2021年3月18日、エアロセンスと日本海事協会は、自律飛行ドローンを用いて、甲板下にある貨物を積む船艙内における船舶貨物の検査(艙内検査)の実証実験を行ったことを発表した。

 実証実験にはエアロセンスが開発した、GPS等の電波が入らない環境でも自律飛行・暗所対応が可能な非GNSS(全球測位衛星システム)環境対応点検ドローン「エアロボ インスペクション(Aerobo Inspection)」を活用。同機体は、カメラで撮影された映像から環境の3次元情報と機体の位置姿勢を同時に推定するVisual SLAM技術を用いており、高輝度照明も搭載している。このドローンを用い、船舶および船舶を模擬した暗所屋内にて、あらかじめ設定しておいた経路を元に自律飛行で撮影を実施。船舶の検査に有効活用可能な写真データを取得し、3D点群データおよびオルソ画像を生成した。
 日本海事協会は、船舶での検査経験を活かし、自律飛行ドローンによる検査への適用の実現性に関するレビュー並びにドローンを用いた検査ワークフローの分析を行った。

使用した非GNSS環境対応自律飛行ドローン「エアロボインスペクション」(100W高輝度照明とAPS-Cサイズセンサーを搭載したジンバルカメラを装備)

船舶内での検査現場の課題

1. 高所、狭所、屋内の検査

 船舶内の検査は人手と時間がかかり、確認する際は危険な場所も多く細心の注意が必要なため、無人で検査ができるドローンの活用が期待されている。
 通常の自動飛行ドローンでは屋内のGNSS電波の届かない環境ではドローン自身の位置の認識(自己位置推定)ができないため、一般には高度な操縦技術を持つパイロットが必要である。しかし、今回の共同開発では、GNSS電波の入らない環境でも自己位置推定が可能なドローンを用いて飛行経路を事前に決めておくだけで、完全に自動で検査を完了することを確認できた。

2. 暗所の検査

 船舶内は照明がつけられない暗所も多く、その中で検査作業を行えることがロボットを用いた検査の重要な要件であった。今回、機体に高輝度照明を設置し、機体のバッテリーから100W供給することで、予備電源なしに検査用のカメラ並びにVisual SLAM用のステレオカメラに必要な光量を確保できることを確認。実際に機体の照明のみでVisual SLAMにより自律飛行、障害物検出を行いながら、全自動での検査対象の撮影を行うことができた。

照明がない環境(左)と、機体の高輝度照明をつけたときの周囲の環境(右)
自己照明とVisual SLAMで完全自律飛行しながら検査する様子
Aerobo Inspection on Dark site with vSLAM and Light(Aerosense Inc.)

3. 地磁気問題の解決

 ドローンを用いる際の特有の問題として地磁気問題がある。一般にドローンは地磁気を用いて向きを認識するが、船舶のような鉄の塊の中では地磁気が安定せず、自動飛行や簡易操縦ができない。
 今回はVisual SLAMを使うことで地磁気問題を解決しており、その確認のため、実際の船舶の高所での自律飛行実験を行った。通常、ステレオカメラを用いたVisual SLAMの場合、対象物との距離が離れると精度が低下するため、高所での自己位置推定が不安定になることがある。エアロボインスペクションは、船舶内の高所を想定して設計されているため、GNSS電波の入らない状態でも安定して自律飛行することができた。

非GNSS環境下で高所を自律飛行している様子
Autonomous Surveying ship cargo hold with vSLAM drone by Aerosense Inc.

 GNSS電波の入らない環境でドローンが自律飛行するには、IMUと呼ばれる慣性センサーだけでは誤差が大きくなるので、位置情報の補正のためにGNSSに代わる自己位置を認識するセンサーが必要になる。本実験ではビジョンセンサーとしてステレオカメラによるVisual SLAMを採用している。ビジョンセンサーを使うことで、安価かつ小型軽量な機体にシステムを統合する事が可能だ。また、特徴点があれば平面の続く場所でも自己位置の特定ができることも利点である。Visual SLAMの短所である暗所における運用は、100Wの照明システムを搭載することで解決している。

ドローンによる検査ワークフロー

1. ドローンを用いて検査対象を撮影
2. 撮り逃しや撮影状態の良し悪しを、簡易ツールを用いて現場で確認
3. データ処理用のクラウド(エアロボクラウド)を用いて3次元点群、オルソ画像を作成
4. 検査員の見やすい形で詳細確認
5. 検査調査報告書の作成

エアロボインスペクションを用いた検査ワークフロー

 今回、エアロボインスペクションにより、この検査フローを手間・コストを掛けずに行える技術を確立できた。エアロセンスは今後、自動化を進めることで船員だけで主な検査作業を行えるようにするなど、開発を進めていくとしている。