ドローン運航におけるプライバシー侵害とは、ドローンで他人の私生活を無断で撮影・公開することにより、個人情報の漏えいや肖像権侵害など民法709条に抵触する行為のことをいう。
なお、民法において「プライバシー」は明確に定義されていないが、実際の判例では「むやみやたらに他人に知られたくない情報」がプライバシーとして保護される基準とされている。
プライバシー侵害に該当する要件
民法709条は「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」と定められており、プライバシーは「他人の権利又は法律上保護される利益」に該当する。
プライバシー権が明確に認められた昭和39年の裁判では、私事性・秘匿性・非公知性すべてを侵害する情報が公開され、当事者が不快や不安を感じた場合はプライバシーを侵害していると示した。
- 私事性:私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られる恐れのあること。家族や友だちとの会話、日常の習慣、好みや趣味など、個人的な場面や私生活に関わる情報。
- 秘匿性:公開を望まないであろう事柄であること。自分だけが知っている日記の内容や体の採寸サイズなど、「絶対に他の人に見られたり聞かれたりしたくない」と思う情報。
- 非公知性:一般の人々にいまだ知られていない事柄であること。ネットやニュースで公開されていない住所や電話番号、個人的なエピソードなど、「一般の人には知られていない」情報。
ドローンにおけるプライバシー侵害の具体例
ドローンを使用したプライバシー侵害の例としては、以下のようなものがある。
家の中を覗き込むような撮影
- 窓越しにリビングや寝室を無断で撮影し、家族がくつろいでいる様子や家財道具が映り込む。
- ベランダや玄関先のプライベート空間をズーム撮影して、生活の状況を第三者に知られてしまう。
- 外部にあまり知られたくない趣味(コスプレ、コレクションなど)を自宅で楽しんでいるところを空から覗かれる。
- 家の裏口やゴミ置き場など、人目につきにくい場所を撮影し、防犯対策の有無を把握される。
- 朝出かける時間や夜に帰宅する時間を記録し、いつどこで何をしているのかを把握できるほど撮影を続ける。
- 家族・同居人との会話や食事シーンを上空から録画し、個人的な生活習慣を勝手に把握する。
着替えの瞬間の盗撮
- 海水浴場や屋外プール、更衣室の上空から、利用者が服を脱ぎ着している様子を意図的に撮影する。
- 自宅の庭などで水着や軽装で過ごしている場面を、超望遠カメラで詳細に記録する。
- 温泉の露天風呂を上空から撮影し、入浴中の人が映り込んでいる映像をSNSにアップする。
- キャンプ場やトイレ・シャワーエリアの隙間を狙った撮影で、利用中の様子を無遠慮に記録する。
- 公衆トイレの出入りを記録し、特定の人物の利用状況を監視する。
- ビーチ沿いの屋外シャワーを上空から盗撮し、水着や裸の映像を収集する。
違法・犯罪行為に関連するプライバシー侵害
- 友人や異性との密会をわざわざ追跡撮影し、プライベートな交流を勝手に記録・拡散する。
- ストーカー目的で特定の人物の行動をドローンで追跡する。
- 不倫や浮気の現場を盗撮し、個人の秘密を暴露する。
- ドローンを使って家の侵入経路やセキュリティの弱点を調査し、空き巣の下見をする。
交通・災害・事故現場でのプライバシー侵害
- 他人の車のナンバープレートを上空から撮影し、所有者を特定しようとする。
- 交通事故の現場をドローンで無断撮影し、負傷者や関係者の顔が分かる状態のデータを拡散する(私事性・秘匿性)。
- 病院の救急搬送シーンをドローンで記録し、患者の様子が映る動画をアップする。
学校や教育機関でのプライバシー侵害
- 通学路や学校の校庭を上空から撮影し、子どもの顔や制服、行動範囲が特定できる映像を記録する。
- 部活動の練習風景を、学校や生徒の許可なしに撮影して拡散する。
- 生徒の下校ルートをドローンで記録し、どこに住んでいるか特定しようとする。