6月7日、東京都港区のTAKANAWA GATEWAY Convention Center LINKPILLAR Hallで、ドローンによる点検技術や活用事例を紹介するイベント「JR東日本グループ ドローンDX CHAMPIONSHIP 2026」が開催された。
会場となったTAKANAWA GATEWAY CITYは、JR東日本が開発を手がけ、2025年3月にまちびらきした街である。「100年先の心豊かなくらしのための実験場」を掲げ、新たなモビリティやデジタル技術を活用した取り組みを進めている。
2025年に続く2回目の開催となった今回は、JR東日本だけでなく、JRグループ各社でドローンを活用する部署や関連会社も参加した。さらに、エネルギー、通信、製造などの分野でドローンを活用する事業者が集まり、日頃の業務で培った点検技術を競う2つの競技が行われた。
前回に続いて実施された「IBIS2 Master Cup」は、Liberawareの小型点検用ドローン「IBIS2 Assist」を使用し、駅の天井裏や地下施設などの狭小空間を想定した特設コースの走破タイムを競う。今年は前年よりコースの難度が上がり、細かな機体操作と安定した飛行が求められた。
新設された「Railway Tech Skills Cup」では、参加チームが普段の業務で使用している機体を持ち込み、電気設備や鉄塔、線路など屋外の鉄道施設を模したコースを飛行した。点検業務と同様に、各チェックポイントを撮影しながら所要時間を競う。
前回の12チームから、今回は2競技で計32チームに規模を拡大した。会場には出場者の同僚や家族をはじめ多くの観客が集まり、競技形式で点検技術を発信するイベントならではの盛り上がりを見せた。
実際の鉄道設備を模したコースで点検技術を競う
Railway Tech Skills Cupに出場したのは、JR東日本の14チームと、JR九州、JR西日本レールテックの計16チームである。ドローンは、コース前半のスラローム区間に配置された鉄塔を順番に撮影する。後半では、電車へ電力を供給する架線を支える架線柱や線路などを撮影し、すべてのチェックポイントを通過すると競技終了となる。
参加チームが持ち込んだのは、普段の業務で実際に使用している機体である。その多くはDJI製だったが、産業用の「DJI Matrice」シリーズではなく、コンシューマー向けの「DJI Mini」シリーズや折りたたみ式の「DJI Flip」などが使われていた。点検業務で重要なのは、対象施設を撮影し、損傷や異常の有無を確認できる画像を取得することである。今回の競技からは、比較的小型のコンシューマー向け機体も、現場や点検対象によっては業務に活用されていることがうかがえた。
参加者によると、普段の点検業務ではドローンを目視しながら飛行させることが多い。一方、今回の競技では、「機体から送られてくる映像をモニターで確認しながら、通常より狭い空間を飛行する必要があり、普段の業務とは異なる難しさがあった」という。
タイムを意識するあまり、撮影位置を修正する際に機体を障害物へ接触させる場面も見られた。こうした環境では、操縦者だけで飛行状況を把握することは難しく、機体や周囲を確認する補助者が適切に情報を伝える必要がある。競技を通じて、操縦者と補助者の連携の重要性を改めて確認する機会にもなっていた。
点検用ドローンの操縦技術を競う「IBIS2 Master Cup」
IBIS2 Master Cupには、JR東日本の各部署や関連会社に加え、九電ドローンサービス、東京電力ホールディングス、セントラル警備保障、神戸製鋼所、新潟工科大学フィールドロボティクス研究室など、計16チームが参加した。
競技では、壁が互い違いに配置された区間や、天井裏を模した暗所、山手線を走るE235系の車内をイメージした区間などを設置。狭い空間で機体を細かく操作しながら、コースを周回するタイムを競った。
会場には、出場者を応援する同僚や家族も多く訪れた。手作りのうちわを掲げて声援を送る姿もあり、業務で使用する点検用ドローンの競技でありながら、スポーツイベントのような熱気に包まれていた。
JR東日本は、ドローン点検にレースというエンターテインメントの要素を取り入れることで、ドローンへの関心を高めるとともに、操縦技術を磨くモチベーションにつなげたい考えだ。会場の様子からも、競技を通じて出場者と観客の双方がドローンを身近に感じていることが伝わってきた。
KDDIスマートドローンとMAX工業が決勝で対戦
IBIS2 Master Cupの決勝では、前年優勝のKDDIスマートドローン(KSD)と、初出場のMAX工業が対戦した。「打倒王者」を掲げて決勝に臨んだMAX工業だったが、スタート直後の1周目に機体が墜落し、映像信号が途絶えるアクシデントが発生した。その間にKSDは着実に周回を重ね、終始安定した飛行で勝利した。
KSDの参加者は競技後、「一つのミスが結果に反映されるような、緊張感のあるレースだった」と振り返った。前回に比べ、狭い区間を滑らかに通過するチームが増えるなど、参加者の操縦技術が向上していることも感じられた。IBIS2 Assistを使った狭小空間点検の経験が積み重なり、操縦者の技能向上につながっていることがうかがえる。
山手線でのドローン点検に向けて実証を計画
会場内には、参加企業によるドローン活用事例のパネル展示や、鉄道点検を仮想現実(VR)空間で体験できるコーナーも設けられた。競技だけでなく、各社が実際の業務でどのようにドローンを活用しているのかを知る機会となっていた。
JR東日本 イノベーション戦略本部 R&Dユニット(イノベーションリサーチPT)マネージャーの北田光治氏は、Liberawareなどと共同で開発を進める鉄道設備点検ソリューション「Project SPARROW」について、今後も実用化に向けた取り組みを進める考えを示した。Project SPARROWは、遠隔操作に対応したドローンと、鉄道敷地外への飛行を防止する安全システムなどを組み合わせ、輸送障害が発生した際の設備点検に活用する取り組みである。
JR東日本は2026年3月、2026年度から山手線でドローンを活用した電気設備点検を導入する方針を発表している。北田氏は、今後の予定について「秋頃に向けて、実際にドローンを飛ばして点検する実証を行う予定です」と説明した。
また、JR東日本 エネルギー企画部 オペレーション管理ユニット(送変電)マネージャーの髙石大輔氏は、社員の技能について、「この1年で操縦技量が向上し、各現場で点検手法を考え、工夫するようになってきています」と解説した。安全対策については、踏切など、より注意を要する場所では社内ガイドラインに基づき、「国家資格の有資格者を配置しています」と説明した。
産業分野におけるドローン活用は広がっているが、日常的にドローンへ接する機会がない人にとって、その具体的な用途や性能は分かりにくい。点検用ドローンを使った競技は、エンターテインメント性を持たせながら、実際の業務で必要となる操縦技術や、操縦者と補助者の連携を可視化できる取り組みである。レースや展示を通じて活用現場を伝える本イベントは、ドローン点検に携わる人材の技能向上と、社内外の理解促進の双方を図る場となっていた。
