ドローンの機体開発を行っているエアロネクストは、同社が開発した新技術「4D Gravity」を搭載した、360度VR撮影ドローン「Next VR」と、宅配用途向けドローン「Next DELIVERY」を3月中旬に発表。そしてこれらのドローンを、3月22日から千葉県千葉市の幕張メッセで開催されたJapan Drone 2018に展示し、実際にNext VRが飛行する姿を初めて一般に披露した。

カメラや荷物を積んでも重心を変えないことで生まれるメリット

 今回公開された2機のドローンは、いずれもエアロネクストが開発した「4D Gravity」という技術を採用している。これは同社が“重心制御”と呼んでいる飛行中のドローンの重心を最適化する技術で、ドローンの重心を機体の姿勢や搭載物によって変化させないというのが最大の特徴だ。これによりモーターの負荷を均一化、さらには負荷を減少させ、結果としてモーターの電力消費を抑えることができ、飛行時間の延長、さらには信頼性の向上といったメリットを生むという。

 例えば、一般的なドローンが前後左右に進む場合、進行方向のローターの回転数を下げ、逆に後方のローターの回転数を上げることで、機体を進行方向に傾ける。機体の下にカメラやセンサーなどの積載物を懸架する形で搭載するドローンの場合、こうした搭載物と機体を合わせた重心が機体の重心からずれていると、傾けた機体を戻そうとする力が働くため、回転数が高い方のローターは高い回転数を維持しなければならない。

 4D Gravityを採用したドローンは、搭載物と機体の重心が常に一致しているため、こうした搭載物による機体の傾きを戻そうとする力が理論上発生しない。そのため、一般的なドローンのように機体を傾け続けるために、進行方向後方のローターの回転数を高めておく必要がない。結果としてモーターのスペックを下げることができ、ひいてはバッテリーの消費を抑えることができるのである。

一般的なドローンの場合、搭載物と機体を合わせた重心が、機体の重心とずれているため、機体を傾けると、傾きを戻そうとする力が働く。そのため、傾き続けるためには高くなった方(進行方向後方)のローターは、高い回転数を維持する必要がある
4D Gravityを採用したドローンの場合、機体を傾けても搭載物の重さは常に重心にぶら下がるようにかかるため、機体の傾きを戻そうとする力は働かない。そのため一度機体を傾けてしまえば、進行方向前後のローターの回転数を違わせる必要がない。

 また、一般的なドローンの機体の傾きを戻そうとする力は傾きが大きいほど強くなるため、あまり機体を傾けることができない。一方、4D Gravity採用のドローンはこうした傾きを戻す力が理論上発生しないため、大きく機体を傾けることも可能で、ひいてはドローンのスピードアップにもつながるというわけだ。そのほか、機体を傾ける動きに搭載物の重量は理論上無視できるため、機敏な動きができたり、重心が変化しないため横風などに対して強く、安定した飛行ができるといったメリットがあるという。

バッテリーの位置で荷物の重量を相殺して重心を変えない

 今回発表された4D Gravityを採用したドローンは「Next VR」と「Next DELIVERY」の2機。このうちNext DERIVERYは将来の物流を想定したドローンで、運ぶ荷物のコンテナを機体の下に一軸ジンバルを介して搭載する。そしてこの荷物の重量のカウンターウェイトとして、飛行用電源を供給する機体のバッテリーを利用するのが特徴だ。

 バッテリーは機体に対して斜めに配置されたガイドレールに搭載されていて、機体の中心から外側に向かってスライドすることが可能。荷物が搭載されている際にはバッテリーを外側に配置し、荷物がなくなるとバッテリーを機体中心側に移動させることで、荷物とバッテリー、そして機体を合わせた重心を、機体の動きの重心から外さない仕組みとなっている。

物流用ドローン「Next DELIVERY」。現在は機体下の箱を脱着する形で荷物を搭載。その主さと釣り合うようにバッテリーの位置を機体中心部に近づけたり遠ざけたりする。

 展示されていた機体では機体下部のハンガーに、荷物に見立てた箱を貼り付ける形となっていて、スライドするバッテリーは荷物の有無に応じて都度、手で位置をずらす必要がある。しかし、将来的にはこのバッテリーの位置をフライトコントローラーの制御によって、リアルタイムにバッテリーの位置を動かして、重心を適切な位置にくるよう制御するという。また、一軸ジンバルによって飛行中は荷物の水平が保たれる仕組みのため、医療機器や精密機器、食事のデリバリーといった、傾いては困る荷物の配送に向いている。

どんな機体の動きでもカメラを積んだ“棒”は垂直のまま

 もうひとつのドローンは360度VR映像の撮影が可能な「Next VR」で、機体の上下に360度VR映像を撮影するカメラの2つのレンズを搭載している。特徴的なのはそのカメラの積み方で、機体を貫通する垂直な棒があり、その棒の上下先端に、上向きと下向きのカメラを搭載。この2つのカメラが撮影した映像をスティッチすることで、360度映像が得られるというものだ。

360度VR撮影ができる「Next VR」。機体中心部に大きなモーターを備えたジンバルが見える。現在は試作段階ということもあってスキッドを装備しておらず、専用のラックに離着陸する。

 Next VRは飛行中、この棒が常に垂直を保っているのがポイントだ。棒は機体の重心位置でモーターを介して機体にマウントされていて、機体が前後左右に動いてもモーターによって垂直が維持される。ポイントは棒が重心位置にマウントされていて、その慣性を重心で受け止められることもあって、機敏な動きに対しても極めて安定していることだ。

 一般的なドローンの場合、360度カメラに限らず機体下のジンバルにカメラが取り付けられている。カメラやジンバルが機体の重心から離れた位置にあることもあって、機体が前進から後退に動きを変えるといったようなときに、映像に影響が出やすいという。これに対してNext VRは、そういった影響がないというのが最大のメリットだ。

機体の傾きが大きくなってもカメラを積む棒は垂直のまま。急な方向転換でも棒がぶれるようなことはない。

 また、360度カメラの2つのレンズの間に機体が位置するレイアウトなので、機体がまったく写り込まない。また、機体を大きく傾けてもローターや機体が写り込むことがなく、従来の一般的なドローンと360度カメラとの組み合わせでは実現できなかった撮影ができるというメリットもある。

フライトショーケースでNext VRのメリットを語るドローングラファの田口厚氏。「機体が写り込まないというのが新しくて面白い」と話していた。

 Next VRは、Japan Drone 2018のフライトショーケースでその飛行を一般の来場者の前で初めて披露した。機体が大きく傾くような高速で水平方向への移動から、逆に戻るような動きでも、360度カメラを載せた棒はまったく垂直の姿勢を乱すことなく飛行する様子に、ケージを取り囲む来場者は感嘆していた。

Japan Drone 2018のフライトショーケースで披露されたNext VRのデモフライト。