エアロセンスが描く物流・防災分野での実用化戦略

 エアロセンスは、固定翼とマルチコプターの特長を組み合わせたVTOL(垂直離着陸型)ドローンの開発を進めている。2026年6月に開催された「Japan Drone 2026」では、物流や災害対応を見据えた大型VTOL機「AS-H1」と、測量・インフラ点検向けの「AS-VT02K」を展示した。

写真:展示された「AS-H1」
大型VTOL機の「AS-H1」は、機体中央の内部に荷物を積載する。

 なかでも注目を集めたのが大型VTOL機のAS-H1だ。プロペラを除く機体サイズは全長3.9m、全幅2.7m、高さ1.0mに達し、展示会場でもひときわ大きな存在感を放っていた。ブース前では多くの来場者が足を止め、機体の細部を熱心に観察する姿が見られた。AS-H1の最大積載重量は13kg。2Lペットボトル1ケース程度の物資を輸送できる能力を備えており、災害時の緊急輸送や離島・山間部での物流用途が期待されている。

 AS-H1は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が推進する経済安全保障重要技術育成プログラム、通称「Kプログラム」の一環として開発が進められてきた機体だ。同プログラムでは「災害・緊急時等に活用可能な小型無人機を含めた運航安全管理技術」の研究開発が行われており、同社は2023年に採択を受けて開発を進めている。

 同社が想定する主な用途は災害対応である。地震や台風などの大規模災害発生時には、道路の寸断によって地上からのアクセスが困難になるケースが少なくない。そのような状況下では、上空から被災状況を把握したり、医薬品や生活物資を輸送したりするニーズが高まる。一方で、このような過酷な環境下で重量物輸送に対応できる機体は市場にまだ多く存在していないという。こうした課題を踏まえ、AS-H1は高い耐風性能と重量物を安定して輸送する能力を重視して設計された。大型機ならではの輸送能力に加え、過酷な環境下でも安定した運用を目指している点が同機の特徴だ。

第一種型式認証を見据えた大型VTOL「AS-H1」の安全設計

 AS-H1の大きな特徴の一つが、第一種型式認証の取得を視野に入れた設計思想だ。
 災害発生時には、第三者がいるエリアの上空を飛行する「第三者上空飛行」が求められる可能性がある。その実現には、システムの冗長性などによる高い安全性を証明する第一種型式認証の取得が必要となり、取得に向けて開発を進めているという。

 機体を見ると、各アームにはローターが2基ずつ配置されており、万が一モーターやプロペラの一部に不具合が発生し、いずれかが停止しても飛行を継続できる構造となっている。担当者は「単純にローター数を増やしているだけではなく、フライトコントローラーや電源系統といった重要部品なども含めて冗長化している」と説明する。

 安全性向上に向けた取り組みは機体構造だけにとどまらない。AS-H1は最大離陸重量25kgを超える大型機に該当するため、型式認証取得に向けて国土交通省航空局との調整を進めている段階だ。大型無人航空機の型式認証制度は業界全体にとっても前例が少なく、認証基準や審査手法について関係者間で議論を重ねながら進められている。ほかのメーカーも含めた業界全体の課題となることから、同社としてはしっかりと議論を重ねて内容を詰めていきたい考えだ。

 現在、AS-H1は飛行試験機と製造中改良機の2機体制で開発が進められている。すでに飛行試験機は、数十時間規模の飛行実績を積み重ねている。飛行エリアを区切って周回飛行を重ねている段階だが、ホバリングや上昇・下降飛行に加え、8の字飛行など難易度の高い飛行試験も実施している。こうした試験を通じて、型式認証取得に必要なデータと実績の蓄積を進めている。なお、現在製造中の改良機は、さらに飛行時間を延長するべく開発が進められている。

ドローン航路の実証から広がるVTOLの活用領域

 また、2025年春には静岡県浜松エリアと埼玉県秩父エリアに、世界初とされるドローン航路が整備された。エアロセンスの機体はその第1号機として飛行を実施しており、今後AS-H1についてもこうした環境を活用しながら実運用に向けた検証を進めていく考えだ。
 物流用途における運用方法の確立はもちろん、さまざまなペイロードへの対応や、長距離送電線の点検といった従来機では能力不足だった分野での活用も期待されている。

AS-VT02Kの進化と国産VTOL市場の拡大へ

写真:空中に吊り下げて展示された3機のエアロボウイング
展示されたエアロボウイングは、下部にそれぞれ異なるペイロードを搭載。静止画カメラのほか、レーザースキャナやマルチスペクトルカメラ、ジンバル付きカメラ、1.6kgまでの軽量物資を搭載できる。

 一方、同社の主力製品である国産のVTOL機「エアロボウイング(AS-VT02K)」も展示された。同機はVTOL機として初めて第二種型式認証を取得した「エアロボウイング(AS-VT01K)」の後継モデルであり、航続距離や可搬性を向上させたほか、耐風性能も従来比で約2倍に強化されている。さらに、各種ペイロードへの換装に対応しており、LiDAR測量では国土交通省が公共測量で求める±5cmの精度を達成。道路や河川などの線状インフラを対象とした長距離測量・点検業務への活用を見据えている。

写真:展示されたAS-VT02K
2025年6月、AS-VT02Kの受注を開始。AS-VT01Kから機体の分割機構の刷新と軽量化を図り、可搬性を向上。また、少量の雨天時でも運用が可能になった。

 エアロセンスでは現在、第一種型式認証取得を目指した小型新型機の開発も進めている。飛行制御システムについては実用レベルに到達しつつあり、今後は機体の軽量化やレベル4飛行に対応する信頼性確保が主な課題となる。一方で、技術開発と並行して市場形成も重要なテーマだ。機体販売は着実に伸びているものの、「VTOL機は運用が難しそう」「制度対応のハードルが高そう」といった声は依然として多いという。

 AS-H1については現在、Kプログラムのセカンドフェーズとして運航管理技術の研究開発も進行している。さらに2026年秋には離島間物流を想定した実証実験も予定されている。機体性能だけでなく、運航体制や社会実装モデルの構築を含めた取り組みを進めることで、VTOLドローンの活用領域を拡大していく考えだ。

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