2025年11月27日、ソフトバンクと東京科学大学 工学院 電気電子系 藤井輝也研究室(以下、東京科学大学)は、雪山や山岳地帯での遭難者救助をより迅速に行うことを目的に、「ドローンWi-Fi無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システム」を開発したと発表した。

 このシステムは、遭難現場の上空にWi-Fi無線中継装置を搭載したドローンを飛行させて、Wi-Fiで臨時の通信エリアを構築する「ドローンWi-Fi無線中継システム」と、スマートフォンのWi-FiとGPS機能により遭難者と捜索者の位置情報を取得する「位置情報取得システム」を組み合わせたもので、遭難者と捜索者がどの通信事業者の回線を利用していても、Wi-Fiを活用することでそれぞれの位置情報をリアルタイムに確認することができる。

 また、マイクやスピーカーをドローンに搭載しており、遭難者との双方向コミュニケーションが可能。捜索現場の状況確認や捜索者との連携が円滑化し、迅速な捜索活動につながることが期待される。

ドローンWi-Fi無線中継システムを用いた遭難者捜索支援システムの概要図

システム概要

 ソフトバンクと東京科学大学は、2016年より「ドローン携帯無線中継システムを用いた遭難者位置特定システム」の研究開発を進めてきた。ドローン携帯無線中継システムは、同社以外の通信事業者の位置情報を取得できないことや、電波法関係審査基準の規制でドローンを有線で上空に係留する必要があり、広域の捜索ができないことなどが課題だった。

 そこで両者は、電波法関係審査基準の規制がなく、特定エリアに係留させず利用できる2.4GHz帯のWi-Fiを活用したドローンWi-Fi無線中継システムを採用した。モバイルネットワークと比較してWi-Fiは通信可能エリアが狭く、遭難者の位置情報を特定できるエリアが限定的であるため、利得(※1)が高い指向性アンテナをドローン(飛行可能時間:約15分間)に搭載し、1回あたりの飛行で捜索が可能なエリアを約3~4kmに拡大した。

 バックホールには、低軌道衛星(以下、LEO)を利用可能。LEOは従来の静止衛星に比べて通信装置が小型で、インターネット接続が容易であり、システムが稼働するまでの時間を大幅に短縮できる。

 また、ドローンにマイクやスピーカーを搭載し、遭難者への呼びかけや遭難者からの応答など双方向のコミュニケーションが可能。昇降装置でスピーカーやマイクを最大80m降下させ、地上との距離を縮めることもできる。呼びかけ音声を聞き取りやすい声色に変換できるほか、システムにスマートフォンを接続して遠隔地の肉親や知人が遭難者に呼びかけることも可能だ。

※1 アンテナに入力された電力に対して、アンテナの任意の方向にどの程度の電力を出力できるのかを数値化したもの。利得が高ければより強い電波を放射することができる。

システム概要図

 目視による手動操縦と遠隔操縦の切り替えや、自律飛行と手動操縦の切り替えなどが可能な「ケータイドローン飛行制御システム」を搭載しており、捜索活動に合わせて柔軟に運用できる。

 なおシステムの利用には、遭難者のスマートフォンに専用アプリが事前にインストールされている必要がある。

 ソフトバンクと東京科学大学は、このシステムと「Wi-Fiを活用した遭難者携帯端末の位置特定システム」を統合し、実用化を目指すとしている。