ドローンを使用した花粉飛散防止剤の散布試験

 2020年2月17日、ヤマハ発動機は花粉飛散防止剤の散布試験に同社のドローン機体「YMR-08」が使用されたことを発表した。

昨年秋に行われた花粉飛散防止剤の散布試験の様子

 画像は、2019年9月末に浜松市の静岡県森林・林業研究センターで行われた散布試験の模様である。この日は、農薬散布等で実績のある当社製のドローンに名古屋大学の開発による特殊なノズルを装着し、より高効率な薬剤散布を目指した比較試験が行われた。
 「天竜美林と呼ばれるこの地域のスギ林は、日本三大人工美林の一つとされる一方で、周辺地域に飛散する花粉の量も全国のトップクラスである。花粉の少ない品種への植え替えなども始まっているが、その効果が得られるまでに50年以上かかる」と東京農業大学(国際農業開発学科)の小塩教授は述べている。「じつは私も浜松市北部の出身ですが、地域が抱える課題の解決に向けて、同じエリアで事業を展開するヤマハ発動機との連携は意義のあること。ピンポイントの散布にはドローン、より広い範囲の散布には産業用無人ヘリコプターと、各種ヤマハ製品の使い分けも想定しています」と話した。

期待の高まりと、実用化への課題

雄花のついたスギを持つ小塩教授

 「日本には、九州の面積にも匹敵する約450万ヘクタールものスギ林が存在します。地球温暖化と相まって、今後も花粉の飛散量は増え続けていくでしょう。特に若年層では6割以上が花粉症に悩まされているとされる中、この時期に入試を迎える生徒たちは本当に気の毒です」と小塩教授。小塩教授は、スギ花粉が社会問題化した1990年代前半からその対策の研究に取り組み続け、およそ四半世紀におよぶ試行錯誤の末、民間企業との連携により植物性油脂由来の界面活性剤を主成分とする花粉飛散防止剤(農薬)の開発に成功した。

 「8月末から10月の初旬にスギの若い雄花に散布すると、雄花だけが枯れて翌年春の花粉の飛散量を大幅に抑えることができます。人体に影響がないことは実証済みで、花粉を作らせないことによって、木の生育や木材の品質に好影響を与えることもわかっています」とのこと。

 花粉飛散対策の特効薬。そうした期待が高まる一方で、実用化に向けてはまだ課題もある。「たとえば私有林。全国のスギ林の所有者に理解を得ることも大切ですし、なにより経済的な負担を抑えた効率的な薬剤散布技術の確立も欠かせない要素です」

 発生源で花粉を半減させることができれば、都市部での飛散量はさらに低減されると考えられている。「スギは、日本書紀にも記されている古来からの日本の宝。伐採に頼ることなく、花粉だけをやっつけるモデルをこの地域で確立して全国に広げていきたい」と、実用化に向けて強い意欲を示している。

散布試験に用いられた「YMR-08」

▼製品詳細
https://www.yamaha-motor.co.jp/ums/multi/