2019年12月9日、金沢工業大学 工学部航空システム工学科 赤坂剛史研究室と、情報工学科 中沢実研究室は、金沢エンジニアリングシステムズ、並びに組込みシステム技術協会(以下、JASA)と共同で、固定翼を持つ無尾翼小型VTOL(垂直離着陸機 *1)の試作機を開発したことを発表した。離島や山間部での小口輸送を想定したもので、トラブル時には安全に着陸できる適用制御も実装している。
 金沢工業大学白山麓キャンパスで実験を重ね、白山麓での薬などの輸送手段としての活用も視野に入れている。

 機体の製作レシピは、最終的にはオープンソースとして公開し、産業用国産ドローン市場の育成への寄与を目指している。安全で持続可能な輸送システムや、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(*2)の実現を掲げる国連SDGsの達成にも貢献できるものとして、大きな期待が寄せられているという。

*1 VTOL:Vertical Take-Off and Landing Aircraft、垂直離着陸機
*2 ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ:すべての人が保健医療サービスを享受すること

試作機のデモ動画(金沢エンジニアリングシステムズ)

共同研究の概要

 日本におけるドローン市場はほとんどが中国のDJI製で、国産の産業用ドローンの市場は実はまだなく、多くは実証実験段階にとどまっている。また、ドローンは操縦者が肉眼で見える範囲外では危機回避が行えず、さまざまな規制の対象となっている。

 昨年(平成30年)7月、「移動するIoT」をテーマにドローンを使った小口輸送の研究に取り組むJASAが金沢工業大学でドローン自作講習会を開催したことがきっかけとなり、金沢工業大学との共同研究が本格的にスタートした。

 一般的なマルチコプタードローンの研究は多岐にわたり行われているが、時間や距離に限界が多いといった課題が指摘されている。一方、固定翼ドローンは遠くまで飛ばすことが可能であるが、国内では飛ばせる環境がなかなか確保できないことから、研究開発は殆どなされていない。金沢工業大学には実証実験キャンパスとして整備された白山麓キャンパスがあり、ドローンを使ったさまざまな実証実験が可能である。

 研究チームでは、離島・山間部の小口輸送を念頭に、固定翼を持つ無尾翼VTOLの研究開発に取り組むことにした。垂直離着陸のため滑走路は不要。500gの荷物を3km先に運べる仕様とし、最終的には白山麓における薬の輸送等での活用も目指している。また、飛行中にトラブルが発生し墜落しそうになった場合には、状況にあわせて制御し、安全に着陸させる適応制御の開発・実装も行なう。

 ドローン制御の知見が豊富な航空システム工学科の赤坂研究室と、飛行制御など制御プログラムを得意とする情報工学科の中沢研究室が学科の枠を超えて連携し、地元企業で宇宙研究開発機構(JAXA)のドローンの運行管理システムに技術協力を行っている金沢エンジニアリングシステムズと、自動車産業を中心に組込みシステムで実績のあるJASAが参画する。

 制作レシピは最終的にはオープンソースとして公開し、国産ドローン産業の育成に寄与する。

担当の概要
航空システム工学科 赤坂研究室機体設計、ペイロード500gを3km運ぶ機体の製作、適応制御のアルゴリズム設計
情報工学科 中沢研究室(基礎実技教育課程:西川幸延教授)適応制御の実装、シミュレーション環境の構築
金沢エンジニアリングシステムズドローンにおける機能安全の制度設計、オープンソース化支援など
組込みシステム技術協会(JASA)設計に係る材料、費用等の提供、機能安全の情報提供など