2020年2月26日、NEDOは、ロックガレッジ、二宮町立二宮西中学校と二宮町立二宮中学校で、ドローンを使った人命救助の体験授業を開催したことを発表した。
体験授業では、NEDOプロジェクトで、ロックガレッジが開発した「AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム」を用いて、二宮町吾妻山公園でドローンが撮影した空撮画像から、山岳遭難者の捜索を行った。生徒は、体験授業の中でアノテーションと呼ばれる注釈付与作業を行い、生徒の知恵を人工知能(AI)に学習させることにより、遭難現場にいない生徒の一人一人がAIを通じて遭難者捜索に参加する事を体験した。また、今回参加した生徒に、AIなどの科学技術に身近に触れ、将来の進路を考える機会を提供した。

 今後、ロックガレッジは、クラウドソーシングによる集合知で山岳遭難者を捜索するサービスの事業化を目指す。また、二宮町は、キャリア教育として先進技術との触れ合いなど、子ども達の将来に目を向けた教育を継続するとともに、AIなどの先進技術を活用した消防活動に将来的に取り組んでいく、としている。

体験授業の様子

概要

 身近なハイキングから本格的な登山まで、さまざまなレベルの山登りが親しまれている一方で、山岳遭難は後を絶たず、遭難者が必ず生きて帰る時代を実現する事が求められている。この社会課題に取り組むため、NEDOとロックガレッジは、NEDOプロジェクト※1で、広域人命捜索システムを開発した。このシステムでは、大勢の人の知恵を集合知として集めて判断するという人工知能(AI)の技術特性を活かし、AIとクラウドソーシングのハイブリッド型システムとして実現した。

 今回、この研究開発成果の実証実験として、神奈川県二宮町の二宮町立二宮西中学校と二宮町立二宮中学校で、ドローンを使った人命救助を行う体験授業を実施した。体験授業では、人影や人でない影などの多数の小画像に対して、その小画像が人影であるかどうかの注釈を付与する「アノテーション※2」を生徒が行った。大勢の生徒がアノテーションを行った結果をAIがその場で学習し、生徒一人一人の知恵を集合知としてAIに学習させた。このAIが、あらかじめ二宮町吾妻山公園で行われた消防訓練時にドローンが撮影した空撮画像を解析し、遭難者のいそうな場所を自動的に抽出した。

 体験授業では、ロックガレッジ代表取締役の岩倉大輔氏により、ドローン実機の説明や、スタートアップ起業に至るキャリアについての説明も行われた。また、当日の説明の中で、将来的な目標を持つことの大切さについても触れ、参加した生徒にとって、AIなどの科学技術を身近に感じるとともに、将来の進路を考える機会となった。

「AI・クラウドソーシング・ハイブリット型広域人名捜索システム」の概要

 同システムでは、ドローンから送られる映像やセンサーデータをもとに、AIが人影をリアルタイムで発見する。結果は即座に複数の捜索関係者にシェアされ、捜索の状況をモニタリングすることができるようになっている。AIはあらかじめ学習する必要があるが、クラウドソーシングにより人影の画像のアノテーションを行い、集合知としての学習を行う。

システム構成

ユーザー・インターフェース

 捜査関係者に対しては、人影がありそうな場所を、スマートフォン上に表示したドローン空撮画像上でヒートマップ(確率濃淡画像)として示す(左)。
学習する際は、候補画像をタブレット上に表示する。クラウドワーカーは「明らかに人ではない」「人のように見えない」「人のように見える」「明らかに人」の4段階で判断し、タブレット上のボタンをタップして判断結果を入力する(右)。

捜索状況共有画面(左)
解析結果補正/アノテーション画面(右)

※1 NEDOプロジェクト
事業名:次世代人工知能・ロボット中核技術開発/次世代人工知能技術分野/AI・クラウドソーシング・ハイブリッド型広域人命捜索システム
実施期間:2018年度~2019年度

※2 アノテーション
あるデータに対して関連する情報(メタデータ)を注釈として付与すること。今回のアノテーションでは、空撮画像の一部分であるさまざまな物体の画像に対して、それが遭難者であるかないかという生徒の判断を注釈として付与した。大勢の生徒がアノテーションを行ってAIに学習させることにより、それが集合知となり、空撮画像からAIが遭難者を捜索することができるようになる。