2022年4月11日、情報通信研究機構(以下、NICT)は、ドローン同士がそれぞれの位置情報などを地上の操縦者やネットワークを経由せずに、直接通信するシステムを開発したことを発表した。

 このシステムを応用して、先導するドローンに3機のドローンが一定の間隔を保って追従し、編隊飛行させる群飛行技術、および同一の空域に4機のドローンが飛行しても自律的に相互の接近を回避するシステムの実証実験に成功した。

 同技術により、特に目視外まで飛行させる場合におけるドローン運用の効率化や電波の有効利用、空の安全性の向上につながり、複数ドローンの同時飛行による物流や広範囲の農薬散布、災害対策などへの応用が期待される。

 なお今回の成果の一部は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が進める「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト/遠隔からの機体識別および有人航空機との空域共有に関する研究開発」において実施したものとなる。

 同研究では、ドローン同士が特定小電力無線局である920MHz帯の電波(出力20mW、上空利用可能、無線局免許不要)を使って相互にブロードキャスト通信を行いGNSSで得られた位置情報を共有する「機体間通信システム」を開発。これを各ドローン上で飛行制御装置に接続することにより、ドローン同士が相互に連携することを可能とした。

 無線LANなどの一般的なデータ通信は、通信相手先を指定して1対1で双方向に通信するのに対して、ブロードキャスト通信は一つの端末から不特定多数の端末に対して同じデータを同時、かつ一方向で送信する。今回開発した機体間通信システムは、互いに信号がぶつからないよう、複数の端末それぞれがタイミングを区切ってブロードキャスト通信することにより、端末間で共通の周波数を使って各位置情報を相互に共有している。

 このシステムに、先導するドローンに対して他のドローンが自動で追従する群飛行(離着陸を含む)や、自律的な接近回避のための飛行制御アルゴリズムを組み込むことで、それぞれ4機での群飛行および接近回避の飛行試験に成功した。

【図1】4機のドローンが連携した自動追従群飛行実験
【図2】4機のドローンによる自律接近回避実験での飛行軌跡

 図1左のオレンジ色の線は各ドローンの飛行軌跡を示しており、黄色の先導機に追従して赤色の3機のドローンが編隊を維持しながら飛行している。また、図2左のように、4機が方向を変えて接近を回避した後、図2右に示すように、予定していた経路にそれぞれ復帰することを確認した。

 なお、同システムはドローン間だけでなく、ドローンと有人ヘリコプターの間でも利用でき、数kmの距離を隔ててヘリコプターが接近した場合に、ドローンが自律的な接近回避をすることも実証している。

 これらの技術によって、今後混雑が予想される上空での効率的で安全なドローン活用が可能となり、物流、農業、点検、防災といった様々なシーンでの利用が期待される。また、今回の成果を基に、さらに多くのドローンが同一の空域内を飛行する場合に対応した通信制御方式や飛行制御方式についての検討のほか、飛行する環境に応じた編隊の隊形にするなどの群飛行技術や通信技術の高度化を進め、同方式の実用化を目指すとしている。

ドローンの群飛行・接近回避システム

 従来、ドローンは1機のドローンに対して1人が操縦していたが、運用効率化のため、複数のドローンを1人で操縦できるようにするニーズが高まっている。複数のドローンを1人で操縦することは、技術的には可能であったが、ドローンごとに地上側との無線通信が必要なため、電波が混雑するという問題があった。特に、操縦に使用する2.4GHz帯は一般的に多く利用されており、他の周波数(ここでは920MHz)を利用することで通信の混雑を避けられる可能性が広がる。
 また、GNSSで得た位置情報に基づき、あらかじめ決められた飛行プログラムで自律飛行させて多数のドローンを運用するシステムも実用化されているが、飛行の途中で飛行計画を変更したり、地上の操縦者を経由せずにドローン同士で追従や連携させて飛行したりすることは実現できていなかった。
 目視外飛行では操縦者がドローンを直接目視確認できないため、多数のドローンが同一の空域を飛び交うようになると、衝突などのリスクが増大すると考えられる。これまでの超音波センサやカメラ、レーダに基づく回避技術に加えて、ドローン同士が直接通信することにより周囲のドローンの位置をドローン自身が把握し、地上の操縦者を経由せずに衝突の危機を回避することができれば、運用者が異なる多くのドローンが混在する同一の空域をより安全に利用することができる。

 今回開発した群飛行の飛行制御では、各ドローンはNICTが開発した機体間通信システム(図3)により、1秒に1回以上の頻度で自機の位置情報を周囲にブロードキャストし、それぞれが受信することで周囲のドローンとの相対位置を把握し、安全な飛行間隔を保ちながら離陸・飛行・着陸を行う。
 今回の実験では1機の先導するドローンに対して、3機の追従ドローンが編隊の形を保って飛行することができた(図4左)。

【図3】地上の操縦者を経由しない機体間通信システム
【図4】機体間通信によって可能となる群飛行および接近回避のイメージ

 また、今回開発した接近回避の飛行制御では、他のドローンが一定の距離まで接近してきた場合に、その場で停止するか、安全な方向に自動的に進路を変更し、十分な距離まで離れた後に元の飛行ルート上に戻ることで、お互いが自律的に危機回避する(図4右)。NICTによると、これまで3機までのドローン間での接近回避は実証されているが、4機でのドローン同士の自律接近回避に成功したのは初めてのことだという。
 東西南北の方向から同一の地点に向かって直進飛行してきた場合に、相互に約20mの距離まで近づいたところで、操縦者が操作することなく、それぞれが自律的に飛行経路を変えて危険な接近を回避できていることを確認した。