、広範囲に点在する砂防ダムを一度に確認することが可能となる。

荒川遊砂地から垂直に離陸するエアロボウイング

 今回の点検箇所に人が立ち入る場合、通常は1~2日を要する。同機を使用することで、現地への立ち入りが不要となり、飛行時間は10分以下のため点検時間の大幅な短縮も実現した。山間調査のDX(デジタルトランスフォーメーション)は、定期点検よる災害予防、および砂防ダムへの人の立ち入りが困難となる災害直後の緊急調査などでの活用も期待される。

点検対象となった砂防ダム(砂防堰堤)と飛行ルート

 一般的に砂防ダムは山奥の広範囲に点在するうえ、高低差が大きい山間部はマルチコプター型ドローンのバッテリーを大きく消耗する。そのため、砂防ダム1基ごとに離着陸を繰り返す必要があった。

 VTOL型ドローンのエアロボウイングは、最大時速100km・最大航続距離50kmという特長により広域調査が可能。経路上に高度差のある場所でも、水平飛行に移行したのち旋回上昇・旋回下降を利用することで、マルチコプター型ドローンと比べて使用電力を大幅に抑えることができる。また、離着陸時は垂直飛行となるため狭い場所からの離着陸も可能となっている。

 一方、山間部での広範囲な飛行では、離発着場所にある操作端末とドローン間の通信が他の山に遮断され、飛行制御や映像伝送ができなくなる課題があった。

 今回、同機にLTE通信機能を搭載することにより山間部でも飛行が可能となり、砂防ダムの点検を実現した。ドローン写真測量として定量的な三次元データも得られるため、1フライトで複数の砂防ダムの土砂堆積割合の正確な数値を出すことができる。

実証実験の概要

 2021年12月10日、国土交通省 東北地方整備局管理下の、福島県にある吾妻山の中腹において実証実験を実施。麓近くの荒川遊砂地から離着陸し、8基の砂防ダム上空を飛行し点検を行った。
 実証では、事前に設定したフライトプランに従って自動飛行し、水平飛行へ移行後も旋回上昇を組み合わせて適宜高度を上げながら山奥へ進み、見通しのきかない約5kmに渡る折れ曲がった経路に沿って8基の砂防ダムを点検。砂防ダム内の土砂等の堆積の様子を三次元データで確認した。

水平飛行中に撮影した8基の砂防ダムの画像
砂防ダムの画像を一部拡大