新年恒例の国際テックイベント「CES 2026」が、1月6日から9日までの4日間、米国ラスベガスで開催された。ドローン分野では、かつてのような大手メーカーによる新製品発表は影を潜める一方、中小企業やスタートアップによる実需に根ざした展示へと軸足を移す動きが鮮明になった。

NDAA準拠と国内調達で差別化するドローンメーカーのHylio

 米国製の大型農薬散布機を展示したのは、2015年に創業したHylioだ。同社は、テキサス大学に在学していた学生チームによって設立され、当初から“農業プロセスの自動化”を企業ミッションに掲げている。

 同社が手掛ける農薬散布機は、設計から製造までを自社で管理する体制を構築。ドローン開発においては、モーターやバッテリーなどを中国製部品に依存しているのが産業の実情であるが、同社はこの課題に対し、可能な限り米国国内または同盟国からの調達比率を高める努力を続けている。特に安全保障上の懸念が集中するフライトコントローラーや通信モジュールなどの機体制御に関わる部分については、米国製部品を採用しており、NDAA(米国国防権限法)に準拠した開発を重要視している。CES 2026では、「用途特化型×高付加価値モデル」という自社の立ち位置を明確にした展示が行われていた。

写真:会場に展示されたドローン
Hylioは2015年創業以来、農薬散布機を主体にビジネスを展開。液体散布装置と粒剤散布装置を迅速に交換可能なモジュラー設計を採用。通信にはRTKのほか、独自に「GroundLink」を開発し、自動飛行及び手動操縦のサポートを行い、携帯電話網が不安定な場所でも安定した通信を保つ。

小規模から大規模圃場までを網羅する農薬散布機3種を展開

 同社は小型機から大型機までラインナップしている。農薬散布機はスポット散布・小規模圃場向けの「PEGASUS」、中規模圃場向けの「ARES」、大規模一斉散布用の「ATLAS」の3機種だ。さらに、精密農業用として「PHOTON」を提供している。

写真:展示された「ARES」
「ARES」は散布用タンク等をオプションにあわせてカスタマイズに対応。機体はアーム部の折り畳みが可能だ。

 最も汎用性の高い中型機「ARES(HYL-150)」は、サイズが67インチ(約1.7m)×67×43(約1.1m)、最大積載量50kg、タンク容量は約49L(液体)/76L(固体)、1時間あたり最大70エーカー(28万3280m²)を散布可能だ。価格は4万5,999ドル(約730万円)とし、独自制御システム「AgroSol」と360度衝突回避機能を組み合わせた自動航行機能を備えている。さらに導入支援や保守サポートも充実しており、機体販売だけでなく、「運用パッケージ」としての提供が収益基盤を支えているという。

 会場では展示されていなかったが、同社のフラッグシップモデルである「ATLAS(HYL-300)」は、最大積載量113kg、タンク容量は約114L(液体)/189L(固体)とドローンの中でも類を見ない大型機である。1時間あたり最大150エーカー(60万7028m²)の散布性能を持ち、その能力はARESの約2倍の効率化を実現する。価格は約6万4,998ドル(約1,030万円)となっている。

写真:会場に展示された「PEGASUS」
エントリータイプの「PEGASUS」は、ラインナップの中でも一番小型な農薬散布機だ。とはいえ、日本の農薬散布機と比べれば、大型に分類される。

 小規模圃場向けのエントリーモデル「PEGASUS」は、サイズが57インチ(約1.4m)×57×17(約43cm)、最大積載量9kg、タンク容量は約9.5L(液体)/15L(固体)と可搬性や機動性を重視したモデルだ。飛行時間も最大55分と長時間飛行を実現しており、農薬散布の効率を向上する。価格は2万7,045ドル(約430万円)とし、小型機から大型機までラインナップの価格帯を広く設定している。いずれも様々なオプションが用意され、用途にあわせて細かくカスタマイズできるのが強みだという。

ハード販売から“運用パッケージ”へ進化する収益モデル

写真:展示されたドローン
写真:ドローンを手に持ち上げる様子
「PHOTON」はアーム部を折り畳めばバックパックなどに入れて持ち運びが可能。機体重量は1.4kgで、SonyやFLIR、MicaSenseのカメラを搭載できる。

 これらの農薬散布機に加え、解析やマッピング用途を主とした精密農業・農地管理向けの「PHOTON」も販売している。農薬散布機能は持たないが、ISR(情報・監視・偵察)ドローンとして活躍する機体だ。農薬散布を開始する前に、圃場を飛行させ、搭載されたマルチスペクトルカメラと高解像度RGBカメラで作物の健康状態をスキャンすることが可能。取得したデータを解析し、処方マップを作成できる。

 作成した処方マップは、同社の「AgroSolソフトウェア」経由で農薬散布機に転送され、解析データとドローンが連携される設計となっている。連携後はデータを基に、圃場内の散布が必要な場所に的確に可変量散布が実行される仕組みとなっている。

 農薬散布においては、同社が開発した「AgroSol GCS」を使い、自動航行で散布が可能。ドローンパイロット向けではなく、農家が運用できるように設計されたインターフェースであり、農作業のワークフローに沿って設計されているのが大きな特徴だ。

写真:モニターに表示された「AgroSol GCS」
ドローンを運用するソフトウェア群も自社で開発している。

農業で確立した基盤を防衛・物流へ横展開、日本も視野へ

 同社は農業分野での安定収益を基盤に、物流、監視、防衛分野へと横展開を図る戦略を明確にしており、ドローンの開発を進めながら、現在は個別オーダーに対応したドローンの提供を開始している。今後は海外進出も視野に入れており、日本市場へも参入したいと話していた。特定分野向けに機能を特化から周辺市場へ拡張するモデルは、現在の米国ドローン産業の一つの成功パターンといえる。

#CES 2026 記事