2024年5月22日、東京大学先端科学技術研究センターと三井不動産による研究グループは、高層マンションなどの建物内にドローンが垂直飛行できる専用空間を設置した新たな配送システムを考案したことを発表した。数理モデルを利用したシミュレーションにより、エレベーターでの配送と比べ、消費電力、待ち時間ともに有利になる条件を明らかにした。

 同研究は、エレベーターを使った配送の待ち時間を解決し、災害時には消費電力を抑えて生活必需品の配送を行うなど、建物内の物流に有力な選択肢となる可能性があるとしている。今回は基礎的なモデリングによる概念実証を実施したが、今後、実機を用いた検証につなげたい方針だ。

ドローンによる建物内垂直配送のイメージ

 2022年12月にドローンの有人地帯における目視外飛行(レベル4飛行)が解禁されたが、ドローン配送は主に山間部や離島での運用に限られている。そこで東京大学と三井不動産は、都心などの人口過密地域におけるドローン配送シーンを具体化するため、エレベーターの代わりとなる垂直輸送システムの共同研究を進めている。

 高層マンションや高層オフィスビルでは、ケータリングサービスや通販による宅配需要の増加、災害時の物流インフラへの懸念など、従来のエレベーターに頼る配送だけでは対応しきれないリスクが存在する。そこで、建物内にドローンが垂直飛行できる専用空間を用意し、各階に設置した垂直離着陸が可能なポートで荷物配送を行う仕組みを考案した。これにより、エレベーターによる配送と比べて迅速で省電力な配送が可能となる。

 また、同システムの有効性を分析するため、荷物の脱着、上下飛行、バッテリー交換などの配送プロセスを仮定し、実際の機体(ACSL「PF2-AE Delivery」)の仕様をもとに現実に近い数理モデルを構築。そのうえで、さまざまなドローンの台数に対して配送パフォーマンスを調査した結果、数理的な解析によって必要なドローンの台数などを求めることができたほか、一定の需要レベルまではエレベーターよりもドローンを活用した方が、早く少ない消費電力で配送が可能であることがわかった。

ドローンによる垂直配送システムの概略図
エレベーターと比較したドローン配送の有効性
待ち時間(左)と消費電力(中)の図では、色が青に近づくほどドローンが有利であることを示す。例えば、1世帯時間当たりのリクエスト数が0.2件の状況でドローン5台を利用して配送すると、待ち時間で280秒、1配送当たりの消費電力で0.09kWhの削減となる。これらの状況をマップにまとめたのが右図。

「大量輸送が得意なエレベーター配送」と「個別の即時対応が得意なドローン」の2つの特性の異なる輸送を組み合わせることによって生じるメリットは、他のドローンを活用したマルチモーダル(多様な輸送手段を用いた)物流システムにも重要な示唆を与えるとしている。

 なお同研究成果は、2024年5月16日に「Communications in Transportation Research」のオンライン版で公開されている。

【論文情報】
雑誌名:Communications in Transportation Research
題名:Drone-based vertical delivery system for high-rise buildings: Multiple drones vs. a single elevator
著者名: Takahiro Ezaki*, Kazuhiro Fujitsuka, Naoto Imura, and Katsuhiro Nishinari *責任著者
DOI:10.1016/j.commtr.2024.100130