2021年3月23日、エアロディベロップジャパン(以下ADJ)は、ハルバッハ発電機とガスタービン動力を組み合わせた重量・長距離ドローン向けハイブリッド動力ユニットの稼働試験に成功したことを発表した。また、ドローン用DC300V(AC200V)級の高電圧対応プロペラ用モーター・ESCの稼働試験にも成功した。
 このユニットとプロペラ用モーター・ESCを合わせたハイブリッド動力システムは、50kgの荷物を搭載した総重量150kg超の大型ドローンを60分飛行させることを目標に開発を進めている。

開発の背景

 ADJは2018年に創業したスタートアップで、大型ドローン向けのハイブリッド動力システム(ハイブリッド動力ユニットおよびプロペラ用モーター・ESC)を開発している。同社代表の田邉氏は、日本に点在する高い素材技術・加工技術を結集して一大産業を作り上げることを目指し、大型ドローン業界に参入。重量ドローンを長時間飛行させるために必要な動力源には本格的に着手されていない状況から、大型ドローン向けの動力システムに参入の余地を見出した。

 これまでのドローンは総重量25kg以下のものが多く、用途も空撮・測量などに限られていた。一方で、物流網が充実していない地域への物資輸送や災害時の緊急物資運搬など、長時間飛行する重量ドローンが求められている。
 しかし、大型ドローンの社会実装では動力源がネックとなっており、既存のリチウムイオンバッテリーではその重量エネルギー密度(単位重量当たりの電池容量)の制約により、バッテリー搭載量を増やしても飛行できる時間が限られている。そのため、リチウムイオンバッテリーを超える重量出力密度(単位重量当たりの発電量)を持つ動力源が求められていた。
 そこで同社は、小型のガスタービンエンジンとハルバッハ発電機を組み合わせて発電させるというアプローチを行った。高速回転するガスタービンエンジン(9~10万回転)によって、ハルバッハ配列という特殊な磁石配列を持つ小型・高性能な発電機を駆動することで、重量出力密度1kW/kgを超えられる可能性があるという。

ハルバッハ発電機について

 磁極を所定の角度で回転させながら一列に並べた磁石配列(ハルバッハ配列)は、配列の裏側の磁束が表側に加わり表側に滑らかで強い磁界が発生する。この磁界とコアレスコイルを組み合わせると大電流を取り出しても発電機出力電圧の低下がなく、振動や騒音の少ない発電機ができ、また、約3割の軽量化が実現する。この技術は工学院大学・森下教授の特許発明によるもので、ハルバッハ発電機のライセンスをADJ開発パートナーが有している。

ハルバッハ配列(工学院大学工学部 電気システム工学科 森下明平教授「永久磁石ハルバッハ配列界磁の特徴と電気機器への応用」より)

ハイブリッド動力ユニット試作機の一部負荷試験

 2021年2月25日、ADJは開発中のハイブリッド動力ユニットの部分負荷稼働試験を実施。小型ガスタービンに投入した燃料から発電機を通じて電力を取り出し、プロペラ用モーターを回転させることに成功した。

ハイブリッド動力ユニット

 また、ハイブリッド動力ユニットと同時に、DC300V(AC200V)級で回転するモーター・プロペラの稼働試験にも成功。これまでドローン用は、ほとんどが低い電圧(DC50V程度)用のものだったが(同社調べ)、本製品によってハイブリッド動力ユニットの高電圧電力を効率よくそのままプロペラモーターに供給できるようになる。これにより、電流を大幅に小さくできるため配線が小型・軽量化できたり、電圧変換器を搭載する必要がなくなったり、より大きなペイロードを搭載することができるようになる。ADJは、ハイブリッド動力ユニットと高電圧用モーター・ESCモジュールを合わせたハイブリッド動力システムとして、ドローンへの搭載に向けて準備を進めている。

▼ハイブリッド動力ユニット動画
https://vimeo.com/523781133

 ADJは、ハイブリッド動力システムの社会実装に向けて、2021年4月に同システムを搭載したハイブリッド動力ドローンの飛行試験を計画しており、総重量150kg超クラスのハイブリッド動力ドローンを安定的に飛行させることができれば、物流、災害対応など新たなマーケット開拓につながるとしている。