2018年5月30日、NEDOと経済産業省は、インフラ点検や災害対応向けの各種ロボットの性能を実現場への導入前に把握するための性能評価手法を「ロボット性能評価手順書」として公表した。

 策定された手順書は、NEDOプロジェクトの成果を活用してとりまとめたものである。橋梁点検用の無人航空機、ダム・河川点検用の水中点検ロボット、トンネル災害・プラント災害対応用の陸上移動ロボットを対象に、ロボット技術に携わる有識者との議論や模擬環境下での実機を用いた検証結果も踏まえている。求められる性能項目や性能を評価するための試験方法、試験に必要な測定機器などを盛り込んでいる。

手順書の対象分野と対象ロボット

 近年、老朽化した橋梁やダムなどの社会インフラが急増しており、それに伴いこれらのインフラを維持管理する費用が増加している。さらに、少子高齢化による人材不足の懸念もある。故に、災害・事故時に人の代わりに現場の被害状況等を調査するロボットのニーズが高まっている背景がある。

 現在、これらの課題解決に向けたロボットの開発・実証が活発に行われているが、ロボットの試作機をいきなり実際の現場に持っていき性能を評価するのでは、開発の手戻りが多く非効率である。そこで、実現場でロボットの性能を評価する前に、開発者がロボットの性能を容易に確認するための現場環境を模擬した実証施設の整備と、そこで行う性能評価試験手法を策定する必要がある。前者については、現在、福島ロボットテストフィールドの整備が進められており現場環境を模擬した橋梁、大型水槽、トンネルなどが設置される予定だ。後者については、NEDOの「ロボット・ドローンが活躍する省エネルギー社会の実現プロジェクト」において、インフラ点検および災害対応分野での活用が期待されるロボットの評価試験手法の開発を行った。

 本研究開発で、模擬環境下で各種ロボットを飛行または航行させ、再現した業務プロセスに沿った各種ロボットの性能評価の試験方法と各種ロボット固有の性能を評価するための試験方法、性能評価試験に必要となる計測機器、および環境設備やテストピースなどの仕様や配置方法などの試験環境の妥当性を検証するための試験を実施し、インフラ点検業務、災害対応業務とロボット技術に関する有識者の意見も踏まえて「ロボット性能評価手順書」とした。

 また、昨年11月22日にNEDOと福島県が締結した「福島ロボットテストフィールドを活用したロボット・ドローンの実証等に関する協力協定」の取り組みの一環として、本手順書に基づく試験が「福島ロボットテストフィールド」で実施できるよう、これまでに本研究開発で得られた知見を福島県へ提供しており、福島ロボットテストフィールドの設計に一部反映される予定である。

福島ロボットテストフィールド 完成予想図

手順書の内容

(1)橋梁点検のための無人航空機に関する性能評価手順書
 「運動性能」と「データ取得性能」
 橋梁のひび割れなどのデータ取得箇所に接近するときの構造物周辺における無人航空機の姿勢の安定性などに関する「運動性能」と、無人航空機に搭載されたカメラや打音器などのセンサーを用いて橋梁点検に必要なデータ(近接画像、打音データなど)を取得するプロセス全体を評価する「データ取得性能」に関する性能評価項目、試験方法、試験設備などについて、模擬環境下での検証結果も踏まえ、手順書として取りまとめている。

手順書に記載の試験方法の例

(2)ダム・河川点検のための水中点検ロボットに関する性能評価手順書
 ダムの堤体やゲートおよび継ぎ目開きの概査点検と精査点検プロセスに沿った評価項目や試験方法、濁水中視認性確認のための評価項目や試験方法、また河川点検用のフロートロボットでの点検プロセスに沿った評価項目や試験方法、さらには移動計測時の直進性や旋回性および点検精度を評価するための評価項目や試験方法などについて、模擬環境下での検証結果も踏まえ、手順書として取りまとめている。

手順書に記載の試験方法の例

(3)トンネル災害・プラント災害のための陸上移動ロボットに関する性能評価手順書
 陸上移動ロボットの踏破性などの基本性能に関しては、デジュールスタンダードとなっている米国国立標準技術研究所(NIST)のSTM(Standard Test Methods For Response Robots)の試験方法や試験設備、またトンネル災害・プラント災害特有の試験方法や試験設備、さらには耐環境性に関する性能評価として近年一般用語となりつつある“IP”表記に関する試験方法に加え、安全性に関する防爆性能に関する試験方法について、模擬環境下での検証結果も踏まえ、手順書として取りまとめている。さらに、今後の国際標準化を目指す新たな試験方法についても記述されている。

手順書に記載の試験方法の例