2021年3月18日、東京大学先端科学技術研究センターは、照月大悟特任助教、神崎亮平教授らの研究グループが、カイコガ触角(※1)と小型ドローンを融合することで、匂い源探索が可能なバイオハイブリッドドローンの構築に成功したことを発表した。この成果により、ドローンは匂いの飛来方向を認識し、回転運動を含む高度な匂い源探索アルゴリズムを実装することが可能となった。危険物質探知や災害現場での捜索活動などへの応用が期待される。

カイコガ触角を搭載したバイオハイブリッドドローン

 近年、危険物質やガス漏れなどの検出に向け、ドローンにガスセンサを搭載して匂い源探索を行う研究が進められている。しかし既存のガスセンサは性能が十分ではないという課題がある。また、昆虫触角は、環境中に漂う匂い物質を高感度、高選択、リアルタイムに検出可能な匂いバイオセンサとして機能するが、昆虫触角を搭載したドローンの先行研究では飛行性能が十分でなく、また、風洞など限定された環境でのみ検証が実施されていた。

 研究チームでは、メスの性フェロモン(ボンビコール、※2)を高感度、高選択的に検出するカイコガに着目。その触角を利用し、触角電図(EAG、※3)を用いて、ボンビコールに対する応答を電気信号として検出した。ペイロードの限られる小型ドローン(Tello EDU)に搭載するため、重量約15gの小型EAGデバイスの開発も行なった。

 自然環境では、匂い物質は風や地形の影響により不連続に分布し、刻々と変化するため、濃度と飛来方向をリアルタイムに検出しながら探索を行うことが必要となる。先行研究では、単純なジグザグ移動よりも、回転運動と直進運動の組み合わせ(スパイラルサージアルゴリズム)の方が効率的に探索できることが示されているが、そうするとドローンが匂い源と逆方向を向いた状態でも検出されてしまい、匂い物質の飛来方向がわからなくなってしまう。そこで、小型EAGデバイスを筒型の囲い(センサエンクロージャ)で覆うことにより、センサ指向性を向上させ、ドローンが匂い源に対する前後方向を認識できる手法を構築した。

 実験では、電磁弁の制御によって間欠的に放出されるボンビコールを匂い源とした。ドローンは回転運動中に連続的に匂い応答を検出して、その中の最大値が出た方向に直進するという動作を繰り返した。その結果、探索開始時に匂い源の方向が不明な場合であっても、ドローンは自律的に方向修正を繰り返して匂い源定位に成功した。

スパイラルサージアルゴリズムを用いたバイオハイブリッドドローンの匂い源定位実験の飛行軌跡

 研究成果は、2021年3月18日に科学雑誌「Sensors and Actuators B: Chemical」オンライン版に掲載(DOI番号:10.1016/j.snb.2021.129770)。

※1 カイコガの頭部からハサミで切り取った触角。実験条件に依存するが、触角電図を用いることで、切り取った後1〜2時間程度は匂いに対する応答を電気信号として検出可能。
※2 オスのカイコガはボンビコールを高感度・高選択的に検出することができる。また、オスのカイコガはボンビコールのみでメスに定位する行動を引き起こすことが知られている。
※3 Electroantennogram(EAG)。昆虫触角の両端に電極を配置して、触角が匂い物質などで刺激された際の電位差を計測する手法。