2025年7月31日(ドイツ・ベルリン)、宇宙航空研究開発機構(以下、JAXA)とドイツ航空宇宙センター(以下、DLR)は、国際宇宙ステーション(以下、ISS)において、それぞれが開発した宇宙ロボットがリアルタイム通信を行いながら初協働したことを発表した。

写真:ISSきぼうモジュールの大西宇宙飛行士と「CIMON」「Int-Ball2」
DLRの「CIMON」(左)、大西宇宙飛行士(中央)、JAXAの「Int-Ball2」(右上)

 7月29日に完了した「ICHIBAN」(IntBall-2 CIMON Hovering Intelligences Building AI Network)ミッションでは、JAXAとDLRがそれぞれ開発した2機の宇宙飛行士支援ロボットが、異なるISSのモジュールとのITネットワーク間をまたいで相互通信と共同作業を行った。

 異なるロボットシステム間の協調は、宇宙飛行士とロボットによる効率的な協調運用の基盤となることや、将来的に宇宙実験作業の補助・代替、遠隔での不具合調査への応用が期待される。

 両ロボットは、こうした連携を想定して設計されたものではなかったが、今回のミッションで新たな拡張機能を開発した。

【CIMON】

 CIMONは、DLRのドイツ宇宙機関からの委託によりエアバスが開発し、IBMの支援のもとで実現した、ISSにおける宇宙飛行士のための自律型支援ロボット。自然言語処理と画像認識技術を活用し、音声コマンドによってクルーと対話し、視覚や聴覚を通じて周囲の環境を認識する。IBMの主要なAI技術である「watsonx」を活用している。

 ICHIBANミッションでは、CIMONの統合、運用計画、実行は、欧州宇宙機関(ESA)とスイスに拠点を置く運用センターBIOTESCの支援により実施した。

【Int-Ball2】

 Int-Ball2は、JAXAが開発した船内ドローンで、宇宙飛行士の撮影作業を支援する。ソフトウェア開発企業であるSECは、統合管理ソフトウェアと地上運用システムの開発を支援した。2023年よりISSの日本実験棟「きぼう」で宇宙飛行士のカメラ・撮影作業を支援している。地上からの遠隔操作によりISS内を移動し、写真や動画を撮影することでクルーの作業負担を大幅に軽減する。

【ICHIBANミッションの目標】

  • ISSにおいて、リアルタイムで運用する複数ロボットがクルーと協働でのタスク実行が可能であることを実証すること。
  • ISS内の異なるモジュール・ネットワークに属するハードウェア・システム間で相互通信を実現すること。
  • 国際協力ミッションを通して有人宇宙活動および宇宙ロボティクスに関するアウトリーチに貢献すること。

 これらを目標に、JAXAとDLRはICHIBANの軌道上実証を実施した。JAXA宇宙飛行士の大西卓哉氏が、ISSの欧州実験棟「コロンバス」において、CIMONとの会話を通してInt-Ball2を遠隔操作し、きぼう日本実験棟の物品捜索を模擬した実証を行った。

 Int-Ball2は撮影した映像をCIMONのモニターに送信し、それを通じて大西氏はステーション内に事前に隠された物体を見つけ出すことに成功した。従来は地上から操作をしていたInt-Ball2を、この実証ではじめてクルーが遠隔操作した。なお、モノ探しの対象は、Int-Ball初号機とそのターゲット・マーカー、CIMONの付属品であるルービック・キューブが含まれていた。

 この実証でIBMはwatsonxテクノロジーを基盤としたCIMON向けの対話機能を提供。この機能を活用し、ISSの宇宙飛行士は、CIMONと会話することで音声指示をInt-Ball2へのコマンドに変換し、きぼうモジュール内のInt-Ball2の移動を操作した。

 この成果は、将来、宇宙飛行士と複数のロボットが直感的かつ統合的に連携して作業するための指針となり、今後の新たな応用ミッションへの適用も期待される。

関係者コメント

ドイツ航空宇宙センター(DLR) ドイツ宇宙機関 クリスティアン・ローゴン博士

 JAXAのメンバーとの協力によって実現したISSでのICHIBAN実証ミッションは、宇宙ロボティクスにおける重要なマイルストーンです。独立して開発されたCIMONとInt-Ball2の間で初めて通信が行われたことは、人工知能とロボティクスのネットワーク化による探査の未来を切り拓くものです。この成果は、宇宙飛行士の支援を大きく前進させるでしょう。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)有人宇宙技術センター 研究開発員 山口 正光 ピヨトル氏

 ICHIBANミッションは、宇宙における宇宙飛行士の支援、及びロボット間の協調に向けた重要な指針となります。JAXAのInt-Ball2とDLRのCIMONの連携によって、技術的な相乗効果を実証しただけでなく、国際協力ミッションとしての両機関の人材交流をはじめとして連携をより強めることができたことに感謝します。