大阪で空飛ぶクルマの商用運航実現に向けた動きが本格化している。5月8日に開催された「空飛ぶクルマ商用運航に向けたキックオフ会議」では、大阪港バーティポートを拠点とした「商用運航を実現するコンソーシアムの設立」が発表され、大阪府・大阪市に加え、大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)、SkyDrive、Soracle、丸紅の6者が連携して事業化を推進していく方針を示した。

 会議には、大阪府知事の吉村洋文氏、大阪市長の横山英幸氏のほか、各事業の代表者が出席。大阪港バーティポートを共同利用型のハブとして活用し、トップレベル会議による方針決定と、実務者レベルでの具体的な協議を並行して進めることで、全国初となる空飛ぶクルマの社会実装を目指す。

写真:会議の様子、席につく出席者
大阪港バーティポートを拠点とした商用運航コンソーシアムの設立に合意。Osaka Metroが大阪港バーティポートの運営を行い、SkyDrive、Soracle、丸紅の3社は運航事業を行う。

 大阪では、2025年に開催された大阪・関西万博での空飛ぶクルマのデモ飛行や展示が大きな注目を集めた。これを受け、関西経済連合会は2026年3月、“万博レガシー”として空飛ぶクルマの社会実装を推進する将来ビジョン「めざせ、空飛ぶクルマのファーストペンギン~社会実装と広域展開による『大関西』の実現~」を公表している。2035年には大阪ベイエリアを中心に約100機を運航する構想を掲げており、官民一体での取り組みが進められている。

 国内各地で空飛ぶクルマ導入に向けた検討が進む中、大阪ではすでに専用バーティポートが完成している。さらに周辺には関西国際空港、大阪国際空港(伊丹空港)、神戸空港、八尾空港の4つの空港が存在し、都市部には河川も多いことから、安全な飛行ルートを設定しやすいという地理的優位性もある。今回のコンソーシアムはOsaka Metroの提案によって設立され、各社は具体的な商用運航計画を説明した。

Osaka Metroが描く“空の交通インフラ”

 Osaka Metroは2035年頃を見据え、空飛ぶクルマを鉄道やバスに並ぶ新たな都市交通インフラとして定着させる構想を描いている。

写真:大阪港バーティポート入口(銘板)
2023年、大阪港駅から徒歩9分の立地に「大阪バーティポート」が完成。空飛ぶクルマの離着陸場をはじめ、旅客施設、格納庫、充電施設、消火設備、風向指示器、モビリティポート(オンデマンドバス・シェアサイクル)、駐車場といった設備が整備されている。

 大阪港バーティポートは、Osaka Metroが運営する日本初の空飛ぶクルマ専用離着陸場として2025年3月末に完成した。敷地内には格納庫や旅客ターミナルも整備されており、2025年9月にはSkyDriveの「SkyDrive式SD-05型」によるデモ飛行も実施されている。また、空飛ぶクルマの周知・社会受容性向上を目的としたイベントにも力を入れており、ゴールデンウィーク期間中には展示・搭乗体験やトークイベントを組み合わせた「空クルラボ」も開催された。

写真:会場に展示された空飛ぶクルマ
写真:会場に展示された空飛ぶクルマ
大阪港バーティポートの格納庫内は、空飛ぶクルマ関連のイベント会場としても活用されている。

 商用運航に向けては施設面の改良も必要になるという。Osaka Metro河井代表は、「共同利用を前提とした場合、各社が必要とするスペースや関連設備の追加整備が必要になります。夏場の冷房対策を含めた格納庫整備も進めていかなければなりません」と説明した。さらに、2028年に森之宮エリアに新設される中央線新駅開業にあわせて、森之宮エリア周辺ビルの屋上に「森之宮バーティポート」を整備する計画も明らかにした。

写真:話をする河井氏
新しいモビリティへの取り組みを説明する大阪市高速電気軌道株式会社(Osaka Metro) 代表取締役社長 河井英明氏。

SkyDrive・Soracle・丸紅が示した商用化ロードマップ

 空飛ぶクルマの開発を担うSkyDriveは、大阪府・大阪市と連携協定を締結しており、Osaka Metroとも業務提携を進めている。今回の会議では、大阪港バーティポートを活用した商用運航に向けたロードマップ案を提示した。

大阪ダイヤモンドルート
SkyDriveは、既存インフラである緊急離着陸場を空飛ぶクルマの運航に活用する構想を提案。(出所:SkyDrive)

 まず2028年に周遊飛行サービスを開始し、その後は森之宮バーティポートや、大阪市内に146カ所あるヘリコプター用の緊急離着陸場(Hマーク)など既存インフラの活用を検討するとしている。さらに、それらの複数拠点を結ぶ短距離移動航路を「大阪ダイヤモンドルート」として構築していく方針だ。また、開発中の空飛ぶクルマは、商用運航への採用を目指し、型式証明の取得を進めている。それに加え、事業化への最適化や次世代機の開発にも取り組んでいくとしている。

写真:話をする福澤氏
株式会社SkyDrive 代表取締役CEO 福澤知浩氏。

 SkyDriveの福澤代表は、実装に向けた課題としてインフラ規制の見直しを挙げた。現在、大阪港バーティポートでは航空法で定められたヘリコプターの進入表面制限により、約1万2000平方メートルの敷地がありながらFATO(最終進入・離陸区域)は1面しか設置できない。しかし、eVTOLは垂直離着陸が可能であり、進入方向などを最適化することで最大3面まで設置できる可能性があると提案した。これが実現すれば、同コンソーシアムに参画する3つの事業者が各面を同時に利用できるという。さらに、河川敷の活用や、行政資産を活用したバーティポート整備支援など、都市開発と一体化したインフラ整備の必要性についても言及した。

 JALと住友商事が共同で設立したeVTOL航空運送事業会社Soracleも、2027年度以降の商用運航開始を視野に準備を進めている。

写真:佐々木氏、話をする太田氏
株式会社Soracle 代表取締役 佐々木敏宏氏(左)、太田幸宏氏(右)。

 同社は2025年9月に大阪府・大阪市と連携協定を締結しており、2026年3月には大阪ヘリポートを整備拠点として活用する体制構築を発表。Soracleの太田代表は「我々の目標は明確です。2027年度以降、全国に先駆けて空飛ぶクルマに搭乗できる未来を構築して行きます」と意気込み、2026年度中の実証飛行と航空運送事業許可取得を目指している。機体には、戦略的関係構築に向けた基本合意書を締結した米Archer Aviationが開発する5人乗りeVTOL「Midnight」を採用予定だ。機体開発と型式証明取得の進行を踏まえて実証飛行を検討していくという。

 2027年度下期以降を目標とする運航開始の初期フェーズでは、関西の各空港と市街地、さらに京都、奈良、高野山、瀬戸内の島々などを結ぶ観光ルートを構築し、2030年以降は空港と都市部を結ぶ二地点間輸送へと発展させる計画としている。

 丸紅も同日、大阪府・大阪市と商用運航実現に向けた連携協定を締結した。

 同社は2023年、米国LIFT Aircraft社のHEXAを用いて大阪城公園で国内初となる有人デモ飛行を実施しているが、商用運航では英国Vertical Aerospace Groupが開発する5人乗りeVTOL「Valo(旧VX4)」を導入予定としている。

写真:話をする川邉氏
丸紅株式会社 常務執行役員 国内統括 川邉太郎氏。

 大阪での事業計画として、2026〜2027年度には航空ルートの再検証やポート候補地の選定、運航体制構築を進めるほか、関係機関との調整や有人デモ飛行も実施する。2028年度には型式認証を取得し、遊覧飛行や一部ルートでの商用運航開始を目指すとしている。その後、2029年度には関西圏内での二地点間輸送を事業化し、2030年度以降はポート整備と飛行ルートを拡大していく計画だ。

写真:話をする吉村氏
大阪府知事 吉村洋文氏。

 本会議は、大阪府知事の吉村氏の呼びかけで設立された。吉村氏は「このコンソーシアムは単なる検討会ではありません。大阪バーティポートを使い、本気で空飛ぶクルマの商用化に取り組む事業者と共に実装を進めていきます」と強調する。必要に応じて、規制改革や飛行ルート整備について国への働きかけも行う考えを示した。

 大阪では現在、行政、鉄道事業者、航空事業者、商社が一体となり、全国初の空飛ぶクルマ商用運航実現に向けた具体的な準備が進んでいる。万博後の“レガシー”を一過性の展示で終わらせず、実際の都市交通へと転換できるかが今後の焦点となる。