2023年3月22日、ソフトバンクは、上空における無線環境および通信性能の把握を目的として、移動通信に利用される2GHz帯の周波数を用いた電波伝搬特性に関する検証を、2023年2月にドイツで実施したことを発表した。欧州で民間航空機向けの通信サービスの提供に実績があるドイツのSkyFiveの協力の下、高度や移動速度などが地上とは異なる上空の環境において行った。

 小型ドローンなどを活用したサービスの増加に伴い、上空での無線通信の利用が増えている。今後も災害時において被害の状況を把握するためにドローンやヘリコプターなどと通信することや、係留気球への無線バックホールの提供など、上空向けの通信の需要はますます増加すると考えられている。

 一方で、上空と地上では電波伝搬に影響を与える周辺環境が大きく異なり、安定した質が高い通信サービスを提供するには、基地局と通信端末の位置や高度などが通信に与える影響を考慮する必要がある。例えば、地上では建物や樹木により電波が遮られることがあるが、上空では遮るものがほとんどなく、電波は遠くまで届く。その結果、近くにある基地局からの電波との干渉が大きくなり、受信品質の劣化と通信速度の低下をもたらす。

 また、ドローンなどに搭載される通信端末の移動速度は地上で使用されるスマートフォンなどと比べて速いため、周波数が実際とは異なる値として観測される現象(ドップラーシフト)や、電波の受信レベルが変動する現象(フェージング)が発生し、受信電力や通信品質が変動することがあるという。

 ソフトバンクは今回、移動通信に利用される2GHz帯の周波数を用いて、地上に設置した無線基地局と、有人飛行機に取り付けたアンテナを介した通信端末の間で、電波伝搬特性の検証を実施。さまざまなユースケースを想定し、飛行機をいろいろな高度や速度の組み合わせで飛行させて、多くの条件下で電波伝搬特性のデータを取得した。

検証で使用した飛行機
飛行機に取り付けたアンテナ(左)、地上に設置した無線基地局(右)

 この検証で得られたデータを、自由空間の伝搬損失モデルや3GPP(移動通信システムの規格策定を行う標準化団体)のテクニカルリポート(TR 36.777)として発表されている上空の通信端末の伝搬損失モデルと比較して、評価を行った。

 その結果、TR 36.777で定める基地局の半径や高度の範囲を超えた距離であっても、同モデルに補正をかけることで電波の伝搬損失を高い精度で推定できることを確認した。また、フェージングの偏差の予測については、今回の検証のように広範囲をエリア化した場合、上空の通信端末の高度以外にも基地局からの仰角も考慮に入れる必要があることが判明したという。

 これらのデータから、上空における通信品質の予測が可能になり、ネットワークの最適な設計および形成に役立つと同社は考えている。また、この検証で得られたデータを、通信速度や通信容量を安定的に提供する上空向けの通信ネットワークの設計に役立てるとしている。