2025年11月12日、筑波大学発ベンチャーのAeroFlexは、火星の大気条件に近い環境での飛行実験に向けた実験機を開発し、2025年10月に宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)に納入したと発表した。

写真:火星の大気条件に近い環境での飛行実験に向けた実験機
実験機(右方)

 火星探査は、生命の起源や惑星の成り立ちの解明、将来の人類居住地としての可能性など、多方面で期待が高まっている。AeroFlexは「上空からの地表面探査」を目指し、JAXA大山研究室と共同で火星探査飛行機の研究開発を進めている。

 実際の火星探査では、火星大気圏に突入して十分に減速した着陸機から探査飛行機を放出し、滑空させて地表面を観測することを想定している。火星の大気は地球に比べて極めて希薄かつ低温であるが、地球上の高度30kmから火星探査飛行機を放出して滑空させることで、火星の大気条件に近い環境で飛行実験を行うことができる。

火星探査飛行機(実験機)の特徴

 高高度の厳しい大気環境に対応した機体を作るため、設計から通信システムの開発・製造までをAeroFlexが独自に行った。

  • 小型かつ高い揚力を得られるタンデム翼
     主翼を前後両方に配置するタンデム翼を用いることで、小型でありながら火星の低い大気圧でも高い揚力を得られる設計。簡易機体を用いた低高度での滑空飛行実験で十分な飛行性能を確認した。
  • 機体搭載バッテリーの保温システム
     地上30kmでは気温がマイナス60℃ほどになるため、バッテリーを利用するには十分に保温しておく必要がある。AeroFlexは機体搭載バッテリーの保温システムを開発し、マイナス60℃環境の低温度試験でその性能を確認している。
  • パラシュートシステム
     滑空する機体からパラシュートを展開して安全に落下させる機能を搭載した。また、落下時に飛行データをまとめて地上に送信する機能を搭載している。
  • 機体と通信を行う地上管制システム
     機体制御を行うソフトウェアや、機体にコマンドを送信したり機体から飛行データ等を受信したりするための地上管制システムを開発。
  • フルカーボン製の機体
     軽量で高い剛性を持つフルカーボンを素材に採用し、主翼や筐体などもAeroFlexが製造した。
写真:実験機
実験機(左方)

高高度での飛行実験

 高高度での飛行実験は以下のような流れで実施する。現在は風向きなどの気象条件の選定や法的手続きを進めており、実験実施は2026年以降を予定している。

1. 気球に機体を吊り下げて海上へ放球し、高度30kmへ
2. 地上からコマンドを送信し、機体を切り離す
3. 垂直降下させて速度上昇した後、体を起こして水平飛行
4. 飛行完了後、パラシュートで降下しつつ飛行データ等は地上へ送信

概要図
概要図
概要図
概要図

 また、開発準備の一環として、茨城県行方市の協力のもと、廃校となった行方小学校の施設を活用し、実験機開発過程の事前試験を実施した。この取り組みでは地域資源を実証フィールドとして再活用し、地方創生にも寄与している。